うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
ウペキエより西に十数日の道程を経て、雇兵団(アンクァウラ)『ティティカルオゥル』の一行は、新興国家ヌルティオセにへと辿りついた。
かつてはムルと呼ばれていた国だ。
皇族に対する重臣の謀反。
血で血を拭う凄惨な戦。
数多の禍根と因縁を残し、それでも国は新たに生まれる。
この地に起きた事も、その一つに過ぎない。
戦乱の世では当たり前となった出来事だ。
雇兵(アンクアム)にとってはありがたい時代なのだろう。
到着したばかりであるにも関らず、仕事には事欠かないのだから。
仮面の女、ハクビがいずこにいるのかは知れないが、きっと戦の影に潜んでいるには違いまい。
奇妙な確信に導かれ、某(それがし)たちは新たな務めを受けていた。
亡国ムルの残党狩りという仕事を。
「しかし、今の世にはあのような指揮官しかいないのか?
怪しげな所を各自で探してこいなどという
いい加減な指示は聞いたことがない」
「ま、いいじゃないか。
おかげで好き勝手にやらせてもらえるんだから」
「皇都ってことでにぎわってるしね。
ほらほらアルちゃん、なんだかおもしろそうなものが
いっぱいあるよー」
「んー、おいしそう」
営みの場を移しても、『ティティカルオゥル』の女性陣は相変わらず元気だ。
生気のない男衆とは雲泥の差といえる。
「やれやれ、あれしきの移動でなんて様だい、情けない」
「まったくだな。我が弟ながら不甲斐ないことこの上ない」
「ムティは、まぁそのままでもいいよ。お小言がなくて」
「う、うぅ……」
散々な言われようだが、某(それがし)は反論の声すら上げられずにいた。
テルテォも、ムティ殿も似たようなもの。
立っているのがやっとという有様だ。
別段、移動の工程自体がそれほどに堪えたわけではない。
某(それがし)とて旅には慣れた身だ。
仮に一月や二月の野宿が続いたとて、戦もできぬような無様に陥りはしない。
だが、この面々での旅となれば、話はまったく別だ。
ここまでの道中でこうむった無理、無茶、無体。
上げていけばキリがない。
特にアルルゥとカミュに至っては、なにかしでかすたびに男三人の誰かが被害を受けるという有様だった。
久しぶりにゆっくり体が休められるかと思うと、この場で意識が途切れそうになる。
無論、それを気にする者などこの場には誰一人いないわけだが。
「しかし、勝手にやれるとはいっても
なんの手がかりもないでは調べようもないだろう。
少しは上へのコネもなければ。
タイガの身柄でも売れぬか」
「うーん、この子は
エヴェンクルガとしては半人前だからねぇ。
あまり名を使うわけにもいかないだろ」
……確かに、無断で里を出てきた某(それがし)が堂々と名を出すわけにはいかない。
事情を察して言いつくろってくれているのだろうが、ティティカ姉の言い方はあんまりだと思う。
「ふむ……。オンカミヤムカイの
國師(ヨモル)とやらの話はどうだ」
「もともと隣とかの国の話だったみたい。
この国には國師(ヨモル)がまだ来てないんだよね。
まぁ、カミュが顔だしちゃうとお姉様に知られちゃうから、
それもあんまり」
同じような立場であるにも関わらず、笑いながら頭の後ろを掻くカミュは、どういうわけだか楽しげだった。
なぜか、無性に悲しくなる。
「そうか……前途は多難だな」
「まあ元々信憑性の薄い話だからね。
確証もない状態で派手に動いて感づかれてもまずいだろ。
あまり気を張りすぎるんじゃないよ、アルルゥ」
「ん……」
ティティカ姉の呼びかけに、アルルゥが小さく答えていた。
思う余裕もなかったが、気を張っていたらしい。
考えてみれば当たり前だ。
某(それがし)とて、リュウガ兄への想いを起こせば、自然と両の脚に力が戻る。
それとて、歩けるほどではないのだが。
「それじゃ、とりあえずゴハン」
やはり気にする様子もなく、アルルゥは某(それがし)の袖を引いて歩きだしていた。
向かう先は、街の雑踏。
「な? ちょ、ま――」
抗(あらが)う声にも、助けの求めにも、誰も応えようとはしない。
ただにこやかに、生あたたかい目で見送っているばかり。
空の気力が完全に尽きる。
思いのほか強い力に、某(それがし)は新たな街へと引きずられていた。