うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・12~ カミュ襲来・朝餉

 

 アルルゥの強い主張により、『ティティカルオゥル』では朝夕の食事を全員揃って食すことになっている。

 曰(いわ)く、同じ釜の飯を食ってこそ本当の仲間になるのだと。

 不満の声も多少あったが、女性陣に結託されてはまったく問題ともされなかった。

 まぁ、食事は大勢でとった方が楽しいというのはわかる。

 ほとんど無礼講な状況に礼節の重要さを説きたくもなるが、これが団の規約というのなら納得もしよう。

 しかし――

「いやー。あいかわらず美味いねぇ、タイガのメシは」

「うむ、見事なものだ。戦においても重宝されるだろう」

「それはいい。コヤツには似合いの役目ですな」

「トラー、おかわりー」

「カミュもカミュもー」

「姫さま、お行儀悪いですよ」

 ……なぜ某(それがし)が食事番になっているのだろう?

 当初は当番制のはずだったのに。

 いや、理由は明白なのだ。

 ティティカ姉は酒の肴しか作らないし、リネリォ殿とテルテォでは素材のまま。

 皇族の姫であるカミュに料理ができるわけもなく、ムティ殿は野菜しか使おうとはしない。

 アルルゥにいたっては、卓に並ぶのが料理なのか薬なのか、はたまた毒なのかも見当がつかない始末。

 団と自身の安全のため、某(それがし)は泣く泣く包丁を握っているのである。

「文句言うわりに、料理してるときは楽しそうじゃないか。

 いやぁ、勤勉で料理上手なエヴェンクルガ、

 いい拾い物したねぇ、我ながら」

 朝から盃を傾けながら、ティティカ姉は上機嫌だ。

 時おり自分が団に誘われた理由を思いだせなくなる。

 それを受けた理由もだ。

 なにか、胸を熱くさせた覚えがあるのだが。

「トラちゃんたちと会ったのが最初なんだよね。

 ティティカ姉様は、どうして雇兵団(アンクァウラ)を作ったの?」

 カミュの問いに思い出す。

 そう、その高き志(こころざし)を。

「……ティティカ姉は自分の国を興すおつもりなんだ。

 この戦乱の世にあって、自らの力を信じ、路を拓く……

 実に素晴らしい覚悟だ」

 その強さに惹かれたからこそ、某(それがし)はティティカ姉と行動を共にしているのだ。

 いつか、自身の主を見極める日のために。

 照れくさそうに笑うティティカ姉に、カミュも尊敬のまなざしを向けていた。

「へえ、そっかぁ。ティティカ姉様の国かぁ。

 うん、とっても楽しい国になりそうだよね」

「ふん、夢のあることだ。

 この酔いどれに国の皇(オゥルォ)が務まるものか」

 和やかな雰囲気に温められた空気を、冷たい言葉が切り裂いた。

「リネリォ殿?」

「政(まつりごと)と戦はまったく別物。

 ティティカの才は認めるが、とても国をまとめる器とは思えん」

 氷のような冷静さと、刃のような冷徹さを備えた言葉が。

「そ、そんなこと――」

「手厳しいねぇ。

 でもまぁ、そうだろうね」

「ティティカ姉様?」

 そんな言葉を向けられても、ティティカ姉の態度に変わりはなく、

「今から心配する事じゃないけどね。

 確かに、政(まつりごと)なんてアタシのガラじゃないなぁ」

 ただ盃を傾けながら、楽しそうに笑っているばかりだった。

「そ、そんなことでどうするんですか?」

「大丈夫だよ。

 そういうガラの奴に役をやればいいんだから。

 できないことを無理にやる必要はない。

 騎兵には騎兵の、剣兵には剣兵の使いどころってモンがあるだろう?」

 その考えは戦の前と同じもの。

 いや、いつだってティティカ姉は変わらない。

「雇兵団(アンクァウラ)はその手始めでもあるんだよ。

 人の使い方なら政(まつりごと)でも戦でも大差はないからね」

 我らが団長はどこまでも泰然と、穏やかな笑みを浮かべていた。

「へー」

「ふん、ものは言いようか」

「な、なるほど。さすがティティカ姉。

 そこまでの深慮がおありだったとは」

「んふふ。ま、それだけでもないんだけどね」

「他にも理由があるの?」

「ああ、今では一番の理由だね。

 なんのためにアルルゥたちを……グフっ!」

 なめらかだった口上が、突然の咳きこみに四散する。

 ティティカ姉は胸の下を押さえながら、含んだ酒を吹き散らしていた。

「ティティカ姉様?」

「ゲホ、ゲホ、エホ……」

「なにをしているんだ、お前は」

「うー、鼻に酒が入っちまったよ」

「はっはっは。

 慌てずとも肴なら給仕がいくらでも作ってきますぞ」

「誰が給仕だ、誰が」

「まぁまぁ」

 洟(はな)をすする団長を中心に、和やかな雰囲気が戻る。

 ただ一人、オンカミヤリューの姫を除いて。

「ティティカ、姉様……?」

「どしたの、カミュちー?」

「う、ううん。なにか、視えた気がしたんだけど……」

 カミュは、首を傾げてティティカ姉を見ていた。

 盃を傾け笑う軽い調子に、いつもと変わったところはない。

「ごめんね、気のせいだったみたい」

「んー……?」

 平素の空気に戻った今では、その挙動の方が不可思議に見える。

「ホント、なんでもないから、ね。

 あ、トラちゃん、モロロお代わりちょうだい」

「あ、ああ……」

 集まる注目が気恥ずかしくなったのか、カミュは慌てて話題を変えた。

「おう、給仕。俺もだ。代わりをつげ」

「……誰が給仕だ誰が」

「お前以外に誰がいる」

「貴様ぁ!」

「おぅ、やるか?」

 後に続くやりとりは、いつもと変わらぬ日々のもので、

 ささやかな出来事もまた、日常の中に埋もれていった。

 

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