うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
城を巡回していると、弾む会話が聞こえてきた。
静粛荘厳なるオンカミヤムカイにあって、もっとも相応しくない姫君二人の声だ。
華やかなはずのその声に、なぜか妙な悪寒を感じ、思わず足を止めていた。
折れた通路の先から聞こえてくる声に、広げた羽耳をじっと澄ませる。
「カリリンは男の人と話すの上手だよねー。
まだちっちゃいのに」
「お母さまを見て育ちましたもの。
男を手玉に取ることぐらい朝飯前ですわ。
カミュだって、しっかり皆を
振り回しているじゃありませんか」
「そうかな?
もっとちゃんと言うこと聞いて欲しいなあ」
予感通りの不穏な会話に、がっくりと肩が重くなる。
振り回される方としては、これ以上になどなられてはたまらない。
そう想いながらも足は動かなかった。
今までの経験上、口出しして事態がよくなったためしがない。
もうしばらく様子をうかがってみることにする。
「簡単ですわよ。
それだけ立派なモノがあるんですから、
もっと活用すればよいのですわ」
「立派なものって、おっぱい?」
「ええ。
半分ぐらい剥いておけば、
たいがいの殿方は言うこと
聞いてくださいますわよ」
「うーん、それはさすがにちょっと。
一応カミュもオンカミヤムカイのお姫さまだし。
ムントとかムティに閉じこめられちゃいそうだし」
「でしたら、もう少しおめかししてみます?
元がよいのですから、
少し紅を引いただけで
グっと大人っぽくなりますわよ」
「大人っぽく? 本当に?」
「仕草も考えた方がよさそうですわね。
色々と教えてさしあげますわ。
殿方を誘惑する作法も」
「おおー。師匠ー」
……大人びたカミュに迫られる光景を想像し、悪寒が走った。
とても受け流せる気がしない。
だんだん頭が痛くなってきた。
不幸中の幸いは、アルルゥが一緒にいないことか。
あの奸智に色気まで加わった日には……。
「トラ、なにしてる?」
「のあっ?」
直後、後ろからの声に飛び上がる。
振り返れば、たった今脳裏に描いた顔があった。
「ア、アルルゥ?
いや、別に、なにもしていないぞ」
「ふーん」
動揺する某(それがし)を、さして気にする風でもなく、アルルゥはそのまま横を過ぎていこうとする。
今はまだ遠い、会話の聞こえてくる先へ。
「ま、まて。
どこへ行くんだ?」
「ん?
カミュちーとカリリン探してる」
「いやっ、今は止めておいた方が……」
「んむぅ?」
白くなりゆく視界の中で、アルルゥが首を傾げていた。
そして閃く、絶対の妙案。
「いや、その、だな……
そうっ。新しい甘味を作ろうと思ってな。
アルルゥに味を見てもらおうと探していたんだっ」
「むー?
おやつ?」
「うむっ。
ちょっと手伝ってくれ」
我ながら完璧な理由だ。
エヴェンクルガとして偽りに長(た)けるのはどうかと思わないでもなかったが、背に腹は変えられぬ。
「ん。
じゃ、カミュちーとカリリンもいっしょに」
「いやっ、その、材料が少なくてな。
まずはアルルゥに味見をしてもらって、
合格点がでたら皆に振る舞おうと思っているんだ」
「んー?」
疑問と好奇を競わせて首を揺らすアルルゥの肩を掴み、半ば強引に進路を変える。
むろん、近づいてくる会話から逃げる方向へ。
「ふ、二人には後でもっていこう。
な?
今回のは自信作なんだ。
まず、アルルゥに食べてもらいたいっ」
「……わかった。
アルルゥがさいしょにたべる」
「そ、そうしようっ。
それじゃあ行くか」
「ん」
押す力に抵抗なく、アルルゥは厨房への道を辿ってくれた。
さて、どんなものを作ればよいか。
足早に歩みを進めながら、そろそろ破裂しそうな頭の中で、新たな菓子を考え続けていた。