うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第一幕・34~ アルルゥといっしょ・息抜き2

 

「アルルゥ!

 どこだ、アルルゥ!」

 今日も今日とて某(それがし)は、イタズラの主を探していた。

 すっかり慣れてしまった日常に疑問を抱くより先に、目的の背中が目に入る。

 ……ムックルが近くにいない事を確かめ、追いかけた。

「待て、アルルゥ」

「やー」

「今日という今日は許さないからな。

 その性根を改めるまで

 たっぷりと言い聞かせてやる」

「うー」

「なにをやってるんだ、お前ら」

 ようやくその襟首を捉えた時、横から声が飛んできた。

 テルテォの訝(いぶか)しげな表情に、反射的に目が尖る。

「貴様には関係のないことだ。

 ひっこんでいてもらお――

 こら、アルルゥっ」

 その一瞬の隙に、アルルゥは某(それがし)の手から逃れていた。

 小動物を思わせる機敏な動きでテルテォの後ろに回りこみ、こちらを向いて舌を出す。

「っ、いいかげんにしろ。

 あまり煩(わずら)わせると晩飯を抜くぞ」

「べー」

「こんの……」

「いいかげんにするのはお前の方だろう。

 みっともない」

 あろうことか、テルテォまでが背を貸し、アルルゥを庇いだした。

 いつもの憎まれ口に別種の想いが煤(すす)けて見える。

「……なんだと?」

「か弱い少女を追い回して脅すのが

 エヴェンクルガのやり方か?

 少しは気骨のある奴だと

 考え直してやったものを」

「く……

 事情も知らず勝手な口をきくな。

 某(それがし)とて好きで

 追い回しているわけではない」

「ならばやめればよいだろう。

 事情とやらも些細なことを

 大袈裟に騒いでいるだけなのではないのか?」

「そうそう」

 調子に乗って煽(あお)るアルルゥが無性に疎ましい。

 こめかみに力をこめながら、募る不快を言葉に乗せる。

「頭が上がらないのは姉にだけかと思っていたが、

 女であれば誰でも同じようだな。

 貴様のような奴に

 みっともないなどと言われたくない」

「なに……?」

 応えと共にテルテォの雰囲気が変わった。

 笑みを消した表情は、戦場で見せるのと同種のもの。

 だが、想いは某(それがし)とて同じ。

「面白い事を言ってくれるな」

「そんな事はないだろう。ただの事実だ」

「よほど痛い目を味わいたいとみえる」

「その言葉、そっくり返してやろ、う……?」

 交わす軋(きし)むような言葉に、横から形が与えられた。

 某(それがし)の手には木の刀が。

 テルテォには槍に模した棒として。

 用意したのは、事態の元凶。

「アルルゥ。こんなものどこから――」

「ほう。これは気が利いている」

「……確かに、そうだな」

 互いに無言で距離をとり、構えていた。

 備える武器が偽りとはいえ、まとう殺気は実戦と変わらない。

 張り詰めていく緊張は呼吸の度に高まっていく。

 それは、瞬く間に極限まで膨らみ尽くし。

「ふぁい」

「ぬぉぉぉぉぉ!」

「でやぁぁぁぁ!」

 アルルゥの声を合図とし、互いに攻撃をくり出していた。

 交わされる咆哮と衝撃。

 不規則高速な打楽の舞は、少しずつ場を移しながら、しばし続くこととなる。

「がんばれー。

 ……ムックルー」

『ヴォ』

「いこ」

『ヴォウン』

 仕掛けの本人は事の顛末(てんまつ)を見届けることもなく、その場から鮮やかに消え去っていた。 

 

 

「アルルゥ、いい仕事してるね」

 物陰で親指を立てるティティカ殿にも、当然気づきはしなかった。

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