うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
「ぐふぅ……」
戻ってきた大部屋で盛大に倒れこむ。
今日もまたアルルゥに振り回された。
カミュが一行に加わって以来、悪戯の度合いが冗談ではすまなくなりつつある。
明日こそは厳しく言ってやろうと思うのだが、そう思って対峙するたび、新たな罠にかかっているのはどういうわけか。
なにかよい方法はないかと考えていると、同室の一人が帰ってきた。
「だふぅ……」
オンカミヤリューの少年僧が。
ムティ殿は疲れ果てた息を吐きながら、某(それがし)の対面につっぷした。
「ムティ殿も、お疲れのようですね……」
「ああ、タイガ様……
いえ、ちょっと、大事なものまですり減らした程度ですから……」
答える声には生気がない。
よく見れば、口からなにかが抜け出しかけているようにも見えた。
もちろん錯覚に過ぎないのだが。
「カミュのお守りとは、大変な仕事を仰せつかったものですね」
「はぁ、まったく……
でも、しかたありません。
お爺様の代からのお勤めですので」
「それはすごい。
代々オンカミヤリューの姫君に仕える身とは」
「それは、ええ、
家の務めには誇りをもっております。
賢大僧正(オルヤンクル)は美しく聡明で、この世でもっともお優しいお方。
お仕えできるのは至上の喜びです……
けれど、ですね……
はぁ。なぜ姫さまはあのように育ってしまわれたのか……
ぼくの従い方が間違っていたのでしょうか」
「いや、あれは生来のものでしょう。
どうもはしゃいでいる子供のようにしか見えませんから……
アルルゥのせいだよなぁ、どう見たって」
「タイガ殿も大変ですね。
アルルゥ様のような方をお守りするのは」
「わかっていただけますか……
本当にもう、考えているのは食い物のことか人をおちょくることだけ。
ムックルなんてのが懐いているだけにタチが悪い。
いないと思って強く出れば、ガチャタラをけしかけられるし……」
「わかりますわかります。
なぜあの手の方々は悪知恵ばかり働くのでしょうね。
姫さまも、悪戯に使う法術ばかり上手くなって。
最近では妙に政治的な手腕まで発揮されているような……」
「まったく、女は恐ろしいというか、
女というより子供は、ですか」
「本当に。姫さまがぼくより年上だとはとても思えませんよ」
「はは、確かに。
アルルゥなんて見た目からして子供そのもので――」
「ふぅぅん」
「ふーん」
「「ぬぉわ!?」」
あまりの和やかさと疲労感から、部屋に入りこんでいた第三、第四の人物にまったく気づかなかった。
硬直したムティ殿と共に、恐る恐る後ろを見やる。
双眸を輝かせた禍日神(ヌグィソムカミ)。
もとい、アルルゥとカミュがそこにいた。
「ひ、ひめ、さま……?」
「ア、ルルゥ……
ええと、いつから、そこに……」
「えっとねぇ、
カミュのお守りは大変ですね、のあたりかな♪」
……ほとんど全部じゃないか。
妙に上機嫌な笑顔のまま、二人してにじり寄ってくる。
「ま、待て、落ち着け二人とも。
違うんだ、これはその、大いなる誤解というやつで……」
「タイガ様……
わるあがきは止めましょう」
「ム、ムティ殿?
なにをそんな清々しい諦めの表情を浮かべているのですか?」
「ムティは素直だなー。
トラちゃんも潔く覚悟を決めないと。
武士(もののふ)なんでしょー?」
「か、覚悟って、なんのっ?」
「なんのって、ねー、アルちゃん?」
「ん。今なら一〇〇〇〇倍のところが、
九九九九倍ですむ」
「ほとんど変わらないじゃないかっ。
や、やめろ、なにをす……
のあーーーーーーーーーーーー!!」
……その夜、なにがあったのかは……
まぁ、墓まで持っていこうと思う……