うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「『怨(オン)』を集める石については調べてみました。
怨石(オゥ・カゥン)というものは
確かに存在するようです」
オンカミヤムカイへの帰路の途上、一息ついた川辺の一角にて、某(それがし)たちはムティ殿の講釈を聞いていた。
カルラゥアトゥレイの森深くで聞かされた、ラクシャインの言葉の真偽を確かめるためだ。
長い言葉をせせらぎに乗せて連ねゆくムティ殿は、どこか楽しげに見えた。
「オンカミヤムカイの書庫にも
断片的な記録しかなかったのですが、
地獄(ディネボクシリ)への門を開く鍵、
というような記述もありました。
ラクシャインという方が語った話と、
その点では一致しますね」
「そうなんだ。
ムティは勉強家だよねー」
「……姫さまも
一緒に探したはずですが」
「え? あれ?
そうだったっけ?」
カミュのごまかし笑いに向けられる目の平たいこと。
カルラゥアトゥレイ同様、オンカミヤムカイも、手腕優れた家臣の労で成り立っているのかもしれない。
どこか間の抜けた昼下がりの空気はしかし、
次の一言で一変した。
「……ムティ。
それは、人の身が変じて生まれるものなのか?」
リネリォ殿の冷たい声は、氷のようなまなざしと相まり、場を一瞬で凍りつかせた。
「す、すみません。
そこまでは僕には調べきれなくて……」
「そうか。
やはりな」
怯えた返答に、リネリォ殿は一人納得の頷(うなず)きを見せる。
「リネリォ殿?」
「真実を混ぜる事で信憑性を高めてみせる、
人を偽る者が使う常套手段だ。
卑劣な……
やはり、奴の語りなど信用できん」
「そ、それは穿(うが)ちすぎなのでは。
某(それがし)には、彼が偽りを口にしていたようには
思えませんが――」
「あのような世迷言、
信ずるに値するものか!」
「あ、姉上」
冷静な言葉から一転、立ち上がったリネリォ殿は激昂の叫びを一つ残し、場から歩み去っていた。
追うテルテォの声にも耳を貸さず、肩を怒らせ足早に。
怨敵の語った救いようのない悲劇を、そう簡単には受け入れられないのだろう。
直接の関わりを持たぬ某(それがし)ですら、身の毛がよだつ地獄(ディネボクシリ)。
その光景を目の当たりにした者として、滾(たぎ)らせていた復讐の念を向ける先を見失っているのだ。
苛立ちの想いは理解できる。
それだけに、やるせない。
「リネリォ殿……」
「……リネリォ姉様」
某(それがし)は、眉をひそめたカミュと共に、しばしその先を眺め続けていた。