うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「失礼します。
茶をお持ちしました」
「おお、タイガ。
ちょうどよい。
ここに座れ」
茶を持ち参じた一室で、トウカ姉に呼び止められる。
神妙な面持ちで端座しているその前には、ティティカ姉とリネリォ殿が座していた。
この二人が相手となると、なにかただならぬ話かも知れぬ。
居住まいを正し、トウカ姉の隣に座りついた。
「なんでしょう?」
「お二方と少し話しあっていてな。
どうでしょう、
率直なところ、こやつの展望は」
「はい?」
気を張っていたせいか、半身を崩してしまった。
本人を前にして、なにを聞いているのだ、この人は。
だが、気にならぬわけではない。
他者の言葉に振り回されるなど未熟者の愚挙に他ならぬが、この二人の見識となれば、無碍(むげ)にもできないだろう。
わずかな緊張を覚え、言葉を待つ。
「うーん、
まあ、心配はないんじゃないかね」
「そうだな」
「ティティカ姉、リネリォ殿……」
返された答えに、ホっと息を吐いていた。
嬉しくもある。やはり、二人は日頃の某(それがし)を正しく見てくれていたのだと。
「なんたってメシが上手いからね。
包丁一本あればどこに行っても
やってけるんじゃない?」
「は?」
――だが、茶をすすりながら続けられる両者の会話は、なにか期待から外れていた。
「うむ。
炊事洗濯と、どれもそつなくこなすしな」
「い、いや、リネリォ殿?」
ティティカ姉はともかく、表情を崩さぬリネリォ殿からは、冗談の響きがまったく感じられない。
応じるトウカ姉もまた、なにを真剣な顔でうなずいているのだろう。
「ふむ。
そちらの腕は落ちていないのですな。
昔から家庭的な子でしたが」
「落ちてないどころか、
ますます冴えてきたね、最近」
「まったくだ。
丁稚としてなら、どこに行っても上手くやるだろう」
「あの、武士(もののふ)としての展望は――」
「「それは現実味がないな」」
思わず挟んでいた問いは、最後まで聞いてすらもらえなかった。
その速さ、トウカ姉の剣閃をも凌ぐやもしれぬ。
「なるほど。参考になりました。
タイガ、お前からも礼を……
なにをしている。無礼だぞ」
「……少し、放っておいてください……」
自分でも気づかぬ間に床へと崩れ伏していたが、それもしかたないではないか。
だくだくと流れる目からの水は、無情なほどに冷たかった。