うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・34~ オンカミヤムカイへの道・姉

 

 朝食の用意を整えて部屋に戻ると、ティティカ姉が酒を飲んでいた。

 なにかの乾物を噛み砕き、それを流しこむように。

 どんな時でも楽しんで飲む人なのだが、今の表情は妙に苦々しい。

「ティティカ姉?」

「ん?

 ああ、タイガ。

 どうしたい?」

「いえ、珍しく顔をしかめて

 飲んでおられたので」

「ああ、ムルの珍味ってのを試してたんだけどね、

 どうにも口に合わなくてさ。

 やってみるかい?

 キママゥの脳みそに漬けた

 大烏賊(クァテル)の腸(わた)の干物だけど」

「い、いえ。遠慮しておきます。

 ティティカ姉がお楽しみください」

 苦味ある笑みで返されたのは、いつものティティカ姉の声であったが。

 なおも干物を噛み砕き、しばし顔をしかめていたが、飲み干した途端、妙に艶(つや)のある流し目を向けてきた。

 なにかを言いたげな、それでいて問いを求めるような視線に、悪寒に似た冷たさが心臓をつかむ。

「な、なんですか、ティティカ姉。

 某(それがし)がなにか?」

「いやーね。その呼び方にも

 ずいぶん慣れたみたいだなと、

 ちょっと嬉しくなってね」

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。

 礼節を忘れたつもりはないが、随分と気軽に呼びかけている気がする。

 仮にも団の長に対して、だ。

 他の者の目には、エヴェンクルガに相応しくない軽挙として映るかもしれない。

「……もう少し規律を重んじた方が

 よいでしょうか」

「なんで?

 むしろもっとお近づきになりたいんだけどねぇ」

「のわっ?」

 言いながら、ティティカ姉はいきなり抱きついてきた。

 某(それがし)の頭を抱えこんで、後ろに胸を押しつけくる。

「ティ、ティティカ姉っ」

「ふふ、かわいいねぇ」

「からかわないでくださいっ」

 振り払うまでもなく、あっさりと離れている。

 浮かべる笑みは子供のように無邪気で、戦の時に見せる鋭さの欠片もない。

 心底、今を楽しんでいる笑顔だった。

「そうそう、そんな感じでね。

 さ、朝餉といこうじゃないか。

 遅れるとアルルゥがうるさいよ」

「まったく……」

 思わず息を吐きながら、しかし某(それがし)も悪い気分ではない。

 最初に感じた違和感も、今はすっかり消えている。

 朝食の算段を思い描きながら、跳ねるように歩いていくその背を追った。

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