うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「ちょいと、そこのアンタ」
「ん?」
城の周囲の見回りを終え、正門へとさしかかった所で、横手から呼び止められた。
声を探して視線を下げ、気の強そうな少女を見る。
折り目正しくも華やかな装束。
二つの団子にまとめた髪。
手には大事そうに大きな包みを抱えていた。
淑(しと)やかながらも活動的な印象は、勝気なまなざしによるものか。
見上げているにも関わらず、人を従わせ慣れているように見える。
「某(それがし)に、なにか?」
「アンタになんて用はないよ。
アタシが用があるのはこっちさ。
開けとくれ」
そう言いながら、少女は当然のように横の扉を指していた。
巨大な正面門ではなく、横手に設(しつら)えられた通用口だ。
慣れた様子は実に堂々としたもので、逆に違和感を覚える。
「失礼ですが、
お嬢さんは城の関係者なのですか?」
「誰がお嬢さんだい。
本当に失礼な子だね」
「失礼な、子?」
微妙に会話が噛みあわない。
お嬢さんという呼びかけが気に障ったようなのだが、どう見たって子供ではないか。
身形(みなり)や態度に不審な感じはないのだが、さて、素直に入れてよいものか。
見上げてくる子供に叱られながら途方に暮れていると、通用口から救いの手が差し伸べられた。
飄々とした無骨な手だ。
「どした、ボン。
おや、姫さんも一緒に何用で」
「何用、じゃないだろ。
ほら」
現れたクロウ殿を見て、少女の態度が少しだけ変わる。
抱えた包みを懸命に捧げ持ち、顔だけはあらぬ方に向けた。
機嫌が悪いわけではないようだ。
わずかに頬が染まっているのは、照れているからかもしれない。
「おや、弁当ですかい。
こりゃまた、毎度毎度もうしわけありませんね」
「まったく、いつまで経っても変わりゃしないんだから。
妻をほったらかしにして……」
「ツマ?」
といえば、刺身や焼魚の添え物――ではなさそうだ。
真っ先に思いついた通り、伴侶という意味だろう。
しかし……。
改めて二人を見る。
嬉しそうなクロウ殿に弁当を手渡す少女の姿は、なるほど、新婚の夫婦(めおと)のように見えなくもない。
二人の身丈が四倍ほども違わなければの話だが。
「……クロウ殿は、
そういう嗜好の方なのですか」
「いや、籍を入れてるわけじゃないんだけどな。
若返りだかなんだかの薬を飲んで押しかけられて」
「押しかけたとはなんだい。
こういう方が好きなんだろ、アンタは」
「どこからそういう話がでたんですか。
俺は別に前のままの姫さんでも構いませんでしたぜ?」
「な、なにを今さら、
調子のいいことを……」
「本当ですって。
今なら老け方も相応になったでしょうし」
「にゃもー!」
奇妙な声を上げながら、少女はクロウ殿の尻を蹴り飛ばした。
語り聞いているアルルゥの父上といい、どうもこの国は性風俗が相当に乱れているらしい。
じゃれあうクロウ殿と少女の様に、前々からの疑念は確信へ変わった。