令和のモリアーティ(旧版)   作:オッパッピー

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第九話 届かない証拠

夕暮れの喫茶ポアロ。

 

店内にはコーヒーの香りが静かに漂い、客足も落ち着きを見せていた。

 

カウンター席に座るコナンは、一台のスマートフォンを安室の前へ滑らせる。

 

画面には『ライフ・ライン』という相談サイトが表示されていた。

 

「安室さん。このサイトなんだけど……」

 

安室は手を止め、画面へ目を向ける。

 

「見たところ、ごく普通の相談サイトですね」

 

「表向きはね」

 

コナンは小さくうなずいた。

 

「でも、裏で何かが動いている気がする」

 

これまで追い続けてきた小西と椎名。

 

そして、相談サイトと不可解な事件との共通点。

 

コナンは自分の推測を一つひとつ説明していく。

 

話を聞き終えた安室は静かに腕を組んだ。

 

「なるほど……」

 

その瞳から柔らかな店員の雰囲気が消え、鋭い光だけが残る。

 

「もし君の推測が正しいなら、相当慎重な相手だ」

 

「だからこそ証拠が欲しいんだ」

 

コナンは真剣な表情で言う。

 

「小西先生が、本当にコニャックなのか」

 

安室は小さく息を吐いた。

 

「少し調べてみよう」

 

その言葉だけを残し、静かに立ち上がった。

 

---

 

その頃。

 

小西は自宅でパソコンの画面を見つめていた。

 

夜の静かな部屋。

 

伊達眼鏡を外した小西の横には、ハーブティーを運んできた椎名が立っている。

 

「小西先生」

 

「ありがとうございます」

 

小西は礼を言うと、画面へ視線を戻した。

 

ほんのわずかな変化。

 

普段とは異なるアクセスの痕跡が表示されている。

 

小西は眉一つ動かさない。

 

「何かありましたか」

 

椎名が尋ねる。

 

「少し珍しい来客だ」

 

小西は淡々と答えた。

 

「こちらを確かめようとしている」

 

「警察でしょうか」

 

「それだけではない」

 

画面を見つめたまま、小西は静かに続ける。

 

「組織の事情も知る人物だ」

 

椎名はそれ以上何も聞かなかった。

 

小西がそう言う以上、すでに状況は見通せているのだと理解していたからだ。

 

小西は静かにキーボードへ指を置く。

 

「少しだけ、道案内をしてあげよう」

 

その口元には、ごくわずかな笑みが浮かんでいた。

 

---

 

翌日の放課後。

 

コナンは再びポアロを訪れていた。

 

安室はコーヒーカップを置き、静かに口を開く。

 

「調べてみた」

 

コナンは身を乗り出す。

 

「どうだった?」

 

「決定的なものは何も見つからない」

 

短い返答だった。

 

「管理情報も運営元も、一見すると不自然な点はない」

 

コナンは言葉を失う。

 

「小西先生との接点も?」

 

「確認できなかった」

 

安室は首を横に振る。

 

「証拠として使えるものは何もない」

 

その言葉を聞いた瞬間、コナンは違和感を覚えた。

 

(違う)

 

(証拠がなかったんじゃない)

 

(最初から、見つからないようになっていたんだ)

 

嫌な予感だけが胸の中で膨らんでいく。

 

---

 

その時だった。

 

カラン――。

 

ポアロのドアベルが鳴る。

 

店内へ入ってきたのは、小西と椎名だった。

 

黒いスーツ姿の小西。

 

その一歩後ろを歩く椎名。

 

二人は店内を見回し、空いている席へ向かう。

 

「いらっしゃいませ」

 

安室は普段どおり穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「初めてのお客様ですね」

 

「ええ」

 

小西は静かにうなずいた。

 

メニューを受け取りながら店内を見回し、不意に安室へ視線を向ける。

 

「落ち着いた店ですね」

 

淡々とした口調だった。

 

「静かな場所は好きです」

 

その言葉に、安室は一瞬だけ目を細めた。

 

小西はそれ以上何も言わない。

 

注文を済ませると、今度はコナンへ視線を向けた。

 

「江戸川君」

 

突然名前を呼ばれ、コナンの肩が小さく震える。

 

「最近はずいぶん忙しそうだね」

 

「……そうかな?」

 

「無理はしないことだ」

 

小西は静かな笑みを浮かべる。

 

「答えを急ぐと、かえって遠回りになる」

 

その言葉だけ残し、小西は椎名とともに席を立った。

 

「ごちそうさまでした」

 

椎名は店員たちへ丁寧に一礼する。

 

「また伺います」

 

二人は何事もなかったように店を後にした。

 

ドアベルの音が静かに響く。

 

店内に残されたコナンは、小西が座っていた席を見つめ続けていた。

 

「……読まれてる」

 

思わず漏れた言葉に、安室も静かにうなずく。

 

「ああ」

 

「こちらの動きを予測しているように見える」

 

コナンは拳を握り締めた。

 

「でも、まだ終わってない」

 

窓の外では、小西と椎名の姿が夕暮れの街へ溶け込んでいく。

 

その背中を見送りながら、コナンは静かに決意を新たにした。

 

「必ず追いつく」

 

「どれだけ先を読まれていても……勝負は、まだ終わっていない」

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