うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「アルルゥ!
どこだ、アルルゥ!」
城中を駆け巡り、夜の街を走り抜け、周辺の森にまで足を向けたが、アルルゥを見つけることはできなかった。
某(それがし)の振り撒く危機感を汲み、捜索に手を貸してくれた皆にしても、同様だ。
集まった城の中庭でわかったことは、アルルゥの不在だけだった。
騒然とした雰囲気は『ティティカルオゥル』の面々にばかりでなく、今や城中に広がっている。
「なんだ、
一体どうしたというのだ」
「まったくですわ。
アルルゥはどこに行きましたの?」
問われても、答える言葉がない。
誰といるかは予想がつくが、どこにいるかは皆目見当もつかないのだ。
走り疲れた心で考えると、証拠のない確信など混乱を広げるだけのような気がして、閃きを明かすことにも躊躇いを覚えてしまう。
だが、迷っている余裕などもはやないのだと、ムティ殿の報せが教えてくれた。
「大変ですっ。
裏門を守っていた番兵の方々が
薬で眠らされていたそうですっ」
「なに?
賊かっ?」
「いえ、
幸いなことに、それ以上の被害はないようですが。
一応その可能性も検討して
大老(タゥロ)を含めた高臣の方々の警護と
城の守りを固めたいと」
「いえ……
それは恐らく、エルルゥさんでしょう」
「なに?」
眉を潜めたハクビの言葉に、テルテォが敏感に反応した。
「アルルゥ殿の姉上だと?
バカな。
追われる身だと知っていて
敵の本陣に入りこむ奴がいるか」
「わたしたちが言えるセリフじゃ
ないと思いますけど」
「む?
い、いや。
俺たちの場合には目的があったからこそで――」
「つまり、
エルルゥ殿にも狙いがあるということだな」
「アルルゥさんを連れ去るために来たのだと思います。
その命を贄に、
大神(オンカミ)の復活を果たすため」
「なんだとっ?」
某(それがし)が伝えるのを躊躇った答えを、
ハクビは隠すことなく伝えていた。
皆が息を飲む中で、予想通りにテルテォが激昂する。
「ふざけるなっ!
そんなことをさせるかっ。
アルルゥ殿はどこだ、どこに居る!」
「痛――」
壊しかねない勢いでハクビの肩を掴むテルテォを、某(それがし)は冷静に蹴り離した。
「落ち着け、テルテォ」
「これが落ち着いていられるか!」
気持ちはわからないでもない。
いや、むしろ嫌というほどよくわかる。
だが、その問いに答えられるのなら、すでに答えているはずだ。
俯(うつむ)いたまま、ハクビは語る。
「……エルルゥさんがどこに潜んでいるか、
私にはわかりません。
拠点として使っていた場所なら幾つかありますが、
だからこそ其処(そこ)にはいないでしょう。
きっと私の知らない、
彼女だけの秘密の場所に……」
「しかし、
他に手がかりもない以上、
その拠点とやらを潰していくしかあるまい。
言え、どこだそれはっ」
「いや……
まてよ」
つぶやくようなハクビの声は、某(それがし)の脳裏に再び閃光を走らせた。
稲妻の後に浮かび上がるのは、秘めた想いを語ったアルルゥの姿。
嬉しそうに、楽しそうに、しかし、どこか寂しそうに、アルルゥは話していた。
彼女と、彼女の姉と、優しい父の思い出を。
想いを馳せるは生まれた地。
厳しく、狭く、難多くも、人々の努力と意思で育まれてきた土地。
そして、いつか還るべき場所だ。
「どうした。
なにか心当たりでもあるのか」
「……アルルゥの姉上と、
父上が一緒なのだ。
その行く先など、
決まっているじゃないか……」
「トラちゃん! みんな!」
思いつきを確信させる声が、空から降ってきた。
舞い降りてきた黒翼の皇女は息を弾ませ、覚めやらぬ興奮を示してみせる。
「カミュ」
「どうしましたの?」
「今ね、おじ様の声が聞こえたの!
アルちゃんを、
エルルゥ姉様を助けてあげてって!」
唖然とする一堂の中、某(それがし)はその意味を理解していた。
迷いはない。
この直感だけは正しいと、ウィツァルネミテアが教えてくれたのだから。
「行こっ、トラちゃん」
「ああ、行こう。
ヤマユラの村へ」
差しだされた導きの手を、某(それがし)は強く握り返した。