うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第一幕・30~ アルルゥといっしょ・息抜き1

 

「アルルゥ!

 どこだ、アルルゥ!」

 目を血走らせて叫びながら、呼びかけの相手を探し駆け巡る。

 くだらない悪戯に引っかかっては元凶を追いかける行為も、いまやすっかり日常だ。

 これが武士(もののふ)の姿かと自問する日々だが、まずは目の前の問題を片付けなくては。

 衆目を集めながら進む中、白い獣の巨体が目に入った。

 足を止め、その正面に回りこむ。

「ムックル。お前だけか。

 アルルゥはどこに――」

『ヴォゴ?』

 問いかけようとして、言葉が途切れる。

 ムックルの頬は不自然に膨らみ、口からは見覚えのある白い尾が垂れ下がっていた。

「……おい、アルルゥ」

「……」

「隠れてるつもりか、それで」

「……」

 問うたびに右へ左へと揺れていた尻尾を止め、アルルゥは諦めたように這い出てきた。

 ムックルの口から、でろっと。

 悪びれた様子どころか、むしろ不機嫌な表情を見せる。

「うー、べとべと」

「そりゃそうだろう。

 そもそもあんな悪戯をするのが悪い。

 いいか、大体お前って奴は――」

「ムックル」

『ヴォオウ』

「少し落ち着きがなさすぎる。

 薬師だろう?

 もっと前後の状況をよくみてだのぉあ!?」

 母の一言に素直に従い、ムックルが再び口を開き、閉じた。

 某(それがし)の上体を飲みこんで。

「むごぉ! この、バカ、口開けろ!

 むが、な、舐めるな、味見すんな!

 こらアルルゥ! こっそり逃げてるんじゃ、

 ぐああああああ……」

 懸命に身をよじらせるが、森の主(ムティカパ)に力で敵うわけもなく。

 某(それがし)は今日もまた、あえなくアルルゥに逃げられるのであった。

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