令和のモリアーティ(旧版)   作:オッパッピー

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第二十一話 名探偵の空席(前編)

 

朝の帝丹高校。

 

一時間目が終わる休み時間。

 

職員室では教師たちが次の授業の準備を進めていた。

 

小西は静かにテスト用紙へ目を通し、赤ペンを走らせている。

 

その向かいでは椎名が国語の教材を整理していた。

 

「どうぞ先生」

 

椎名が湯気の立つコーヒーを机へ置く。

 

「ありがとう」

 

小西は短く礼を言い、再び採点へ戻った。

 

その時だった。

 

職員室の扉が開き、毛利蘭が顔を覗かせた。

 

「失礼します」

 

「あら、毛利さん」

 

椎名が柔らかく微笑む。

 

「何かご用ですか」

 

「はい」

 

蘭は職員室へ入り、小西の前まで歩いてくる。

 

「先生、この前返していただいた数学の小テストなんですけど」

 

「この問題だけ、どうしても分からなくて……」

 

小西は答案へ目を落とした。

 

「この式か」

 

「はい」

 

「ここは公式を覚えるのではなく、途中式を理解する」

 

小西は紙へ数式を書きながら説明する。

 

「だから、この条件を先に整理する」

 

「すると自然に答えが出る」

 

蘭の表情がぱっと明るくなった。

 

「あっ!」

 

「そういうことだったんですね!」

 

「ありがとうございます!」

 

「理解できたならいい」

 

それだけ言って、小西は再び採点へ戻る。

 

蘭は笑顔で頭を下げた。

 

「失礼しました」

 

蘭が職員室を出ていく。

 

椎名はその背中を見送りながら微笑んだ。

 

「毛利さんは本当に熱心ですね」

 

「ああ」

 

「努力家だ」

 

小西も短く答えた。

 

---

 

昼休み。

 

中庭。

 

蘭と園子がベンチで昼食を取っていた。

 

「ねえねえ」

 

園子がサンドイッチを頬張りながら言う。

 

「小西先生ってさ」

 

「もし探偵になってたら、工藤くんにも負けないくらい事件解決しそうじゃない?」

 

蘭は少し考えてから笑った。

 

「そうかも」

 

「前の事件の時もすごかったし」

 

「でも、小西先生って犯人を捕まえることにはあんまり興味なさそうだよ」

 

「そうなのよねぇ」

 

園子も苦笑する。

 

「警察に全部任せちゃうし」

 

蘭は空を見上げた。

 

「新一だったら」

 

「きっと先生と事件の話で盛り上がるんだろうな」

 

(新一と……小西先生)

 

(もし本当に顔を合わせていたら)

 

(何を話していたんだろう)

 

その様子を、小西は二階の廊下から静かに見下ろしていた。

 

偶然聞こえた蘭たちの会話。

 

「工藤新一」の名前。

 

伊達眼鏡の奥で、小西の視線がわずかに細くなる。

 

(毛利蘭)

 

(今も工藤新一の帰りを待っているか)

 

その横へ椎名が歩いてくる。

 

「先生」

 

「次の授業のお時間です」

 

「ああ」

 

二人は歩き出す。

 

(江戸川コナン)

 

(僕の想像が正しければ、お前は"工藤新一"だ)

 

(だが、まだ僅かに証拠が足りない)

 

小西は何事もなかったように教室へ向かった。

 

その背中を見送りながら、椎名は静かに尋ねる。

 

「先生」

 

「やはり、江戸川君ですか」

 

小西は立ち止まらない。

 

「まだ確実な証拠はない」

 

「確実な証拠もなしに、子供を手にかけられるか」

 

椎名は小さく頷いた。

 

「承知しました」

 

昼休みの喧騒の中、帝丹高校にはいつもと変わらぬ穏やかな時間が流れていた。

 

しかし、その穏やかな日常の裏では、互いに正体を探り合う静かな心理戦が、今日も続いていた。

 

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