うたをつぐもの―うたわれるもの・After―   作:根無草野良

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~第二幕・47~ ウルトの溜息・孤児院

 

「わーい、ウルトリィさまー。あそぼー」

「だめだよ。わたしとあそぶんだから」

「ちがうやい、ぼくとあそぶんだいっ」

「あらあら、ケンカはいけませんよ。

 みんなで遊びましょうね」

 自分を巡って言い合う子供たちを、ウルトリィ様は優しく諭した。

 浮かべている心からの笑顔に、政務の疲れは欠片も感じない。

「えー」

「はいっ。みんなであそびますっ」

「そう。チェムはいい子ですね」

「えへー」

「あー、ぼくもっ。ぼくもみんなであそぶっ」

「ふふ。そうね。みんなで一緒にね」

 慈しみの笑みは飾りなく、柔らかな抱擁は温もりに満ちている。

 今この時だけは、日頃の神々しさも鳴りを潜めていた。

 子供たちと戯れるウルトリィ様の姿は、正に母親そのもので、某(それがし)は知らぬ間に口元を小さく緩めていた。

 

 オンカミヤムカイはウルトリィ様の指導の下、他国との友好政策を進めている。

 下の町にあるこの孤児院も、その一環として作られたものだ。

 規模こそ小さいが多種多様な子供たちの集まりは、しかし、和やかにまとまっているようだった。

 ウルトリィ様が尽力しているのだから、当然の結果であろう。

 私財を投じ、自らも足しげく通いつめ、拾いきた子たちに愛情を注いできたのだという。

 賢大僧正(オルヤンクル)の激務をこなしながら、だ。

 まったく、感服せざるを得ない。

 

『ヴォ~ゥ……』

 努力の結実を前にして感慨に浸っていると、横手から悲鳴が聞こえてきた。

 いや、正確に言えば咆哮が。

「わーい、おなかもこもこー」

『ヴォヴォウォウ』

「こっちはカチンカチンだぞ。かっこいー」

「石でぶってもへいきなんだってさ」

「おー、すげー」

『ヴォ、ヴォ~~ン』

 アルルゥに従って同行していたムックルは、子供たちに乗られたり、ひっぱられたり、つねられたりと、大人気だった。

 少し身じろぎすれば、撥ね除ける事など造作もないのだろうが。

『ヴォォウ』

「ダメ、ガマンする」

『ヴオン……』

 アルルゥにそう言われては動けないだろう。

 おかげで某(それがし)も安心して笑いを向けられる。

 睨みくる青い瞳がメラメラと燃えてはいたが、今は気にしない事にした。

「ねえねえ、おにいちゃん」

「ん?」

 気がつけば、某(それがし)の周りにも子供たちが集まりきていた。

 あやすのはあまり得意ではないのだが、今ならばよい対応もできそうだ。

「なんだい?」

「おにいちゃんもいっしょにあそぼ?」

「ああ、いいよ。

 よっ、と」

「きゃ? わ、あはは!」

 話しかけてきた女の子を持ち上げ、上下左右と宙に舞わせてやる。

 回し、揺らし、急に動かしてやるほどに、少女は笑い声を高くした。

 よほど楽しげに見えたのだろう。

 その子を降ろしてやった時、周囲の瞳には爛々(らんらん)たる光が点っていた。

「さあ、なにして遊ぶ?」

「今の、今のもう一回やって!」

「あー、いいなー」

「おにいちゃん、ぼくもー」

「はは、よしよし。順番だぞ」

 我も我もと押し寄せる子供たちに、にこやかなまま語りかける。

 だが、小さな群れが生む威力を、正直なところ、侮っていた。

「ずるいー、わたしがさきー」

「ちがうよ、ぼくだよ」

「こら、ケンカするんじゃない。

 ちゃんと順を守ってだな――」

 加熱する子供の好奇心は弱気な制止の声など聞きもせず、ただ欲のままに押しよせてくる。

「おにいちゃん、ぼくからー」

「やだー、ぼくがさきー」

「わたしだよね、おにいちゃん」

「ちょ、ま、乗る、なばっ?」

 それを本気で押しのけるわけにもいかず、結果、あえなく押し倒されていた。

 関わらず、子供たちはますます乗りかかってくる。

 もはや目的など考えてはいまい。

「い、痛っ、こら、乗るな……!

 ごっ!? は、腹っ、腹に、入って……!」

「きゃはは。ぼくがさきー」

「わーたーしー」

 悶絶を聞くほどに子供たちは調子を上げてくる。

 もはや目的は、某(それがし)の上で飛び跳ねる事に変わっているようだ。

 こ、このままでは、本気でマズ――

「みんな、どく」

 意識が遠退きかけたその時、救いの声が降ってきた。

 緊迫したアルルゥの言葉に、圧し掛かっていた重みが、一つ一つ消えていく。

 肺に戻った空気を味わった後、ようやく安堵の息を吐けた。

「ア、ルルゥ……

 ありがたい、たすか……?」

 だが、感謝の言葉は結べなかった。

 

 上から振り落ちくる、白い影に気づいたから。

 

「な……」

 疑問を浮かべる暇すらない。

「だがぁ!?」

『ヴォン』

 跳躍し、某(それがし)への着地を果たしたムックルは、妙に満足げな息を吐いていた。

「ム、ックル、おま……」

『ヴモフ』

「ぎゅむ……!」

 こちらは反論すら許されず、ただ踏み潰されるのみ。

 代わりに、アルルゥが非難の目を向けていた。

「もー、ムックル。

 めっ」

『ヴォゥ……』

「い、言ってやれ、言ってやれ」

「動いちゃダメ。そのままじっとしてる」

「うぉい!?」

『ヴウォウン』

 かろうじて搾り出した抗議もまた、ムックルの楽しげな一声に掻き消されるばかり。

 さらに群がりくる子供たちの重さを、某(それがし)は身をもって思い知らされたのだった。

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