うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・12~ カルラの贈り物・始動

 

『ティティカルオゥル』に与えられた一室に、カリンが遊びにきた。

 ここ数日ですっかり腰巾着と化したニコルコを伴い、やたらと上機嫌な笑顔を引っ提げて。

「みなさん、手伝ってくださる?」

 そう唐突に問われても、

「なにを?」

 と答えるぐらいしかできないではないか。

 こちらの困惑を気にする事なく、カリンは饒舌に続けていく。

「もちろん、敵の討伐をですわ。

 数は少ないようですから、

 一気に殲滅してしまいましょう。

 時間をかけて逃げられても意味がありませんから」

「い、いや、

 ちょっと待て」

「なんですの?」

「いや、なんでもなにも、

 討伐? 殲滅?

 一体なにを――」

「なにを呆けていますの?

 魔薬の元締めに決まっているじゃありませんか」

「……本拠がわかったのかっ?」

「ええ。

 ニコさんが調べてきてくださいましたので」

「ニコルコが?」

「ハイハイ。

 働かせていただきました」

 ニコルコが揉み手をしながら胸を張る。

 なんとも器用なものだが、胡散臭さは相変わらずだ。

 不審を露(あらわ)にする某(それがし)のまなざしは、基本的に気にされる事はないのだろう。

「というわけで、

 さすがにわたし一人では少しばかり手間なので、

 みなさんにお手伝いしていただこうと」

「いやいやいやっ。

 敵の本拠が割れているのなら、

 デリホウライ皇に報せなければ――」

「もう。

 わたしたちだけでやるんです。

 なんのためにここに来たと思ってますの?」

 カリンの饒舌は、ティティカ姉に遮られるまで止まることはなく、

「うーん、でも、

 それはさすがにねぇ。

 皇(オゥルォ)を蔑(ないがし)ろにするわけにゃいかないだろ。

 あんな性格だし」

「あんな性格だからですわ。

 叔父さまに伝えても正面から攻めこむだけ。

 きっと取り逃がしますもの」

 それも、簡潔な理由によって一蹴されていた。

 考えてみれば酷い言い様だが、先頭に立って戦う皇(オゥルォ)の姿を思い出すと、擁護する言葉が思い浮かばない。

 沈黙を肯定と受け取ったのだろう。

 カリンは言葉を続けていく。

「問題は、どうやって城から抜け出すかですわね。

 一人ずつでは時間がかかりすぎますし」

「それだったら、

 地下水路を使えばいいよ」

 カミュとアルルゥの相槌が、提案に勢い与えた。

「地下水路?

 そんなものが、この城にありますの?」

「うん、あるある」

「ん。前に忍びこんだ」

「……お前ら、昔からなにをやってたんだ?」

 某(それがし)の率直なつぶやきは、やはり聞かれもしない。

「となれば、

 後は迅速な行動あるのみですわね」

「やるなら早い方がよかろう。

 この手の情報は流れるのが速い」

「そうだね。

 どっから漏れるか知れたもんじゃない」

「やかましいのが揃っていますからな、ウチは」

「むー、テルテル、

 誰のこと言ってるのかな~?」

「ひ、姫さま、僕たちも行くんですか?

 まずいですよ。

 國師(ヨモル)としての立場というものが……」

「明け方というのはいかがでしょう?

 夜更けよりも油断を誘えると思いますが、ハイ」

「いいんじゃないか?

 起きるのがしんどいけどね」

「ではそうしましょう。

 みなさん、今日は大人しくしていてくださいね。

 まあいつもの通りでよいでしょうけど」

「……みなさんがいきなり大人しくなったら、

 逆にあやしいですもんね……」

「ムーちん、なにか言った?」

「い、いえ、なにも……」

 少し言葉を失っている間に、計画はトントン拍子に決まっていた。

 今さら止める事もできないし、まあ止める必要もあるまい。

 我ながら、随分と毒されたものだ。

 諦観の念を覚えながら、某(それがし)は無言で茶の用意を進めるのであった。

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