うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・10~ カミュ襲来・勝負

 

「ハっ!」

 気合一閃。

 一息で抜けた道の後を、斜に断ち斬った樹木が落ちる。

 その数、実に一〇と三。

 重なる鈍い音を聞きながら、一つ息を整えた。

 振り返り、力の痕跡を検分する。

 威力、速度、精度。

 どれも以前よりは上がっている。

 ……いる、ハズ、なのだが……

「ぬぅぅん!!」

「っ?」

 後ろで、テルテォの連撃に耐えかねた大木が、地に落ち轟音を響かせた。

 離れていても肌を震わせる衝撃の余韻に、ささやかな自信も消し飛ばされてしまう。

 目を平めて振り返ると、視線の先で自慢げな笑みが待ち構えていた。

「相変わらずせせこましい剣だな。

 楊枝でも削るつもりか?」

「お前こそ、相変わらずの力任せじゃないか。

 薪売りでもやったらどうだ」

「なんだと?」

「なんだよ」

 街外れの古びた広場にて、いつものやりとりが繰り広げられる。

 今やすっかり『ティティカルオゥル』の鍛錬場となっているこの場所に、今日は見学者まで揃っていた。

「アルちゃん、お昼食べたらなにしようか」

「んー、晩ゴハン探す」

 単なる冷やかしにしか思えないのだが、それでもテルテォは妙にはりきっていた。

 ムックルですら悠々と身を隠せる巨木が削り折られた様を見せつけられると、喧嘩の売り言葉にも切れがなくなってしまう。

 だが、それでも引けぬのが意地というもの。

「ねえ。

 トラちゃんとテルテル、

 どっちの方が強いのかな?」

「某(それがし)だ!」「俺だ!」

 何気ないカミュのつぶやきに、二人同時に叫んでいた。

 再び睨みあい、無言のまま距離をとる。

 もはや言葉は不要だと、互いに得物を握りながら。

「ちょ、ちょっと待ってよ。

 少し気になっただけなんだから」

「止めるなカミュ」

「いずれこうなる運命よ」

 制止の声も、もはや無意味。

 某(それがし)は静かに足を運びながら、徐々に気を高めた。

 対峙するテルテォも、また同様だ。

 まさに一触即発。

 例え戦の神(スサヌ・カミ)だとて、この衝突を止められはすまい。

 ……だと言うのに。

「ア、アルちゃん、

 どうしよ……お?」

「んー」

 なぜこの娘は場の雰囲気というものを、こうも簡単に打ち砕けるのだろう。

 アルルゥは某(それがし)の前に立ち、両手で紙切れを差し出していた。

 受け取り、見やると、いくつかの品が名を連ねていた。

「シゥケ、マウキロ、

 ハムリにハクチェにフティル?」

 旬の魚に高級なキノコ、貝に野菜に焼き豆腐。

 その他、柑橘類に調味料。

「ルォプス、チルキ、

 クァテル、オゥモロロ……」

 テルテォもテルテォで、同様の紙を読み上げていた。

 内容は、大海老、大鶏、大烏賊、大芋……

「アルルゥ殿、これは?」

「食材の一覧?

 いや、どちらかといえば買い物の品書き――」

「知力、体力、時の運。

 どれも戦うヒトには大事」

 首を傾げる某(それがし)たちを前に、アルルゥは唐突に語り始めた。

「高い機動力と的確な判断力。

 情報を集め、調べ、まとめて動く。

 与えられた使命を完璧に

 こなせるヒトが強いヒト」

「お、おお」

「まぁ、そういう考え方も、

 ある、のか……?」

 ややこしい言葉の羅列に、正直理解が追いつかない。

 気にせず、アルルゥは畳みかけてくる。

「これは任務遂行の実行力を試す勝負。

 紙に書かれたものを、

 先に全部集めてきた方の勝ち」

 最後の言葉だけは妙にわかりやすかった。

 それだけに理解も早い。

「なるほど。そういうことなら話は早い」

「……いやまて。

 それはつまり、ただの使い走りでは――」

「なんだ、怖気(おじけ)づいたのか?

 アルルゥ殿の期待に

 応えられる自信がないと?」

「だ、誰が怖気づくかっ。

 知力を駆使する勝負で

 某(それがし)が貴様に遅れをとる要因が

 どこにある」

「なんだと?

 優柔不断な臆病者が大口を叩くな!」

「なにを?」

 再び高まる怒りの気に、絶妙な間で入る開始の合図。

「それじゃ、よーい、どん」

「うおおおお!」

「ぬうぅぅぅ!」

 張り合う意識に突き動かされ、衝動的に走り出していた。

 後の会話など知るよしもない。

 

 

「おー、トラちゃん、

 ウマ(ウォプタル)と同じ速さで走って行ったよ」

「いってらー」

「ねえアルちゃん。

 今のって、さっき聞いてきたお鍋の材料じゃ?」

「カミュちー。戻って準備する」

「……うん、そうしよっか。

 ティティカ姉様たちのために

 お酒も用意しておこうよ」

「だいじょうぶ。ちゃんと書いた」

「あはは、さっすがアルちゃん。

 ぬかりなーい」

「むふー」

 

 

 某(それがし)がすべてを理解したのは夕食の終わり、空になった鍋を見た後だった。

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