うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・21~ ユズハの願い・訓練

 

 社の前の拓けた場に、テルテォの咆哮が響き渡る。

「がああああああ!」

 実戦さながらの気迫と共に、双刃の槍を振るいながら。

 刃の風は嵐となり、巻きこむ全てを斬り刻む。

 大気であれ、人であれ、その威力からは逃れる術はあるまい。

 だが、その破壊の力を相手に正面に立ちながら、オボロ殿は一歩たりとも退いていなかった。

「フっ――ジャ――シャっ――」 

 短く息を継ぐ音が、打ち合う鋼の中に消える。

 煌(きらめ)く火花は攻防の残滓。

 大木すら削り折るテルテォの猛攻を、オボロ殿は二本の刀だけで捌いていた。

 打ち、払い、引きこんで。

 それは力によってではなく、ただ卓越した速さによって。

 触れた槍が秘める力を、解放される前に流している。

 恐ろしく直線的でありながら超絶的なその技術は、ただ戦場でのみ鍛え上げられるのだろう。

 敵の動きをすべて見て、それを遥かに上回る速度で弾いている。

 テルテォを嵐と例えたが、オボロ殿のそれは閃光にしか見えなかった。

「く、のぉお!」

「殺(シャ)!」

「お、がっ……」

 さらに一つ踏みこんだテルテォの動きを見逃すことなく、オボロ殿は逆に跳びこんで、その首を振り薙いでいた。

 裏に返した刀の峰で。

「か……っ!」

 声もなく、テルテォはウマ(ウォプタル)の上から崩れて落ちる。

「次っ」

 その様を見届ける事もせず、オボロ殿は次の相手に視線を向けた。

 先にいるのは迫るリネリォ殿。

 槍から放たれるのは自らの技に、駆けるウマ(ウォプタル)の速度をも併せ加えた、音すら断ち裂く必殺の一撃。

「ハっ!」

「っ――」

 だが、オボロ殿はそれすらをも凌いでいた。

 常人であれば斬られたことすら気づかぬであろう一撃を、ただ地に伏せることでやり過ごす。

 それとて動くのが速すぎれば、軌道を変えて叩きこまれていただろう。

 感嘆すべきは見極める目だけではなく、それに対応できる身体そのものだ。

 だが、圧倒されているばかりでは意味がない。

 これ程の手練との手合わせの機会、滅多にあるものではないのだから。

「参る!」

「来い」

 某(それがし)もまた、オボロ殿へと向きあい、進んだ。

 抜刀は踏みこみと同時に。

 刃は輝きを残して鞘から飛び出し、オボロ殿の首へ定めた軌跡を疾り抜けた。

 ――揺らめきを残した残像の跡を。

 真の気配は刹那の間に、某(それがし)の左方へ移っている。

 だが、それはまだ読みの内だ。

 上下同時に迫り来る刃を、円の一撃で受け、弾く。

 続く左右からの攻めも、また同じ様に。 

 交わる線と円の攻防。

 重なり響く鋼の音は、瞬く間に十の合を越える。

 反撃に転じる暇は、ない。

 度重なる二刀の威力に、剣を握る力は次第に殺され、

「ぐ、あっ」

 気がつけば、愛刀は某(それがし)の手から逃げ出していた。

「く、ぅ……」

 それ以上戦う余地は残されない。

「ここまでだな」

 オボロ殿は悠然と、某(それがし)の首に右手の刃を添えていた。

「お前らの技は上品すぎる。

 勝利に対する執着が足りん。

 もっと生き足掻いてみせろ。

 剣は舞の道具ではないぞ」

「グ……」

「俺がかつて見たエヴェンクルガの剣は

 こんなものではなかったがな。

 ここがお前の限界か?」

「っ!」

 刃が下がった一瞬に、地を這い転がり移動する。

 探し当てた自らの剣を持ち上げながら、無理やり息を整えた。

「……まだだ。

 エヴェンクルガの剣は、

 この程度ではない!」

 握る力はまだ戻らず、脚は地を捉えきれない。

 心臓は破裂しそうな勢いで脈を打ち、気を練る呼吸もままならぬ。

 到底戦える状態ではないが、それでも……

「それでこそ、だ」

 構えられた二刀越しの楽しげな笑みと声に、わけのわからぬ怒りがこみあげてくる。

「おおおおおおお!」

 上げる叫びは心から。

 残る力のすべてをもち、再びオボロ殿へと迫った。

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