うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・31~ トウカ参上・商人

 

「くどいっ!」

「ヒえぇ!?」

 城の内を巡回していると、鋭い声に耳を突かれた。

 氷のような叱責は、他者へ向けられたものでも身がすくむ。

 進んだ先では予想の通り、リネリォ殿が雄弁を揮っていた。

 前ではニコルコが小さな体をより縮こめている。

「必要以上にアルルゥ様に近づくな。

 何度言えばわかるのだ、貴様は」

「ハ、ハイ、イエ、エエ。

 そうは申されますがリネリォ様。

 ワタクシも、少しでもお役に立てればと

 考えてのことでして、ハイ」

「その考えが余計だと言っているのだ。

 お前の風体からは、

 なにか邪(よこしま)な気を感じる。

 その薄ら笑いの下でよからぬことを

 企(たくら)んでいるのではあるまいな」

「そ、そんなご無体な。

 この顔は生まれつきのものでして、

 企(たくら)みなんてそんな――」

「とにかく、だ。

 アルルゥ様には近づくなっ。

 わかったな!」

「ひ、ひいぃ?」

 リネリォ殿の気迫におされ、ニコルコは兎のように走り去っていった。

 戦場でも、あそこまで見事な逃げっぷりにはなかなかお目にかかれない。

 よほど恐ろしかったのだろう。

 気持ちはわからなくもない。

 リネリォ殿の言にはまったく異論なかったが、多少の憐れみは禁じえなかった。

「リネリォ殿。

 流石に少し言いすぎだったのではありませんか?」

「む、タイガ。

 ……そうか?」

「ええ。奴も奴なりに団に貢献しようと

 考えてのことでしょう。

 確かに、見た目からして怪しげな男ではありますが、

 そこまで邪険に扱わずとも」

「ほう、寛大な男に成長したものだな。

 アルルゥ様にこのようなものを

 売りつけようとしていたのだが」

「これ、は?」

 差し出された品は、細長い木の箱。

 中には大きな茸と、のたくった文字で書かれた、短い供え書きが入っていた。

「なに……『性転茸(トゥナ・スクル)』?

 「此の茸、魅毒と共に食した者、

 一両日その性を転じるもの也」

 と……」

 ……なるほど。

 アルルゥならば大枚はたいてでも手に入れていただろう。

 そして、どのような手段を用いてでも食させるに違いない。

 誰に、と語る必要があるだろうか。

 肩を震わせる某(それがし)に対し、リネリォ殿はほんの少しだけ口元を上げていた。

「止めぬ方がよかったか?」

「……奴は邪悪です。

 絶対に止めてください。

 いや……」

「おや、どこへ行く?」

「今のうちに止めておいた方が

 後腐れがないかと思いまして……」

 息の根を、とまでは言わずにいたが、なにか目で通じたらしい。

「そうか。城を汚すなよ」

「承知」

 殺伐とした言葉に見送られ、巡回の歩みを再開する。

 さあ、鼠狩りを始めるとしよう……。

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