夕暮れの喫茶ポアロ。
店内にはコーヒーの香りが静かに漂い、客足も落ち着きを見せていた。
カウンター席に座るコナンは、一台のスマートフォンを安室の前へ滑らせる。
画面には『ライフ・ライン』という相談サイトが表示されていた。
「安室さん。このサイトなんだけど……」
安室は手を止め、画面へ目を向ける。
「見たところ、ごく普通の相談サイトですね」
「表向きはね」
コナンは小さくうなずいた。
「でも、裏で何かが動いている気がする」
これまで追い続けてきた小西と椎名。
そして、相談サイトと不可解な事件との共通点。
コナンは自分の推測を一つひとつ説明していく。
話を聞き終えた安室は静かに腕を組んだ。
「なるほど……」
その瞳から柔らかな店員の雰囲気が消え、鋭い光だけが残る。
「もし君の推測が正しいなら、相当慎重な相手だ」
「だからこそ証拠が欲しいんだ」
コナンは真剣な表情で言う。
「小西先生が、本当にコニャックなのか」
安室は小さく息を吐いた。
「少し調べてみよう」
その言葉だけを残し、静かに立ち上がった。
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その頃。
小西は自宅でパソコンの画面を見つめていた。
夜の静かな部屋。
伊達眼鏡を外した小西の横には、ハーブティーを運んできた椎名が立っている。
「小西先生」
「ありがとうございます」
小西は礼を言うと、画面へ視線を戻した。
ほんのわずかな変化。
普段とは異なるアクセスの痕跡が表示されている。
小西は眉一つ動かさない。
「何かありましたか」
椎名が尋ねる。
「少し珍しい来客だ」
小西は淡々と答えた。
「こちらを確かめようとしている」
「警察でしょうか」
「それだけではない」
画面を見つめたまま、小西は静かに続ける。
「組織の事情も知る人物だ」
椎名はそれ以上何も聞かなかった。
小西がそう言う以上、すでに状況は見通せているのだと理解していたからだ。
小西は静かにキーボードへ指を置く。
「少しだけ、道案内をしてあげよう」
その口元には、ごくわずかな笑みが浮かんでいた。
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翌日の放課後。
コナンは再びポアロを訪れていた。
安室はコーヒーカップを置き、静かに口を開く。
「調べてみた」
コナンは身を乗り出す。
「どうだった?」
「決定的なものは何も見つからない」
短い返答だった。
「管理情報も運営元も、一見すると不自然な点はない」
コナンは言葉を失う。
「小西先生との接点も?」
「確認できなかった」
安室は首を横に振る。
「証拠として使えるものは何もない」
その言葉を聞いた瞬間、コナンは違和感を覚えた。
(違う)
(証拠がなかったんじゃない)
(最初から、見つからないようになっていたんだ)
嫌な予感だけが胸の中で膨らんでいく。
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その時だった。
カラン――。
ポアロのドアベルが鳴る。
店内へ入ってきたのは、小西と椎名だった。
黒いスーツ姿の小西。
その一歩後ろを歩く椎名。
二人は店内を見回し、空いている席へ向かう。
「いらっしゃいませ」
安室は普段どおり穏やかな笑顔を浮かべる。
「初めてのお客様ですね」
「ええ」
小西は静かにうなずいた。
メニューを受け取りながら店内を見回し、不意に安室へ視線を向ける。
「落ち着いた店ですね」
淡々とした口調だった。
「静かな場所は好きです」
その言葉に、安室は一瞬だけ目を細めた。
小西はそれ以上何も言わない。
注文を済ませると、今度はコナンへ視線を向けた。
「江戸川君」
突然名前を呼ばれ、コナンの肩が小さく震える。
「最近はずいぶん忙しそうだね」
「……そうかな?」
「無理はしないことだ」
小西は静かな笑みを浮かべる。
「答えを急ぐと、かえって遠回りになる」
その言葉だけ残し、小西は椎名とともに席を立った。
「ごちそうさまでした」
椎名は店員たちへ丁寧に一礼する。
「また伺います」
二人は何事もなかったように店を後にした。
ドアベルの音が静かに響く。
店内に残されたコナンは、小西が座っていた席を見つめ続けていた。
「……読まれてる」
思わず漏れた言葉に、安室も静かにうなずく。
「ああ」
「こちらの動きを予測しているように見える」
コナンは拳を握り締めた。
「でも、まだ終わってない」
窓の外では、小西と椎名の姿が夕暮れの街へ溶け込んでいく。
その背中を見送りながら、コナンは静かに決意を新たにした。
「必ず追いつく」
「どれだけ先を読まれていても……勝負は、まだ終わっていない」