うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・16~ カルラの贈り物・始末

 

「……まったく、

 余計な事ばかりしでかしてくれるな、

 貴様らは」

 神代の森より帰還した某(それがし)たちを迎えたものは、不機嫌極まりないデリホウライ皇の言葉であった。

 いや、言葉ばかりではない。

 態度も、表情も、まなざしも、まるで敵を前にしたような険悪さだ。

 国賊を討ち果たしたという朗報を告げられたにも関わらず、武官文官が集められた謁見の間は、奇妙な緊張に包まれていた。

「敵を発見したのならば、

 なぜ俺に報告しなかった」

「ですから、その暇がなかったと

 言っているではありませんか。

 何度も何度も、しつこい男ですわね」

「カリン、お前は……」

「デ、デリホウライ皇。

 どうかご容赦を。

 みなさんも我が国の行く末を案じ、

 自らの危険も顧みず

 怨敵を討ち果たしてくださったのです。

 ここは労(ねぎら)いの一言も……」

「黙れカトゥマウ!

 皇(オゥルォ)を蔑(ないがし)ろにするような輩(やから)に

 かける言葉などあるかっ」

 デリホウライ皇の怒りはもっともだ。

 一国の主という立場から見れば、某(それがし)たちの行動は、ただの独断先行に過ぎない。

 甘んじて鋭い視線を受け止める。

 まなざしは皇(オゥルォ)というより、一人の戦士のものだったが。

「……灰色熊(グルィボゥ)の首を落としたのは

 貴様だそうだな、タイガ」

「は、はい。

 皆の功の結果でありますが。

 差し出がましい真似を致しました。

 決して皇(オゥルォ)を軽んじたわけではなく、

 その、賊どもを逃さぬ一心からの行動でして……」

 叱責に答える声が、いつの間にかしどろもどろになっていた。

 もともと嘘は得意でない。

 後ろめたさを抱えた相手に対しては、なおさらだ。

 言葉を重ねられては、どのようなボロを出すか知れたものではない。

 だが、恐縮する某(それがし)から、デリホウライ皇はあっさりと興味を逸らした。

「フン……

 残党がまだ潜伏しているだろう。

 カトゥマウ、街の警戒を強化し

 即日の内に対処しろ。

 頭を失った連中を相手に

 これ以上の手間を取るなよ」

「は、はい。

 仰せのままに」

「カリン、この場はお前が始末をつけろ。

 これ以上はつきあいきれん」

 そして怒りの形相から一転、落ち着いた口調と態度を示し、席から腰を上げていた。

 呆然と見送る一同の中、女官一人がその後を追う。

「デ、デリ様……

 申し訳ありません、みなさん。

 本当に、ありがとうございました」

 慌しく消えていくクイナ殿の足音を聞きながら、某(それがし)もまた呆けた顔を晒していた。

「しかたのない叔父さまですわね」

「皇(オゥルォ)としては

 素直になるわけにもいかないんだろ」

 声をなくした間の中で、二人だけがいつものまま。

 カリンとティティカ姉は互いに顔を見合わせ、小さく肩を竦(すく)めていた。

 日常を感じさせるその挙動に、次第に雰囲気がほぐれていく。

「まあいいですわ。

 さ、みなさん」

 それは、振り返ったカリンの笑顔をきっかけに。

「今日は宴と参りましょう」

 静かに、しかし和やかに、喜びの色を広げていった。

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