うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第一幕・12~ アルルゥといっしょ・都へ

 

 町から伸びる道の上、田畑と森を横手に臨みながら、某(それがし)は重い足を進めていた。

 雇兵団(アンクァウラ)『ティティカルオゥル』の一員として。

 団名を染め抜いた旗をかかげ、傾き者に率いられて練り歩く。

 女子供に珍獣猛獣を取り揃えた一行では、雇兵団(アンクァウラ)というより旅芸人だ。

 すれ違う人々にどのような目で見られているのか、考えるだけで気が滅入る。

 耳を隠して歩きたい。

 気にせずに談笑しながら先を行くアルルゥとティティカ殿の背を見ながら、知らず溜息を吐いていた。

 

 今はウペキエの中心地、ウペクペの都へと向かっている。

 雇兵団(アンクァウラ)の仕事を見つけるのなら大きい街の方がよいと、我らが団長様が提言なされたからだ。

 

 ……心が荒(すさ)んでいるのが自覚できる。

 結局、うやむやのうちに団員に組みこまれてしまった自分の不甲斐なさが理由なので、怒りのぶつけどころもない。

「なに暗い顔してんのさ、

 いい若いモンが」

 しばし足元を見ながら歩いている間に、ティティカ殿が某(それがし)の横まで下がってきていた。

 見事な谷間に視線が吸いこまれ、気づき、慌てて顔を上げる。

 含み笑いの表情が、どうにも底意地悪く感じられた。

「い、いえ。ちょっと、

 いろいろと自省の念に駆られまして……」

「細かいことは気にしない。

 小さいことにこだわってると

 漢の器まで小さくなっちまうよ」

「漢の、器……」

「そうともさ。

 流れに逆らうばかりが

 自分を貫くってことじゃない。

 時には流れに身をおいて、

 その本質を見極めることも重要だろう?」

「……なる、ほど」

 確かに、そうかもしれない。

 世の中にはヒトの身では抗えぬ運命、天命というものもある。

 その中でいかに自らの信念を貫くか、貫き通せるか、それこそが強さというものかもしれない。

 改めて、隣に立つ女性を見る。

 身形こそ傾(かぶ)いてはいるが、佇まいには信念が感じられた。

 決して折れることのない、槍のような信念が。

「そうかも、しれませんね」

 少しだけ晴れた心で視線を返す。

 ティティカ殿の顔にはピンと立った耳も相まって、子狐のような笑みが浮かんでいた。

「だからトラちゃんも、気楽に行こーう」

「ト、トラちゃ……?」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

 某(それがし)の放心を気にもせず、ティティカ殿は言葉を続ける。

「不運不幸も個性のうちさ。

 一日に一度コエダメに落ちるぐらい、

 慣れればどうってこともないだろ?」

「コエ、ダメ?」

「剣の腕はからっきしでも、

 作るメシがうまいならいいじゃないか。

 嫁の貰い手には困らないさ」

「か、からっきし?」

「でも女の子を襲うのはどうかねぇ。

 武士(もののふ)というよりヒトとしてどうよ?」

「おそっ?」

「若いんだから我慢は体によくないけど。

 そういうのはキチンと

 処理しておかないとダメだよ?

 なんだったらアタシが面倒みてあげても――」

「ちょ、ちょっとまった!

 なんだ、その、あることないこと

 メチャクチャな話は!」

 心当たりがあるようでまったくない。

 怒鳴りかけ、それを知っているのが、一人しかいないことに気がついた。

 道の先をキッと睨む。

「あることー、ないことー」

 アルルゥが、ムックルの上で踊っていた。

「お、お前かあー!」

「きゃっほう」

 吼えながら走りだす。

 ムックルの足に敵うわけはないのだが、事はそういう問題ではない。

「いやいやホント、

 退屈しなさそうだね」

 ティティカ殿の笑い声はあっという間に遠ざかり、怒りにまかせての全力疾走は、体力の底が抜けるまで止まらなかった。

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