うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
夜、食事を終えた『ティティカルオゥル』の一同は、カリンに誘われ、一つの輪を作っていた。
囲んでいるのは、小さな椀と二つの賽(さい)。
軽やかな響きが鳴る度に、一喜一憂の声が湧く。
丁半を競うだけの単純な勝負だが、始めはお遊び半分だった雰囲気も、金品を賭けるに至り、妙な真剣さを孕んでいった。
他ならぬ某(それがし)こそが一番に、だ。
エヴェンクルガにあるまじき浅ましさだとはわかっていたが、負け続けでは誇りが許さなかった。
「半だっ」
「ではわたしは丁で」
「双方文句はないね?
いざ……
はい、五一の丁だ」
「う……」
「おー、またカリリンの勝ちだー」
「トラの負け。
十九回連続」
「ぐむ……」
やいのやいのと騒ぐ周囲の声を聞きながら、脱いだ袴を投げ捨てる。
これで身は褌(ふんどし)一丁となった。
恥晒しもよいところだが、ここまできて後には退けない。
妙に盛り上がる観客の中、アルルゥの目だけはいつも通り平坦だった。
「トラ、もうあきらめる。
トゥラミュラなんだから」
「うるさい!
人を禍日神(ヌグィソムカミ)よばわりするなっ」
「うーん、
でも、ホントに憑いてるからなぁ……」
「ティティカ姉さま、
イカサマでもしてますの?」
「いや、ヒラだよ。
やるならもう少し割り振るさ」
「はあ。
本当に勝負運がないんですのね」
「ええい、最後の勝負だ!」
勢いに押されるがまま最後に残った品を、己の半身とも呼べる愛刀を賭けていた。
軽い驚きを見せながら、それでもカリンは余裕の笑みを崩さない。
「本当にいいんですの?
武士(もののふ)の魂でしょう?」
「トラ、やめといたほうがいい」
「そうだよトラちゃん。
勝てっこないんだから」
「なんなら褌(ふんどし)賭けてもいいけどね」
「ええい、武士(もののふ)に二言はないっ。
丁だ!」
「では、わたしは半で」
無責任な煽りの中、最後の勝負が始まった。
振り壷がわりの小さな椀に放りこまれた二つの賽が、地に触れ軽やかな音を立てる。
瞬間、漲(みなぎ)る緊張感。
「それじゃあ、いいかい?
せーのっ……」
戦場で敵を見るようなまなざしに見守られ、持ち上げられた椀の中身は――
「「「っ!」」」
……まあ、皆の予想通りであった。
この後、刀を取り戻すために課せられた屈辱的な労務は……思い出したくもない。
もう二度と賭け事に手は出さぬ。絶対にだ。
「そういう方ほどのめりこむのですけどね」