うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
薄い森を拓いた道を、雇兵(アンクアム)の軍勢が歩いていく。
向かう先は国境の砦。
普通ならば粛々と進むべきところなのだろうが、武士(もののふ)に傾き者、騎兵弓兵に農工商の者まで混ざり合った異彩を放つ一行は、行軍と呼ぶには賑やかすぎた。
もっとも、今回ばかりは他者の非難もできないが。
「……もっと離れろ。チビ」
「……貴様の方こそ離れろ。デクノ坊」
行軍の中ほどで怒気と殺気を振りまきながら、某(それがし)は先に悶着を起こした槍使い、テルテォと並び歩いていた。
いや、ウマ(ウォプタル)に乗るテルテォに進路を妨げられながらも、それを巧みにかわしながら、だ。
「貴様のような奴がエヴェンクルガだと?
ふん、大義の士とやらも質が落ちたものだな」
「なんだと……!」
苛立ちを高めあいながら、それでも実力行使に及ばないのは、互いに後ろからの圧力を感じているからだ。
某(それがし)たちの背後ではティティカ殿が、騎兵の女に向かって話かけ続けている。
「姉弟で騎兵とは面白い組み合わせだね。
根っからの雇兵(アンクアム)って感じじゃないけど、
リネリォたちは、なんでまたこの戦に参加したんだい?」
「貴殿には関係のないことだ」
「そうかい? どっちにしろ、
そういう態度は裏に何かあるって
言っているようなもんだけどね」
「…………」
「睨むな睨むな。せっかくの美人が台無しだよ。
ほら、笑えって」
「や、やめんか、この酔っ払いが」
あの氷の女を相手に、まるで気後れしていない。
どこまでも我が道を行く姿勢は大物の器を感じさせるのだが、傍(はた)からは単に酒が入っているだけにしか見えないのが珠(たま)に瑕(きず)だ。
背の様を感じてか、テルテォの嘲りが笑みを増す。
「アレが貴様の主か?
ふん、僕(しもべ)が僕なら
主(あるじ)も主だな」
「ティティカ殿は我が主ではない。
だが、仲間だ。
愚弄するなら容赦はせんぞ」
「おもしろい。どうなるんだ?」
「……それはだな」
頭の中でなにかが切れた。
妙に冷静な己に気づく。
自分でも驚くほど、なめらかに剣の柄を握っていた。
「こういう――」
そして、抜く。
――はず、だったのだが。
「ガチャタラ」
『キュイイイイイイイイ』
絶妙の間で、横から奇声に襲われていた。
ガチャタラの叫びが木槌のような衝撃となって、某(それがし)の頭を乱打する。
「くあああああああ!?」
「ぐごおおおおおおお!?」
隣のテルテォも巻き込んで。
向き合いふらつく某(それがし)たちの前を、テクテクと歩き過ぎる少女が一人。
「うー、うるさい」
「あ、あのなアルルゥ。
いきなりガチャタラをけしかけるのは
やめろと何度もおお!?」
後を白い獣が追っていった。
某(それがし)を、当然のように踏み潰して。
「ど、どいつもこいつも……」
まったく。
某(それがし)には、人との縁に関してまで幸がないのだろうか?
……ないのかもしれない。
「……可憐だ」
アルルゥの後姿を見ながらつぶやくテルテォを見て、心の底からそう思った。