うたをつぐもの―うたわれるもの・After― 作:根無草野良
オンカミヤムカイを出立し、カルラゥアトゥレイへと向かう道を、馬車に揺られながら進む。
某(それがし)は御者台で手綱を引きながら、ティティカ姉の話に耳を傾けていた。
「カルラゥアトゥレイって国は、確か、
クンネカムンの大乱のちょっと前に
出来た国じゃなかったかな。
かつての大国ラルマニオヌの
血族が治めてるとかなんとか」
「ラルマニオヌ……
ギリヤギナの末裔ですか」
「ああ。
今はその時とはまったく別の国に
なってるらしいけどね。
どんな統治かは知らないけど」
「イエイエ、なかなか善政が敷かれているそうですよ。
国力を潤し、争いは好まず、
されど敵に対しては容赦ない姿勢を崩さぬと」
「ホントにー?
なんか信じられないなー」
「ん。
そういうの、ダメっぽかった」
カミュとアルルゥの感想には、妙に実感がこもっていた。
知り合いが国の中枢に関わる人物なのか。
カミュの立場を考えればさほど不思議でもないが、アルルゥまで随分と顔が広いものだ。
それはともかく。
「なぜお前までついてくる」
振り返り、ちゃっかり馬車に乗り込んでいるニコルコの姿に、思わず目を平めていた。
相も変わらぬヘラヘラとした笑みが、どうしても馴染めない。
小柄な商人は気にすることもなく言葉を続けた。
「イヤイヤ、
ワタクシも師匠から言付かった仕事なわけでして」
「オンカミヤムカイへの遣いは果たしただろう。
流れの商人がわざわざ危険な国に
なにをしに向かう」
「イエイエ、
危険な時ほどワタクシたちのような者にとっては
稼ぎ時なわけですよ。
それに、皆様のお手伝いなど
させていただければ、と」
「お前になにができるというんだ」
「ワタクシがおりますとなにかと便利ですよ?
例えば……こんなものをご用意したり」
言いながら、ニコルコは自身の荷を広げていた。
木の根や葉の乾物に奇妙な花。
鳥獣魚蟲の剥製に、用途不明のカラクリ細工。
オンカミヤムカイの下町にも似た雑多さに、娘二人が熱心な関心を寄せる。
アルルゥとカミュは目を輝かせて、小さな市に見入っていた。
「なーに、これ?」
「そちらはケシニェウの秘薬です。
ニモリの腸(わた)とニキガラの毒を調合したもので、
服用者の意識を奪い、
思うがままに操る事ができるようになります、
ハイ」
「なに?」
「これは?」
「緊冠のカラクリでございますね。
特定の言葉に反応して
着用者の頭を締め上げる逸品でございます」
「おい……」
「じゃ、こっちとかも?」
「さすがお目が高い。
こちらニニキロホロの宝珠と申しまして、
相手の心を読めるという優れもの。
これを使えば気になるあの方の
あんな秘密やこんな恥ずかしい過去も
すべて丸わかりという」
「おー」
「おもしろそー」
「冗談じゃないっ」
そんな怪しげなシロモノをこいつらが手にしたら……。
想像するだに背筋が凍る。
思わず刀に手をかけ、立ち上がっていた。
「捨てろ、そんなもん!
いや、そいつごと馬車から捨ててやる!」
「ひ、ひええ?」
「わわ、トラちゃん、
あぶないってば」
「うー、トラ、うるさい」
「馬車を動かしてる最中に
御者台から離れないでほしいねぇ」
カルラゥアトゥレイに到着するまで、ドタバタ騒ぎは延々と続く事になるのだった。