うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
馳せ参じた合議の間に、しかし将たちの姿は少なかった。
居るのは右往左往する下士ばかりで、政(まつりごと)に関わる者は数えるほどしかいない。
「なんだこの体たらくはっ。
国の大事をなんだと思ってやがる!」
並ぶ高官たちは、憤慨するクロウ殿の一喝に怯(おび)えて身を縮めているような者ばかり。
「人材不足が否めないねぇ」
「情けない限りです。
クロウ、当面の指揮はお任せします。
情勢を見極め、極力被害を出さぬように」
「ハッ。
オぅし、一番から四番、隊を整えて後に続け!
残った連中もやることはわかってんな。
連絡を怠(おこた)るな。
事態には各々(おのおの)の長の裁量で対応しろよ!」
「「「ハッ」」」
クロウ殿が鍛えているだけあって、兵の動きは俊敏だ。
指示する言葉が響くと同時に城の広場が騒がしさを増し、組まれた隊が次々と飛び出していく。
見下ろす街からは、白と黒の混ざりあった煙と共に、赤い炎までが揺れていた。
騒動は早くも戦いの気配を匂わせている。
報告を聞きまとめているベナウィ殿から少し離れ、『ティティカルオゥル』は身をよせた。
「あのいけ好かない連中もいない、か。
ティティカ」
「そうだね。ちょうどいいや。
皆、ちょいと見ておくれ」
言葉に従い、某(それがし)たちはティティカ姉を囲む形で、置かれた書簡を覗きこんだ。
中には幾つかの名が書かれていた。
トゥスクルの政(まつりごと)を担(にな)う面々の名だ。
「さっき話してた灰色の連中だ。
ここに来てる連中は除外していいだろ。
となると……」
言いながら筆を取る。
ティティカ姉は周囲の顔を見回して、一つ一つ確かめながら、書かれていた名を潰していった。
十数並んでいた名の列は、少しずつ墨に消されていき、最後に六つだけが残る。
顔がしかむのを自覚した。
苦手としていた三人の高官の名が、すべて残っていたからだ。
「金や人の規模はかなり絞りこめてるんだけどね。
誰がどこからってのはこれからなんだ」
「今後は、この連中に対して特に注意を払うと?」
「そう、だね。
時間はかかるけど。今は――」
「ううん。今やる」
少し気だるげなティティカ姉の言葉を、アルルゥは短くも強い言葉で遮った。
皆の視線を一身に集めながら、それを真っ向から受け止める。
見せる威風は指導者のもので、思わず従いたくなる気をまとっていた。
だが。
「今?
この混乱の最中に、か?
いくらなんでも――」
「いや。乗じて、と言った方がいいね。
確かに、チマチマ調べてても
何時ケリつけられるかわからないし。
いいね、アルルゥ。いい考えだ。
一気にやっちまおう」
にっこりと笑うティティカ姉の言葉により、アルルゥの決意は団の意向へと変わっていた。
反対の声も上がらない。
ティティカ姉に視線を向けられたベナウィ殿からも。
「勝手に動かせてもらうよ、
大老(タゥロ)様」
「……いいでしょう。
聞かなかったことにさせていただきます。
私は陣頭で指揮を執り、
皆さんの動く周囲に混乱を誘導しておきます。
あまり長くはもたないでしょうが」
「十分さ。
皆、いけるね?」
今さら臆する者など『ティティカルオゥル』にはいない。
まったく、この非常識にすっかり順応してしまっている。
某(それがし)もその一員に他ならないのだが。
うなずきは皆一斉に、首は力強く振られた。