うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第四幕・25~ 闇の宮・戦始

 

 頭を刎ね落とされた一瞬後、押し潰された首の根からしとどに血潮を撒き散らしながら、巨鳥は一度だけ羽ばたいた。

 恐ろしいほどの生に対する執着。

 だが、無論長くは続かない。

 大鷲の森の主(ムティカパ)は、最後の力を振り絞り、護るべき者へと少しでも近づこうとして、

 果たせず、落ちた。

 血の海が、瞬く間に広がっていく。

 それは、息を飲んだハクビにまで伸びていった。

「ジャカウ、ジャカウ!!」

 口から漏れる短い言葉は、呪言ではなく呼びかけの名。

 震える声にこめられた想いは、現実を認めない愚かさと、深すぎる悲しみの念。

 白き鬼面の奥で揺れる黒い瞳の様に、アルルゥはようやく思い知った。

 その想いが、自らがムックルに抱くものと同じものなのだと。

「ジャカウ……

 ああ、ジャカウ……」

 今までに見せたことのない動揺を表しながら、ハクビは踏み出そうとする。

 それを、広い背が止めた。

 エヴェンクルガの武士(もののふ)の、強さを求める非情な背が、それ以上の歩みを許さない。

「リュウガ……」

「なにを呆けている。

 お前は、なんのためにここまで来た」

 振り返ることなく、リュウガはその背で語りかける。

「僕(やつがれ)たちがお前に託したものは、

 この程度で潰えるものだったのか?」

「私に、託された、もの……」

「思い出せ。

 お前の望みを叶える為に、

 僕(やつがれ)たちはここまできたのだ」

「私の、望み……」

「そうだ。

 我ら大神の子、すべての願いだ」

 諭(さと)す静かで鋭い声に、白面の奥で揺れていた瞳は、鎮まっていった。

 言葉はきっかけでしかない。

 不測の事態に乱された程度では崩れえぬ深い思惑が、彼女の心奥には澱んでいる。

「……はい。

 そう、でした。

 ジャカウも、私の為に……」

「思い出したのなら、己が分を果たせ。

 障害は、僕(やつがれ)がすべて駆逐してやる」

 言って、リュウガは剣を抜いた。

 発した言葉に偽りはないと、態度と結果で示して見せる。

 それに応えたのは言葉ではなく、闇の力を持つ暗い響きだった。

 呪言を唱えるハクビの目に、もう迷いの色はない。

 我が子と認めた存在を失ってなお、挫けぬ想いの強さと恐ろしさが、そこにある。

 改めて、アルルゥは戦慄を覚えた。

 久しぶりの声が近づいてきたとき、身を束縛していた力が消えていることにも気づかなかった。

「アルルゥ、無事かっ」

「アルルゥ様」

「……トラ、ニコちん……」

 見知った二人は、心配に目を見開いていた。

 息の切れた声は強張り、不安に震えている。

 伝わってくる心からの想いに、ようやく少しだけ落ちつきをとり戻した。

「うん……

 へーき」

 空ろな声で応え、なんとか無事を伝える。

 だが、自らの内で湧き上がる想いに混乱し、なにをすべきかわからない。

 それでも、事態は動き続けていた。

 その一端は、前にした兄弟から。

「……ニコルコ。

 アルルゥを任せるぞ」

「ハイ。

 この命に代えましても、ハイ」

 腰の刀を抜きながら、タイガは前へ進んでいった。

 鋭いまなざしを向ける先には、ハクビへの言葉を成就せんと立ち塞がるリュウガがいる。

「あ……」

 離れていく彼の背中に、アルルゥはなにかを言いかけて、声を詰まらせた。

 止めたいのか、頼りたいのか、

 望んでいるのか、奪いたいのか。

 それが、一体なんなのかもわからず。

 結局、なにもすることができなかった。

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