うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「トウカ様。
お忙しいところをお呼びたてしてしまい
申し訳ございません」
「なにをおっしゃる、ウルトリィ殿。
某(それがし)でお役に立てるのであれば、
なんなりとご用立てください」
「ふふ、ありがとうございます」
オンカミヤムカイの執務の間で、ウルトリィ様とトウカ姉はにこやかに笑いあっていた。
両者の表情からは、互いの立場に対する尊敬の念と共に、個と個の対等な繋がりが見てとれる。
旧知の仲であり、肩を並べて戦った友でもあるという二人の間には、某(それがし)如きには計り知れぬ絆があるのだろう。
「近隣の國師(ヨモル)を召喚する際の護衛、ですか」
「はい。近況を知るためにも
たびたび報は入れさせているのですが、
このような情勢ですので。
エヴェンクルガのトウカ様が
守備の任に就いてくだされば、
その話だけでも強い護りとなるでしょう」
「そこまで買っていただけると光栄です。
確かに、昨今は不穏な気配が
世を覆っておりますから」
「ええ。
私(わたくし)が至らないばかりに。
ハクオロ様から任せられたというのに……」
「それは某(それがし)とて同じこと。
ウルトリィ様は立派に力を尽くしておられる。
世はそうたやすくは動かぬということなのでしょう。
まったく、義に欠ける国が多すぎます」
「そうですか。
トウカ様の目から見ても」
「はい。涙ながらの懇願にうなずき、
一方の軍を潰してみれば、
その後を漁るように侵略を進める始末。
思わず雇い主を討ってしまいました」
それはまた、なんともトウカ姉らしいというか。
エヴェンクルガとして、義に反することはしていないのだろうが……。
「変わっていませんね、
トウカ様は」
「は、これはお恥ずかしいところを。
某(それがし)としたことが」
ほほ笑みあう二人の様子に軽い羨望と、小さな嫉妬の念が湧く。
「どうかしましたか? タイガ様」
「なにを妙な顔をしている」
「……なんでもありません。
某(それがし)は元からこのような顔ですから」
掛けられた声にもまともに答えられない。
表情を硬めたまま、廉恥すらままならぬ自らの未熟に、ますます情けなくなる。
恥じいりながら逃げだすこともできず、トウカ姉の不思議そうな視線とウルトリィ様の笑みに、某(それがし)はただ耐えるよりなかった。