うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・13~ カミュ襲来・始動

 

「むふー」

「ふぅ……」

 上機嫌なアルルゥの後を、買いこんだ食材の山を担いで歩く。

 こんな日々も、大所帯となった『ティティカルオゥル』の食事番として、すっかり当たり前の業務となってしまった。

 これでいいのかと自問しながら、どのような文句を並べても無駄だろうと諦め、拠点としている宿へと戻る。

「ただいま戻りまし、た……?」

「お?」

「ああ、ようやく帰ってきたかい」

 大部屋の戸を開けた途端、団員全員の視線に迎えられた。

 一人、久しぶりの顔も含めて。

「ニコルコ。珍しいな」

「これはこれはタイガ様。

 お久しぶりでございます、ハイ」

 小さな商人はいつかと同じ、胡散臭げな笑顔を浮かべていた。

「なんだ、また妙なものでも

 売りに来たんじゃないだろうな」

「イエイエ、そのような事は」

「今回のは朗報だよ。

 なに企んでるのか知らないけどね」

「そんな、ティティカ様。

 ワタクシ、ティティカ様のご依頼で

 寝る間も惜しんで東奔西走、

 全力で調べさせていただいたのですよ、ハイ」

「調べたって、なにを――」

「カミュも、カミュも調べたんだよー。

 褒めて褒めてー」

「苦労したのはぼくですけどね……」

 カミュが手を挙げて騒ぐ隣で、ムティ殿が深い息を吐く。

 状況は混乱していくばかりだ。

「だから、一体なんの――」

「なにをボケてんだい。

 アタシらがなんのためにここにいるのか

 忘れたのかい?」

 なんのために……

 忘れるわけがない。

 兄上の剣気を前に、なにもできなかった無力感は、変わることなく胸に渦巻いている。

「……それじゃ、もしかして」

「エエ、エエ。

 ご依頼いただいた仮面の女性の行方、

 調べてまいりましたですよ、ハイ」

 そう。

 雪辱を晴らすため。

 そして、アルルゥの姉上の行方を知るために、だ。

 その唯一の手がかりこそが、ハクビと呼ばれていたあの白い仮面の女。

「今、どこに?」

「ハイ。

 ここより西に十数日の道程の先に

 ムルと呼ばれる国がありまして、

 その興亡に関連して、

 彼の姿が見受けられたとか、ハイ」

「ムルの、興亡? 戦があったのか」

「いまどき珍しくもなかろう。

 争いの噂がない国を探す方が難しい」

「それは、そうだが……」

 テルテォの言葉は確かだが、そこにあの女が関わっているとなると、意味合いが違ってくる。

 戦の裏にその影は見え隠れするのだが、いったい何を目的として動いているのか……

「ねー、カミュも。

 カミュも調べてきたんだってば」

 霞がかった疑問への思考が、横からの声に寸断された。

 見ればカミュが頬を膨らませ、わかりやすい不機嫌を示している。

 逆らわない方が身のためだ。

「あ、ああ。

 カミュの話はどんなものなんだ?」

「うんとねっ、えっとね、あの、ね……

 ムティ、説明」

「はいはい……」

 勢いこんでいたわりに、カミュはあっさり話の主導を手放していた。

 後をムティ殿が継ぐ。

 疲労の表情は隠す気もないらしい。

「こちらの話も内容は

 そちらの方のものと同様です。

 周辺隣国に派遣された國師(ヨモル)たちの話を聞いたところ、

 確かに白い仮面の女性であったと」

「なる、ほど……」

「ま、正直どっちの話も

 確実性には欠けるけどね」

「それでも、二種別系統から

 同じ情報が流れてきたのは事実だ。

 確かめてみる価値はあるのではないか」

 ティティカ姉の否定的な意見には説得力があった。

 リネリォ殿の冷静な判断にも。

 いずれにせよ先の疑問と同様、考えているだけで答えが出せる問題ではあるまい。

 迷いはなかった。

 今は行動するときだ。

「行きましょう。

 ようやく掴んだ手がかりだ。

 この機会を無駄にする愚かはない。

 今すぐ発ち、可能な限りの速さをもって追えば、

 あるいは身柄を押さえる事も――」

「トラ。ちょっとまつ」

 口早な某(それがし)の言葉を遮ったのは、真面目な顔をしたアルルゥだった。

 その真剣なまなざしに、血が熱くなっていることを自覚する。

 そうだ、気を急く時こそ冷静にならなければ。

 小さな努力の積み重ねだけが、某(それがし)に取り得る最善なのだから。

「どうしたアルルゥ。

 なにか他に問題が?」

 心を鎮めて声を待つ。

 語られた、某(それがし)が見落としていた事柄とは、

「おなかすいた」

 ……なるほど、アルルゥが真剣になるには十分な理由であった。

「ゴハンまだ?」

「……あのな。

 今はそんなことを言っている場合じゃ――」

「さあ、今日の晩メシはなにかねぇ」

「味付けは凝りすぎないでくれ。

 酒の味の妨げとなる」

「だそうだ。わかったか、タイガ」

「カミュはね、お魚がいいな。

 あんまり骨の多くないの」

「姫さま、ワガママはいけません。

 あ、ぼくは菜の物だけでお願いします」

「申し訳ありませんねぇ、

 ご相伴にあずからせていただきます、ハイ」

 ……なんなのだろう、この連帯感は。

 一同は口々に勝手をホザきながら、着々と食事の準備を整えていた。

 それはもう、この十数日で培われた『ティティカルオゥル』の当たり前の日常で。

 肩が床にまで落ちる錯覚を覚えながら、某(それがし)も、厨房に足を向けているのであった。

 

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