うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・28~ トウカ参上・展望

 

「失礼します。

 茶をお持ちしました」

「おお、タイガ。

 ちょうどよい。

 ここに座れ」

 茶を持ち参じた一室で、トウカ姉に呼び止められる。

 神妙な面持ちで端座しているその前には、ティティカ姉とリネリォ殿が座していた。

 この二人が相手となると、なにかただならぬ話かも知れぬ。

 居住まいを正し、トウカ姉の隣に座りついた。

「なんでしょう?」

「お二方と少し話しあっていてな。

 どうでしょう、

 率直なところ、こやつの展望は」

「はい?」

 気を張っていたせいか、半身を崩してしまった。

 本人を前にして、なにを聞いているのだ、この人は。

 だが、気にならぬわけではない。

 他者の言葉に振り回されるなど未熟者の愚挙に他ならぬが、この二人の見識となれば、無碍(むげ)にもできないだろう。

 わずかな緊張を覚え、言葉を待つ。

「うーん、

 まあ、心配はないんじゃないかね」

「そうだな」

「ティティカ姉、リネリォ殿……」

 返された答えに、ホっと息を吐いていた。

 嬉しくもある。やはり、二人は日頃の某(それがし)を正しく見てくれていたのだと。

「なんたってメシが上手いからね。

 包丁一本あればどこに行っても

 やってけるんじゃない?」

「は?」

 ――だが、茶をすすりながら続けられる両者の会話は、なにか期待から外れていた。

「うむ。

 炊事洗濯と、どれもそつなくこなすしな」

「い、いや、リネリォ殿?」

 ティティカ姉はともかく、表情を崩さぬリネリォ殿からは、冗談の響きがまったく感じられない。

 応じるトウカ姉もまた、なにを真剣な顔でうなずいているのだろう。

「ふむ。

 そちらの腕は落ちていないのですな。

 昔から家庭的な子でしたが」

「落ちてないどころか、

 ますます冴えてきたね、最近」

「まったくだ。

 丁稚としてなら、どこに行っても上手くやるだろう」

「あの、武士(もののふ)としての展望は――」

「「それは現実味がないな」」

 思わず挟んでいた問いは、最後まで聞いてすらもらえなかった。

 その速さ、トウカ姉の剣閃をも凌ぐやもしれぬ。

「なるほど。参考になりました。

 タイガ、お前からも礼を……

 なにをしている。無礼だぞ」

「……少し、放っておいてください……」

 自分でも気づかぬ間に床へと崩れ伏していたが、それもしかたないではないか。

 だくだくと流れる目からの水は、無情なほどに冷たかった。

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