朝の帝丹高校。
一時間目が終わる休み時間。
職員室では教師たちが次の授業の準備を進めていた。
小西は静かにテスト用紙へ目を通し、赤ペンを走らせている。
その向かいでは椎名が国語の教材を整理していた。
「どうぞ先生」
椎名が湯気の立つコーヒーを机へ置く。
「ありがとう」
小西は短く礼を言い、再び採点へ戻った。
その時だった。
職員室の扉が開き、毛利蘭が顔を覗かせた。
「失礼します」
「あら、毛利さん」
椎名が柔らかく微笑む。
「何かご用ですか」
「はい」
蘭は職員室へ入り、小西の前まで歩いてくる。
「先生、この前返していただいた数学の小テストなんですけど」
「この問題だけ、どうしても分からなくて……」
小西は答案へ目を落とした。
「この式か」
「はい」
「ここは公式を覚えるのではなく、途中式を理解する」
小西は紙へ数式を書きながら説明する。
「だから、この条件を先に整理する」
「すると自然に答えが出る」
蘭の表情がぱっと明るくなった。
「あっ!」
「そういうことだったんですね!」
「ありがとうございます!」
「理解できたならいい」
それだけ言って、小西は再び採点へ戻る。
蘭は笑顔で頭を下げた。
「失礼しました」
蘭が職員室を出ていく。
椎名はその背中を見送りながら微笑んだ。
「毛利さんは本当に熱心ですね」
「ああ」
「努力家だ」
小西も短く答えた。
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昼休み。
中庭。
蘭と園子がベンチで昼食を取っていた。
「ねえねえ」
園子がサンドイッチを頬張りながら言う。
「小西先生ってさ」
「もし探偵になってたら、工藤くんにも負けないくらい事件解決しそうじゃない?」
蘭は少し考えてから笑った。
「そうかも」
「前の事件の時もすごかったし」
「でも、小西先生って犯人を捕まえることにはあんまり興味なさそうだよ」
「そうなのよねぇ」
園子も苦笑する。
「警察に全部任せちゃうし」
蘭は空を見上げた。
「新一だったら」
「きっと先生と事件の話で盛り上がるんだろうな」
(新一と……小西先生)
(もし本当に顔を合わせていたら)
(何を話していたんだろう)
その様子を、小西は二階の廊下から静かに見下ろしていた。
偶然聞こえた蘭たちの会話。
「工藤新一」の名前。
伊達眼鏡の奥で、小西の視線がわずかに細くなる。
(毛利蘭)
(今も工藤新一の帰りを待っているか)
その横へ椎名が歩いてくる。
「先生」
「次の授業のお時間です」
「ああ」
二人は歩き出す。
(江戸川コナン)
(僕の想像が正しければ、お前は"工藤新一"だ)
(だが、まだ僅かに証拠が足りない)
小西は何事もなかったように教室へ向かった。
その背中を見送りながら、椎名は静かに尋ねる。
「先生」
「やはり、江戸川君ですか」
小西は立ち止まらない。
「まだ確実な証拠はない」
「確実な証拠もなしに、子供を手にかけられるか」
椎名は小さく頷いた。
「承知しました」
昼休みの喧騒の中、帝丹高校にはいつもと変わらぬ穏やかな時間が流れていた。
しかし、その穏やかな日常の裏では、互いに正体を探り合う静かな心理戦が、今日も続いていた。