うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・41~ トウカ参上・故郷への道

 

 不穏がいや増す日々の中、『ティティカルオゥル』の一同は謁見の間に集められた。

 トウカ姉も同席している。

 日頃の陽気さは鳴りをひそめ、みな神妙な面持ちをうかがわせていた。

 ウルトリィ様の憂いを前にしては、気を引き締めずにはいられない。

「申し訳ありません。

 急な呼びたてに応じていただき

 感謝いたします」

「お気になさらずに。

 我等、賢大僧正(オルヤンクル)に

 招かれている身ですので。

 なにか大事がありましたか?」

「はい、いえ、ええ……

 そう、ですね……」

 ティティカ姉の問いかけに、ウルトリィ様は少しだけ口ごもった。

 不安を浮かべた表情は、賢大僧正(オルヤンクル)の権威を忘れかけているようにも見える。

 語りかける声も、日頃の調子に近い。

「街にはびこっている不安の程は、

 皆さんもよくご存知だと思います。

 オンカミヤムカイの外においては尚のことだと」

「ええ」

「各国に遣わしている國師(ヨモル)には

 定期的な連絡を徹底しているのですが、

 このような情勢では

 なかなか正確にとはいかぬのが実情。

 皆さんに今一度、

 國師(ヨモル)の護衛をお願いしたいのです。

 ……トゥスクルへの國師(ヨモル)の護衛を」

「トゥスクル、ですか……」

 つぶやかれた国の名に、小さなざわめきが通り抜けた。

 動揺は某(それがし)も同じ。

 訪れたことこそないが、彼の地との関わりは、よく聞き知っていた。

 思わず隣を見る。

 アルルゥは真剣なまなざしをわずかにも動かすことなく、じっと前を見つめていた。

 語るウルトリィ様を、ただじっと。

「東の強国たるトゥスクルには

 オンカミヤムカイ同様、

 周辺の小国や亡国の民が

 流れ着いているそうです。

 内政にも乱れを生じ、

 彼らへの対策にまでは及んでいない、

 という報告もありました。

 本来、国の内政にオンカミヤムカイが

 関与するべきではないのですが……。

 調停者を自認する我々としては

 放置してはおけません。

 カミュ、新たな國師(ヨモル)の務めを、

 貴女にお願いできますか?」

「うん。

 もちろんだよ、お姉様」

「トウカ様にも、

 ご同行をお願いしたいのですが」

「なにを仰(おっしゃ)られるのですか、ウルトリィ殿。

 トゥスクルは我らが故郷も同然。

 むしろ感謝いたします」

「ありがとう、二人とも……」

 カミュとトウカ姉からも、同じ想いが見て取れた。

 アルルゥが父親との思い出を抱いているのと同様に、二人にもそれぞれに深い感情があるのだろう。

 トウカ姉があのように語る姿など、某(それがし)は今まで見たことがなかった。

 後で話を聞いてみよう。

「ティティカ。

 貴方がたには、できうるならば、

 國師(ヨモル)の護衛としてのみならず、

 その、力添えを――」

 歯切れの悪いウルトリィ様の呼びかけに、誰からも異存は上がらなかった。

 皆、告げられた言葉の意は汲んでいる。

 場合によってはトゥスクルに力を貸してほしい。

 ただし、あくまで雇兵団(アンクァウラ)として。

 賢大僧正(オルヤンクル)である彼女にできる、それが精一杯の助力なのだ。

 しかし、オンカミヤムカイの助力は得られない。

 端的に言えば、切り捨てられるわけだ。

 浮かぶ憂いはそのためだろう。

 ただ一介の雇兵団(アンクァウラ)に対し、ウルトリィ様は変わることなく誠実に接してくださる。

 その心配(こころくば)りと信頼こそ誉(ほまれ)。

 国や権威の後ろ盾などより、よほど心強くいられるというものだ。

 元より、アルルゥたちの態度をみれば、制されても行動せずにはいられないのだから。 

「わかりました、賢大僧正(オルヤンクル)。

 雇兵団(アンクァウラ)『ティティカルオゥル』、

 そのお役目、謹(つつし)んでお受けいたします」

 平伏するティティカ姉に倣(なら)い、団員一同も深々と頭を下げた。

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