うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
今日も今日とてまた一つ、戦いが終わりを告げた。
勝ちも続けば慣れとなり、戦勝の宴もにぎわいを欠いてくる。
日々激しさを増しゆく戦いに兵の疲弊も増すばかりで、しかし、指揮官は戦果を誇るも労(ねぎら)おうとはしない。
高まっていく不満の中、それでも雇兵(アンクアム)たちは各々の目的に従って戦い続けている。
それは、あるいは金。
あるいは名誉。
あるいは血への欲望で、
あるいは訪れる死への期待。
そして中には、仕事の後の一杯のために。
戦いで乱れた衣服もそのままに、ティティカは宴の場を練り歩いていた。
晩酌の相手を探しキョロキョロと彷徨(さまよ)っていた目が、獲物を定めて笑みを作る。
白いウマ(ウォプタル)を引いて歩く、双刃槍を携(たずさ)えた女騎兵を捉えて。
「や、お疲れさん。
相変わらずいい働きしてるねぇ」
「貴殿は……」
リネリォは露骨に怪訝な表情を浮かべた。
「確か、ティティカ、だったか」
「おや。名前を覚えてもらえていたとは光栄だね」
「……そんな格好だ。嫌でも目に入る」
冷たい目が、ティティカの体を上から下へと眺め流れた。
背に刺した派手な幟(のぼり)から、太股も露な艶姿(あですがた)まで。
「あはは。狙い通りさ」
「それに、先の戦での動きもな。
砦を落とした際の指示と弓も見事だった」
しかし、そのまなざしには嫌悪ばかりでなく、称える光も確かにあった。
虚飾を見通し本質を見抜く眼力が、そこにはある。
ティティカはただ楽しげに笑うのみ。
「あまり持ち上げられると照れるねぇ。
惚れるなよ?
まぁアタシは女同士ってのも嫌いじゃないけど」
「なにを言っている。
……それにしても」
「ん? なんだい?」
「貴殿の実力は認めるが、
その格好はどうにかならないのか」
呆れる声を向けられても、ティティカの笑みは変わらない。
「いやー。この商売、
名を売るには目立たないといけないからねぇ」
「それだけの腕があるのなら
奇行に走らずとも名はついてこよう」
「こっちにも色々と事情があってね。
あんまり時間をかけたくないのさ」
答える声の気楽さは、本音の様でもあり、虚言のようでもある。
少しだけ黙し、リネリォは小さく息を吐いた。
「……そうか。まぁ、他人の道に
難癖をつけるつもりはない。
好きにするがいい」
「なんだよー、つれないねぇ」
「のわっ?」
そのまま去ろうとしたリネリォに、ティティカが後ろからしがみついた。
頬と頬を無理やりすり合わせる。
「な、なにをする」
「戦場で同じ側にいる仲じゃないか。
一緒に飲もうよぅ」
「ええい、離せ。
取り巻きと飲めばよいだろう」
「タイガはもう潰しちゃったからなぁ。
アルルゥは、ちょっと面白すぎるから」
「ならばその辺の連中でも漁るがいい。
私に構うな」
「えー、いーじゃないかー。
ちぇ、せっかく珍しい酒が手に入ったのになぁ」
振り払われたティティカが唇を尖らせつぶやいた一言に、去ろうとしたリネリォの足が止まる。
「珍しい、酒?」
微妙な興味の色を覗かせて。
それに気づかぬティティカではない。
口元には、再び仔狐の笑みが浮かんでいた。
「ん? ああ。見てこれ、
混ぜ物なしの吟醸酒『白皇』」
「ほう……トゥスクルの、酒か」
「どうだい、この澄んだ色。
神の棲む山の奥底から流れてくる
清流を思わせないかい」
「うむ、確かに……」
いつの間にか、両者は距離を縮めていた。
それは、目に見える長さばかりではなく。
「どうよ。少しだけでも、さ」
「う、む……では、一献だけ」
「そうこなくっちゃ」
二人は戦場の一角に、縁(えにし)の華を咲かせていた。