うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・17~ ユズハの願い・調査

 

 オボロ殿たち、反ヌルティオセの一団がひそむ拠点を離れた某(それがし)たちは、そのヌルティオセの雇兵(アンクアム)指揮官へ、調査の報告を行った。

 

 東の森に異常なし、と。

 

 虚偽の報告というわけではない。

 内容を保留しているだけだ。

 すべては仮面の女を捕らえるため。

 アルルゥの姉上と、リュウガ兄を探すために。

 

 今は拠点とした宿の中で、今後の指針を話し合っている。

「さて、どう調べていこうかね」

「まずは、その女が確かにいるのかを確認するべきだろう。

 どこに、どちらについているのかもな」

「敵の所在もわからぬ状態とは厄介なものですな。

 まずは反軍ごと、可能性を一つ潰すというのはどうでしょう?」

「それって、ユズっちやオボロ兄様を捕まえるってこと?」

「うー、そんなのダメ」

「い、いや、別段実行部隊を潰さずとも、

 その上にいる者を捕らえればよいわけで。

 もしその女が裏で画策しているのなら、

 必ずや頭と通じているはずです」

「それは一面の真理ですね。

 確かに、戦に干渉しようと思うのなら、

 末端よりも中央に籍を置いた方が

 なにかと都合はよいでしょう」

 常にない、しかし妙に馴染んだ声を交えて。

「へえ。まだ若いのに

 しっかりしたもんだね」

「オボロおじ様たちに仕込まれましたから」

「それじゃ、なにか策もあるかい?」

「そうですね……

 指揮している者を調べる、というのは

 重要だと思います。

 幸い双方に道があるわけですから。

 ここではヌルティオセの内情を、

 戻ってからは皇族の方を

 調べていただいてはどうでしょう。

 おじ様はともかく、ドリさんグラさんは

 そちらの方面でも優秀ですから」

「うん、悪くはなさそうだ。

 危険も少なく確実性も高い。

 当面はその案でいってみようか」

「うむ、異存はない」

「まどろっこしい気はしますが、

 姉上がそういうのであれば……」

「タイガはどうだい。

 なにか言いたそうだけど、

 他に考えがあるのかい?」

「いえ、案はよいと思うのですが……」

 話を振られ、少し戸惑う。

 違和感のない会合の場を、なぜ皆が気にしていないのかが、むしろ不思議だ。

 思わず顔を向けた先、首を傾げた視線とぶつかる。

「あの、やはりユズカ殿は

 戻られた方がよろしいのでは?」

 森の社にいるべき少女が、そこにいた。

 某(それがし)の言葉に、儚(はかな)げなまなざしがわずかに揺れる。

「ご迷惑ですか?」

「えー、トラちゃんひどい」

「うー」

「い、いや、迷惑だなどとは

 思っておりませんが……」

「私は、自分の目で確かめたいのです。

 この国の行く先を」

 ユズカ殿の態度は、優柔不断な某(それがし)などより、遥かにしっかりしたものだった。

 返された強い意志を前に、それ以上のなにを語れよう。

「……わかりました。

 無理はなされぬように」

「はい。お心遣い感謝いたします。タイガ様」

「ん、ユズっち、アルルゥたちといっしょ」

「そうそう。カミュたちといっしょにいたほうが楽しいよ」

「はい」

 ましてや、左右から抱かきつかれた幸せそうな笑顔を見ては。

 それでもなぜか、まったく別種の心配が、心の隅にわだかまる。

 

 

「ユズカ! ユズカはどこだっ、

 どこに行ったああ!」

「わ、若様!」

「おおお落ち着いて下さい、若様!」

「ユーーーーズーーーーカーーーー!!」

 

 

 遥か遠くからの叫び声が、妙にはっきりと聞こえた気がした。

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