うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第一幕・33~ アルルゥといっしょ・変化

 

 戦が終われば場も変わり、軍は新たな陣を敷くこととなる。

 侵攻したその先で、なかば略奪めいた行為の後に。

 古来より雇兵(アンクアム)には当前の権利として認められている行為だが、やっていることは盗賊となんら変わらない。

 某(それがし)がいる以上、『ティティカルオゥル』には認めさせはしなかった。

 もっとも、ティティカ殿も初めから興味はないようであったが。

 そして、アルルゥに至っては、まったく別の思惑から動いていた。

「トラ、次、こっち」

「せ、急かすな。わかってる」

「それ終わったら、あっち」

 アルルゥの指が示すに従い、某(それがし)は走り回されていた。

 陣を組むための木材角材を、肩と背に乗るだけ担ぎ上げて、だ。

 無論、本来ならば武士(もののふ)の仕事ではない。

 従軍した人足(にんそく)や周辺から徴用された者たちに課される務めだ。

 だが、過酷な労働に対し、その数は圧倒的に少なかった。

 これもまた、戦においては当たり前の光景。

 無理やり連れてこられた民は士気も低く、作業をより困難なものとしている。

 それを見かねたアルルゥが、手を出したという次第だ。

 それはいい。

 アルルゥがどのような思惑でなにをしようが、それは本人の自由であろう。

 問題は、なぜ某(それがし)が駆りだされているのか、だ。

 アルルゥとのやりとりを思い返しても、その経緯が理解できない。

 どう考えても騙されている気がするのだが……

「サボらない。次は向こうの」

「まてアルルゥ。やはりおかしいだろう。

 なぜ某(それがし)がこんな人足(にんそく)めいたことをしなければならない」

「うー? もう疲れた?」

「そ、そんなことは言っていないだろう。

 ただ、武士(もののふ)の役割ではないと――」

「疲れたならムリしなくていい。

 アルルゥはムックルとがんばるから、

 トラは休んでる」

「無理なことがあるかっ。

 これぐらい、どうということはない。

 ほら、次はどれだ」

 なぜだかよくわからぬ内に、新たな荷を担がされるのだった。

 

 無心で汗を流していると、後ろから声を掛けられた。

「なにをしているのだ、お前たちは」

「む?」

 不思議そうな表情を浮かべたリネリォと、その後ろで小憎たらしい笑みを見せるテルテォだった。

 不愉快を募らせる某(それがし)を押しのけ、アルルゥが口を開く。

 見ているのはリネリォの、首から吊り下げられた腕か。

「ケガ、だいじょうぶ?」

「ああ。世話になったな。よい腕だ」

「んふー。おねーちゃんのクスリ」

「そうか。姉上にも感謝しよう」

 なぜか微妙に釈然としない会話を横に聞きながら、某(それがし)の気分はそれどころではない。

 テルテォの浮かべる嘲る笑いの、なんと腹立たしいことか。

「こんなところで人足(にんそく)の真似事か。

 似合っているぞ、エヴェンクルガ」

「む……」

「もっとも、非力な貴様では

 邪魔になるだけかもしれんがな。

 しばらくここで力をつけてみたらどうだ?」

「貴様、言わせておけば……」

 凄んでみせるが、土砂を積みこむ姿では説得力など皆無だろう。

 歯噛みする某(それがし)を横目に、リネリォは最初の疑問を再び上げた。

「それで、なにをしているのだ?」

「んー、お手伝い。大変そうだったから」

「そうか……

 テルテォ」

「はっ、なんでしょう姉上」

「お前も手を貸して差し上げろ」

「わかりまし……

 は?」

 気楽に受け流そうとしたテルテォが一転、目を回してうろたえだした。

 背筋をわずかに丸めた様は、一回り縮んだようにも見える。

「な、なぜ俺がそんなことを――」

「なんだ。私の言うことが聞けぬというのか?」

「いえっ。そういうわけでは……」

 リネリォが垣間見せた苛立ちに、慌てて直立不動に戻っていたが。

 顔をしかめたのテルテォに、アルルゥが見上げて問いかける。

「手伝ってくれる?」

 上目に見つめ、小さな拳で口元を隠しながら。

「あ、ああ」

 直前までの躊躇はどこへやら。

 その一言に誘われて、テルテォは土砂の袋を持ち上げだした。

 某(それがし)が苦労して担いだものを、二つ、三つと無造作に。

「おー」

「この程度ならばたいした事はない。

 まあ、腹ごなしに手を貸してやろう」

「ん、ありがと」

 感心する声と共に、アルルゥの顔に笑みが浮く。

 それは、某(それがし)も数えるほどしか見たことのない、花のほころぶような笑顔で、なぜか不快の念を抱いていた。

 機嫌のよいテルテォが妙に苛立たしい。

「……なに赤くなってんだ、お前」

「べ、別に赤くなどなっていない。

 貴様こそ、この程度で息を上げるようでは

 タカが知れるな」

「な、なんだと? 誰が息を上げているか」

「ふん、自覚もしていないのか、救いがたい」

「これしき、なんという事はない」

「はっはっは。無理をするな、小兵(こひょう)」

「こんの――」

 舌戦を交わしながら、某(それがし)は再び足を進めていた。

 悠然と進むテルテォを必死に追う。

「んっふっふ~」

 後ろでは、アルルゥが楽しそうに歌っていた。

  

 

「大したものだな」

「まったく。アルルゥ、恐ろしい子」

「……ティティカ。お前、どこから沸いた」

「まぁまぁ。新しい酒が手に入ったもんでさ。どうよ?」

「む……よかろう。相手になろう」

「そうこなくっちゃ」

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