うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
働きが認められてきたせいか、我が『ティティカルオゥル』は個別の部屋を与えられるようになっていた。
どういうわけか、女性にのみではあったが。
某(それがし)は今日もまた、雑魚寝の場から起きた後、厨房を借りて朝餉(あさげ)の卓を整えている。
これも、もはや日常だ。
すっかり顔なじみになった厨房の主に命じられ、団の主を呼びにきた。
「ティティカ殿。おはようございます。
アルルゥが朝食を早くしろと
うるさいのですが……」
「ン、ふァぁンゥ……
なに、もう朝?」
「は、いっ?」
戸を叩き、反応を待って部屋へと入り、寝崩した夜着の姿に慌てて目を背けた。
まったく、少しは気を使ってほしい。
それにしても、
「あ、の……大丈夫、ですか?
気分が優れないようですが」
寝起きはいつも気だるげだが、今日はことさら力がない。
疲れているというよりは辛そうにすら感じる。
「んン……ちょっとね。
飲みすぎたかな」
そんなこちらの気づかいなど、相変わらず気にもしない。
ティティカ殿は某(それがし)の背に圧しかかると、耳に息を吹きかけてきた。
「ふひっ?
ア、アルルゥに薬をもらってきましょうか?」
「あの薬をかい?
遠慮させてもらうよ。
水だけ貰えるかい」
「は、はい。どうぞ」
「ん……」
水差しから注いだ椀を手渡すと、ティティカ殿はゆっくりとそれを傾けた。
口の端から一筋こぼれた水の輝きが、そのまま胸元に消えていく。
「ふぅ……ありがと」
飲み干し、吐息と共に向けられた流し目に、思わず唾を飲んでいた。
直後、勢いよく開け放たれた戸の音に、心臓が弾ける。
「ティティカおねーちゃん。
起きた?」
「おはよアルルゥ。
待たせちゃったね。行こうか」
起き上がったティティカ殿は、格好もそのままに部屋からでていった。
直前までの色気も吹き飛ばし、あくびをいくつも噛み殺しながら。
某(それがし)は呆然とその後姿を見送り、
「……なんだったんだろうな。
な、なんだよ、アルルゥまで妙な目で」
「トラ、いやらしい目になってる」
「な、なに?」
平たいまなざしに射抜かれた。
「そ、そんなことはない。
エヴェンクルガである某(それがし)が、
そんな、なにを根拠に……お、おい、こら」
「べつに」
「別にって、ちゃんと納得してからいけ!
おいってば、おい――!」
その後、なぜだか知らないが、アルルゥの機嫌は一日中悪いままだった。