うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
朝食の用意を整えて部屋に戻ると、ティティカ姉が酒を飲んでいた。
なにかの乾物を噛み砕き、それを流しこむように。
どんな時でも楽しんで飲む人なのだが、今の表情は妙に苦々しい。
「ティティカ姉?」
「ん?
ああ、タイガ。
どうしたい?」
「いえ、珍しく顔をしかめて
飲んでおられたので」
「ああ、ムルの珍味ってのを試してたんだけどね、
どうにも口に合わなくてさ。
やってみるかい?
キママゥの脳みそに漬けた
大烏賊(クァテル)の腸(わた)の干物だけど」
「い、いえ。遠慮しておきます。
ティティカ姉がお楽しみください」
苦味ある笑みで返されたのは、いつものティティカ姉の声であったが。
なおも干物を噛み砕き、しばし顔をしかめていたが、飲み干した途端、妙に艶(つや)のある流し目を向けてきた。
なにかを言いたげな、それでいて問いを求めるような視線に、悪寒に似た冷たさが心臓をつかむ。
「な、なんですか、ティティカ姉。
某(それがし)がなにか?」
「いやーね。その呼び方にも
ずいぶん慣れたみたいだなと、
ちょっと嬉しくなってね」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
礼節を忘れたつもりはないが、随分と気軽に呼びかけている気がする。
仮にも団の長に対して、だ。
他の者の目には、エヴェンクルガに相応しくない軽挙として映るかもしれない。
「……もう少し規律を重んじた方が
よいでしょうか」
「なんで?
むしろもっとお近づきになりたいんだけどねぇ」
「のわっ?」
言いながら、ティティカ姉はいきなり抱きついてきた。
某(それがし)の頭を抱えこんで、後ろに胸を押しつけくる。
「ティ、ティティカ姉っ」
「ふふ、かわいいねぇ」
「からかわないでくださいっ」
振り払うまでもなく、あっさりと離れている。
浮かべる笑みは子供のように無邪気で、戦の時に見せる鋭さの欠片もない。
心底、今を楽しんでいる笑顔だった。
「そうそう、そんな感じでね。
さ、朝餉といこうじゃないか。
遅れるとアルルゥがうるさいよ」
「まったく……」
思わず息を吐きながら、しかし某(それがし)も悪い気分ではない。
最初に感じた違和感も、今はすっかり消えている。
朝食の算段を思い描きながら、跳ねるように歩いていくその背を追った。