うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
狂者どもとの戦いを終え、某(それがし)たちは城の広間に集まり、戦果の報を聞いていた。
もっとも、得たものなどなにもない。
倒した相手も、傷ついた兵も、どちらも同じ国の民なのだから。
報告の沈んだ声からも、沈んだ想いが感じられた。
「……東の二地区が壊滅、四地区が半壊されました。
死者の数はわかっているだけで四二。
軍の被害は五名ですが、重軽傷者は三〇を越えます。
民に不安が広がるのを避けるため、詳細は伏せておりますが、
いつまで隠しきれるものかは――」
「……それで、なにかわかった事は」
「は、はい、それが、
奇妙な外套(アペリュ)をまとった死骸は
いくつか見つかったのですが、
身元を示すようなものは何一つ身につけておらず、
果たして関係があるのか、否かも、
見当のつかぬ状態でありまして……」
「これー」
カトゥマウ殿の言葉にアルルゥが反応する。
どこから持ち出してきたのか、話題に上がった外套(アペリュ)を振り上げていた。
黒い生地に施された赤い刺繍は、炎を模(かたど)ったものだろうか。
雨風から身を守るためというよりは、どこか儀礼的な意味合いを感じさせる造りだ。
もっとも、重ねられた打撃斬撃によりズタボロにされた状態では、その推測が正しいのか確かめようもないが。
ひょこひょこと揺れるアルルゥの態度が気に障りでもしたのだろう。
デリホウライ皇が苛立たしげに席を立つ。
「もうよいっ。被害地区の復旧に人を当てろ。
調査は最優先だ。
この跳梁、我らへの宣戦布告と考えろっ」
「は、はい」
そして足早に立ち去っていった。
後ろに老文官を従えたその態度は、戦の時よりよほど落ち着きがない。
「皇(オゥルォ)としての器があるかはわかりませんけど、
あまりこういったことには向いていませんわね、
叔父さまは」
「そ、そんなことはありませんよ。
デリホウライ様なら、
きっとなんとかしてくださいます」
クイナ殿が擁護の言葉を並べるが、あまり力は感じられなかった。
居並ぶ他の面々からも、同意の声は聞こえてこない。
事態の解決を考えるならば、独自に動いた方がよさそうだ。
「とりあえずニコルコ。
その外套(アペリュ)は預けとくよ。
なにかわかったら教えとくれ」
「ハイハイ、おまかせを。
せめてこういうところで
お役に立たせていただきます、ハイ」
「アルルゥも。
アルルゥも考えた。
手伝って」
「え?
わ、わたしが、ですか?」
はりきるニコルコに触発でもされたのか、アルルゥがクイナ殿の袖を引いていた。
なぜだろう、ロクでもない事が起きそうな気しかしない。
湧き上がる漠然とした不安を、しかし口にする事もできず、某(それがし)は活気つき始めた場を、ただ静かに眺めていた。