うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第三幕・51~ トゥスクルの動乱・慣習

 

「ちょいと、そこのアンタ」

「ん?」

 城の周囲の見回りを終え、正門へとさしかかった所で、横手から呼び止められた。

 声を探して視線を下げ、気の強そうな少女を見る。

 折り目正しくも華やかな装束。

 二つの団子にまとめた髪。

 手には大事そうに大きな包みを抱えていた。

 淑(しと)やかながらも活動的な印象は、勝気なまなざしによるものか。

 見上げているにも関わらず、人を従わせ慣れているように見える。

「某(それがし)に、なにか?」

「アンタになんて用はないよ。

 アタシが用があるのはこっちさ。

 開けとくれ」

 そう言いながら、少女は当然のように横の扉を指していた。

 巨大な正面門ではなく、横手に設(しつら)えられた通用口だ。

 慣れた様子は実に堂々としたもので、逆に違和感を覚える。

「失礼ですが、

 お嬢さんは城の関係者なのですか?」

「誰がお嬢さんだい。

 本当に失礼な子だね」

「失礼な、子?」

 微妙に会話が噛みあわない。

 お嬢さんという呼びかけが気に障ったようなのだが、どう見たって子供ではないか。

 身形(みなり)や態度に不審な感じはないのだが、さて、素直に入れてよいものか。

 見上げてくる子供に叱られながら途方に暮れていると、通用口から救いの手が差し伸べられた。

 飄々とした無骨な手だ。

「どした、ボン。

 おや、姫さんも一緒に何用で」

「何用、じゃないだろ。

 ほら」

 現れたクロウ殿を見て、少女の態度が少しだけ変わる。

 抱えた包みを懸命に捧げ持ち、顔だけはあらぬ方に向けた。

 機嫌が悪いわけではないようだ。

 わずかに頬が染まっているのは、照れているからかもしれない。

「おや、弁当ですかい。

 こりゃまた、毎度毎度もうしわけありませんね」

「まったく、いつまで経っても変わりゃしないんだから。

 妻をほったらかしにして……」

「ツマ?」

 といえば、刺身や焼魚の添え物――ではなさそうだ。

 真っ先に思いついた通り、伴侶という意味だろう。

 しかし……。

 改めて二人を見る。

 嬉しそうなクロウ殿に弁当を手渡す少女の姿は、なるほど、新婚の夫婦(めおと)のように見えなくもない。

 二人の身丈が四倍ほども違わなければの話だが。

「……クロウ殿は、

 そういう嗜好の方なのですか」

「いや、籍を入れてるわけじゃないんだけどな。

 若返りだかなんだかの薬を飲んで押しかけられて」

「押しかけたとはなんだい。

 こういう方が好きなんだろ、アンタは」

「どこからそういう話がでたんですか。

 俺は別に前のままの姫さんでも構いませんでしたぜ?」

「な、なにを今さら、

 調子のいいことを……」

「本当ですって。

 今なら老け方も相応になったでしょうし」

「にゃもー!」

 奇妙な声を上げながら、少女はクロウ殿の尻を蹴り飛ばした。

 語り聞いているアルルゥの父上といい、どうもこの国は性風俗が相当に乱れているらしい。

 じゃれあうクロウ殿と少女の様に、前々からの疑念は確信へ変わった。

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