うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
社の前の拓けた場に、テルテォの咆哮が響き渡る。
「がああああああ!」
実戦さながらの気迫と共に、双刃の槍を振るいながら。
刃の風は嵐となり、巻きこむ全てを斬り刻む。
大気であれ、人であれ、その威力からは逃れる術はあるまい。
だが、その破壊の力を相手に正面に立ちながら、オボロ殿は一歩たりとも退いていなかった。
「フっ――ジャ――シャっ――」
短く息を継ぐ音が、打ち合う鋼の中に消える。
煌(きらめ)く火花は攻防の残滓。
大木すら削り折るテルテォの猛攻を、オボロ殿は二本の刀だけで捌いていた。
打ち、払い、引きこんで。
それは力によってではなく、ただ卓越した速さによって。
触れた槍が秘める力を、解放される前に流している。
恐ろしく直線的でありながら超絶的なその技術は、ただ戦場でのみ鍛え上げられるのだろう。
敵の動きをすべて見て、それを遥かに上回る速度で弾いている。
テルテォを嵐と例えたが、オボロ殿のそれは閃光にしか見えなかった。
「く、のぉお!」
「殺(シャ)!」
「お、がっ……」
さらに一つ踏みこんだテルテォの動きを見逃すことなく、オボロ殿は逆に跳びこんで、その首を振り薙いでいた。
裏に返した刀の峰で。
「か……っ!」
声もなく、テルテォはウマ(ウォプタル)の上から崩れて落ちる。
「次っ」
その様を見届ける事もせず、オボロ殿は次の相手に視線を向けた。
先にいるのは迫るリネリォ殿。
槍から放たれるのは自らの技に、駆けるウマ(ウォプタル)の速度をも併せ加えた、音すら断ち裂く必殺の一撃。
「ハっ!」
「っ――」
だが、オボロ殿はそれすらをも凌いでいた。
常人であれば斬られたことすら気づかぬであろう一撃を、ただ地に伏せることでやり過ごす。
それとて動くのが速すぎれば、軌道を変えて叩きこまれていただろう。
感嘆すべきは見極める目だけではなく、それに対応できる身体そのものだ。
だが、圧倒されているばかりでは意味がない。
これ程の手練との手合わせの機会、滅多にあるものではないのだから。
「参る!」
「来い」
某(それがし)もまた、オボロ殿へと向きあい、進んだ。
抜刀は踏みこみと同時に。
刃は輝きを残して鞘から飛び出し、オボロ殿の首へ定めた軌跡を疾り抜けた。
――揺らめきを残した残像の跡を。
真の気配は刹那の間に、某(それがし)の左方へ移っている。
だが、それはまだ読みの内だ。
上下同時に迫り来る刃を、円の一撃で受け、弾く。
続く左右からの攻めも、また同じ様に。
交わる線と円の攻防。
重なり響く鋼の音は、瞬く間に十の合を越える。
反撃に転じる暇は、ない。
度重なる二刀の威力に、剣を握る力は次第に殺され、
「ぐ、あっ」
気がつけば、愛刀は某(それがし)の手から逃げ出していた。
「く、ぅ……」
それ以上戦う余地は残されない。
「ここまでだな」
オボロ殿は悠然と、某(それがし)の首に右手の刃を添えていた。
「お前らの技は上品すぎる。
勝利に対する執着が足りん。
もっと生き足掻いてみせろ。
剣は舞の道具ではないぞ」
「グ……」
「俺がかつて見たエヴェンクルガの剣は
こんなものではなかったがな。
ここがお前の限界か?」
「っ!」
刃が下がった一瞬に、地を這い転がり移動する。
探し当てた自らの剣を持ち上げながら、無理やり息を整えた。
「……まだだ。
エヴェンクルガの剣は、
この程度ではない!」
握る力はまだ戻らず、脚は地を捉えきれない。
心臓は破裂しそうな勢いで脈を打ち、気を練る呼吸もままならぬ。
到底戦える状態ではないが、それでも……
「それでこそ、だ」
構えられた二刀越しの楽しげな笑みと声に、わけのわからぬ怒りがこみあげてくる。
「おおおおおおお!」
上げる叫びは心から。
残る力のすべてをもち、再びオボロ殿へと迫った。