うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第四幕・2~ 北の国・始動

 

「街もだいぶ活気を

 取り戻してきたみたいだね」

「幸いなことに、資金には余裕ができましたので。

 復旧の作業の手も十分ありますからね」

「ん、みんななかよし」

「元からの街の人も、流れてきた人も、

 一緒にお家直してるもんね。

 大変だけど楽しそうだよ」

「災い転じて、というやつだろう。

 困難は時として人の繋がりを強くするものだ」

「本当に。トラさんもテルテルさんも、

 すっかり街の人気者ですものね」

「まあ、な」

「不本意ながら……」

 トゥスクルの城の中、某(それがし)たちはいつもの食卓を囲みながら、日々の他愛もないやりとりを楽しんでいた。

 話題はもっぱら復興の進む街のこと。

 暇ならばと駆りだされた『ティティカルオゥル』の面々は、今や新たなる街造りに、すっかり喜びを覚えていた。

 某(それがし)とて、人々の笑顔を見るのが嫌なわけではないのだが……

「なんだいタイガ。

 不満そうだね。

 テルテォも」

「不満、というほどではないのですが……」

「これが雇兵団(アンクァウラ)の仕事ですか?

 まったく、しばらくまともに槍を振るっていませんぞ」

 ほとんど人足としてしか扱われていない

 某(それがし)とテルテォの愚痴に、

 クロウ殿が進言してくださる。

「だったら俺と一緒に周辺警備にでも回るか?

 最近はキママゥや盗賊だけじゃなく、

 雇兵(アンクアム)崩れの山賊なんてのが

 いくらでも出てきやがるしな」

「新しい巡警機構も定めなければなりませんね。

 諸藩の軍備拡大を認めるべきなのでしょうが」

「膿を出しきってからでないとねぇ。

 また寝首かかれるよ」

「せっかく錬度の高い兵がいるのだ。

 運用方法は色々と考えられそうだが」

「ええ、まったく。

 お二人とも、トゥスクルの政務に

 就いていただけませんか?」

 向こうではベナウィ殿が、ティティカ姉とリネリォ殿を口説いていた。

 二人の手腕と将来を考えるのなら、それもよいのではないかと思ってしまう。

 リュウガ兄の後を追うのならば、某(それがし)一人でも構わぬことだ。

 マルシェロの口が割れれば、すぐにでも――

「トラ」

「え?」

 袖を引かれる感覚に、いつの間にか伏せていた顔を上げる。

 右手の先ではアルルゥが、少し咎(とが)めるような目で見上げていた。

「アルルゥ……?」

「トラ、一人じゃない。

 アルルゥもいっしょ。

 みんなも」

「みんな、も――」

 某(それがし)の表情は、そんなにわかりやすいのだろうか?

 口に出していたわけはないのだが、皆の視線まで集まっていた。

 胸中の考えにまで異議を申したてられているかのようで、少しだけ恥ずかしく、とても嬉しい。

「……しばらくは無理なようですね」

「はは、悪いね」

 ベナウィ殿の少し楽しそうな溜息に、ティティカ姉はいつもの笑みで答えていた。

「まだまだ手のかかる子でねぇ」

「危なっかしくて放っておけませんわ」

「ん。

 アルルゥがまもってあげないと」

「……悪かったな。

 どうせ未熟だよ」

 軽んじられているだけのような気もしたが、あまり深く考えない方がよいのだろう。

 なごやかさが広がりかけた食事の席で、あらためて箸を進めようとした、

 その矢先。

「申し訳ございません、

 失礼いたしますっ」

 新たな声が飛びこんできた。

 息を切らした兵の姿に、自然と緊張が走り抜ける。

「なんだ、今度は」

「ハッ。

 ウルタイの関に不審な軍勢が

 接近しつつあるとの報が入りました。

 軍旗は、バンジジェジュのものであると」

「北方の強国が?

 軍を動かしてきたのですか?」

 眉をひそめるベナウィ殿に、兵は恐縮しながら答える。

「はい。

 関の前で威圧するように留まっているとのことですが……」

「使者でも立てろってんですかね。

 いいでしょう、俺が行ってきますよ」

 話を受け、クロウ殿が悠然と立ち上がった。

 なぜか、妙な胸騒ぎを覚える。

「クロウ殿。某(それがし)も――」

「まあまあ。

 お前らはゆっくりメシ食ってな。

 おい、行くぞ」

「ハッ」

 追いすがる暇もなく、クロウ殿は迅速に動きだしていた。

 某(それがし)の直感など当てにはならず、強く引き止めるようなことではない。

 それはわかっている。

 騒ぎ立てても取りこし苦労で、後で皆にからかわれるだけだろう。

 ――そうに決まっているのに、嫌な予感はいつまでも消えなかった。

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