令和のモリアーティ(旧版)   作:オッパッピー

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第十八話 ラムからの依頼(後編)

翌日の放課後。

 

帝丹高校。

 

小西は最後の授業を終え、静かに教科書を閉じた。

 

「今日はここまでだ」

 

「次回までに、配布した問題集の二十三ページまで解いておくように」

 

生徒たちが一斉に立ち上がる。

 

「ありがとうございました!」

 

教室を出た小西は、隣の教室から出てきた椎名と合流した。

 

「お疲れさまでした、先生」

 

「ああ」

 

二人は職員室へ戻り、事務作業を終える。

 

やがて夕暮れの校門を並んで歩き始めた。

 

その姿は、昨日と何も変わらない。

 

どこにでもいる教師だった。

 

---

 

その頃、喫茶ポアロ。

 

安室は閉店後の店内で、一人ノートパソコンを開いていた。

 

昨夜の暗号通信。

 

「ラム、コニャックと接触」

 

その一文だけでは任務内容までは分からない。

 

しかし、それだけで十分だった。

 

(ラムが直接動く案件……)

 

(かなり重要な仕事だ)

 

公安警察へ暗号化した報告書を送信する。

 

『コニャックが新たな任務を開始した可能性あり』

 

送信完了。

 

安室は静かに息を吐いた。

 

(だが、内容までは掴めない)

 

(あの男は痕跡を残さない)

 

---

 

その夜。

 

小西の書斎。

 

伊達眼鏡を外した小西は、ラムから受け取ったUSBメモリの内容を読み込んでいた。

 

画面には三つの海外犯罪組織の相関図。

 

資金の流れ。

 

幹部同士の関係。

 

通信履歴。

 

数百ページに及ぶ資料を、小西は驚くほどの速さで読み進める。

 

椎名は温かいコーヒーを机へ置いた。

 

「どうぞ、先生」

 

「ありがとう」

 

「状況はいかがでしょうか」

 

「予想よりずっと簡単だ」

 

小西は画面から目を離さない。

 

「三つの組織は互いを敵だと思っている」

 

「実際には、一人の武器商人に踊らされているだけだ」

 

椎名は静かに頷く。

 

「つまり、その武器商人を排除すれば」

 

「排除する必要はない」

 

小西は淡々と言う。

 

「情報を一つ流すだけでいい。疑心暗鬼は、人を勝手に殺し合いへ導く。僕は引き金を引かない。引き金を引く理由を与えるだけだ」

 

その言葉に、椎名は小さく息をついた。

 

「先生らしい方法ですね」

 

小西はキーボードを左手で軽快に叩く。

 

数分後。

 

三通の暗号メールが送信された。

 

送信先は、それぞれ別の犯罪組織。

 

内容は一見すると機密情報だった。

 

しかし、その情報は巧妙に加工されている。

 

すべて真実。

 

ただし、受け取る側が互いを裏切り者だと誤解するように並べ替えられていた。

 

「終わった」

 

小西は静かに椅子へもたれかかる。

 

椎名が時計を見る。

 

「十五分ですか」

 

「三日も必要ありませんでしたね」

 

「計算してみたら、十五分で十分だった」

 

その表情は変わらない。

 

数学の問題を一問解いただけ。

 

そんな程度の感覚だった。

 

---

 

三日後。

 

黒の組織のアジト。

 

ジンとウォッカがラムの前へ立っていた。

 

「報告しろ」

 

ラムの問いに、ウォッカが資料を差し出す。

 

「海外の三組織ですが、昨夜をもって停戦しました」

 

「武器商人も、組織同士の誤解を解くため自ら仲裁へ動いています」

 

「死者は?」

 

「ゼロです」

 

ジンが鼻で笑う。

 

「相変わらず気味の悪い仕事をしやがる。誰一人撃たずに戦争を終わらせやがった」

 

ラムは静かに資料を閉じた。

 

「これがコニャックだ」

 

「銃より頭脳の方が効率がいいことを、あいつは知っている」

 

ジンは窓の外を眺める。

 

「気に入らねぇ野郎だ。だが、敵には回したくはねぇ」

 

---

 

翌朝。

 

帝丹高校。

 

「では、この問題を解いてみろ」

 

黒板へ数式を書き続ける小西。

 

教室では生徒たちが真剣にノートを取っている。

 

その頃、地球の裏側では、小西が十五分で描いた設計図によって、一つの抗争が静かに終結していた。

 

誰も知らない。

 

目の前で数学を教えている教師が、世界の裏側を数式一つで動かしたことを。

 

小西は静かにチョークを置く。

 

「数学とは、最も効率的に答えへ至る学問だ」

 

その一言は授業の説明でありながら、彼自身の生き方そのものでもあった。

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