うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
『ティティカルオゥル』に与えられた一室に、カリンが遊びにきた。
ここ数日ですっかり腰巾着と化したニコルコを伴い、やたらと上機嫌な笑顔を引っ提げて。
「みなさん、手伝ってくださる?」
そう唐突に問われても、
「なにを?」
と答えるぐらいしかできないではないか。
こちらの困惑を気にする事なく、カリンは饒舌に続けていく。
「もちろん、敵の討伐をですわ。
数は少ないようですから、
一気に殲滅してしまいましょう。
時間をかけて逃げられても意味がありませんから」
「い、いや、
ちょっと待て」
「なんですの?」
「いや、なんでもなにも、
討伐? 殲滅?
一体なにを――」
「なにを呆けていますの?
魔薬の元締めに決まっているじゃありませんか」
「……本拠がわかったのかっ?」
「ええ。
ニコさんが調べてきてくださいましたので」
「ニコルコが?」
「ハイハイ。
働かせていただきました」
ニコルコが揉み手をしながら胸を張る。
なんとも器用なものだが、胡散臭さは相変わらずだ。
不審を露(あらわ)にする某(それがし)のまなざしは、基本的に気にされる事はないのだろう。
「というわけで、
さすがにわたし一人では少しばかり手間なので、
みなさんにお手伝いしていただこうと」
「いやいやいやっ。
敵の本拠が割れているのなら、
デリホウライ皇に報せなければ――」
「もう。
わたしたちだけでやるんです。
なんのためにここに来たと思ってますの?」
カリンの饒舌は、ティティカ姉に遮られるまで止まることはなく、
「うーん、でも、
それはさすがにねぇ。
皇(オゥルォ)を蔑(ないがし)ろにするわけにゃいかないだろ。
あんな性格だし」
「あんな性格だからですわ。
叔父さまに伝えても正面から攻めこむだけ。
きっと取り逃がしますもの」
それも、簡潔な理由によって一蹴されていた。
考えてみれば酷い言い様だが、先頭に立って戦う皇(オゥルォ)の姿を思い出すと、擁護する言葉が思い浮かばない。
沈黙を肯定と受け取ったのだろう。
カリンは言葉を続けていく。
「問題は、どうやって城から抜け出すかですわね。
一人ずつでは時間がかかりすぎますし」
「それだったら、
地下水路を使えばいいよ」
カミュとアルルゥの相槌が、提案に勢い与えた。
「地下水路?
そんなものが、この城にありますの?」
「うん、あるある」
「ん。前に忍びこんだ」
「……お前ら、昔からなにをやってたんだ?」
某(それがし)の率直なつぶやきは、やはり聞かれもしない。
「となれば、
後は迅速な行動あるのみですわね」
「やるなら早い方がよかろう。
この手の情報は流れるのが速い」
「そうだね。
どっから漏れるか知れたもんじゃない」
「やかましいのが揃っていますからな、ウチは」
「むー、テルテル、
誰のこと言ってるのかな~?」
「ひ、姫さま、僕たちも行くんですか?
まずいですよ。
國師(ヨモル)としての立場というものが……」
「明け方というのはいかがでしょう?
夜更けよりも油断を誘えると思いますが、ハイ」
「いいんじゃないか?
起きるのがしんどいけどね」
「ではそうしましょう。
みなさん、今日は大人しくしていてくださいね。
まあいつもの通りでよいでしょうけど」
「……みなさんがいきなり大人しくなったら、
逆にあやしいですもんね……」
「ムーちん、なにか言った?」
「い、いえ、なにも……」
少し言葉を失っている間に、計画はトントン拍子に決まっていた。
今さら止める事もできないし、まあ止める必要もあるまい。
我ながら、随分と毒されたものだ。
諦観の念を覚えながら、某(それがし)は無言で茶の用意を進めるのであった。