仕事が忙しい+体調を崩していたため遅くなりましたが、これからはハイペースで投稿したいと思います。
~ヤチヨ・ベレトside~
今はヤチヨに押し切られる形でツクヨミに来ていた。
『じゃあベレトはここからヤチヨのライブを見ててね~。あ、特別に用意した関係者ゾーンだから安心してね』
「言ってくれれば関係者ゾーンの手配なら自分でしたぞ。それと、なぜ今日はツクヨミで見させるんだ?いつもと同じように配信を見る形ではダメなのか?」
『ダメダメ、今日は特別な日なのです!なんといっても久々に彩葉がミニライブのチケットに当選したんだから!』
「なるほど、何のしがらみもなくツクヨミ上で会えるタイミングなのか」
『そうなの。あと、今日はかぐやも彩葉に連れられてライブに来る日なんだ~』
「!…そうか」
そう、今日は運命の日。
彩葉がかぐやを連れてライブに来る、そしてかぐやがこの後発表するヤチヨカップに優勝するためにライバーになることを決めた日。
とうとう、とうとうこの日が来た。
私はいつも通りふるまえているだろうか、いつも通りの笑顔でいられているだろうか。
そんな不安を抱えている私の手をベレトが優しく握る。
「大丈夫だ。ヤチヨは今日も変わらず輝いている、君を一番見てきた俺が保証する。」
ずるいなぁ、ベレトは。
私が不安な時や寂しい時、いつも気づいて寄り添ってくれる。
うん、もう大丈夫。ベレトだって今日はツクヨミから見ててくれている。
それを知っているだけで、今日のヤチヨは最強無敵になれるから!
『それじゃあ、行ってきます。ライブ楽しんでね!』
「あぁ、行ってらっしゃい。ライブ、楽しんでくれ。」
よーし、まずは今日のミニライブを最高のものにしないとね!
~彩葉side~
「ねぇ彩葉、何が始まるの?」
「見てればわかるから!」
カウントダウンが始まり、会場と生中継を見守る声がシンクロする。
そしてツクヨミ中の人間が同時に0を叫んだ瞬間
『ヤオヨロー!神々のみんな~、今日も最高だったー?』
現れた月見ヤチヨが、一言で会場を爆発させた。
『よーし、今宵もみんなを誘っちゃうよ~☆Let's go on a trip!』
こうして今夜もヤチヨの圧巻のライブが幕を開け、会場は熱狂の海となった。
「彩葉!ねぇ彩葉ってば!」
「…え?」
耳元の大声で我に返った。振り返ると、驚いた表情の金髪かぐや姫が私を見ている。
もしかすると、何度も呼びかけさせてしまったのだろうか。
「どうして泣いてるの。彩葉?」
そうか、私は泣いていたのか。
この涙のわけはどうか説明させないでほしい。言葉にするとたちまち陳腐なものに変わってしまいそうな気がするから。
…それにしても素晴らしいライブだった。歌もパフォーマンスも、ヤチヨ自身も。
そんな思いは観客共通のものであったらしい。
冷めない興奮と感動が、拍手と歓声に代わってステージに降り注ぐ。
その真ん中でヤチヨは大きく手を振ってファンに応えた。
『イェーイ!感謝感激雨アラモード!うぅ、ヤチヨは果報者なのです☆』
『あ、ここでお知らせ!ヤチヨカップっていうイベントを開催しま~す☆FUSHI、詳細よろしくぅ』
ヤチヨの肩にのったFUSHIの目からスクリーンが投影される。
『はーい!参加資格があるのはツクヨミの全ライバー!一か月の期間の中だけで最も多くの新規ファンを獲得した人が優勝だよ。優勝者にはなんんと、ヤチヨとのコラボライブの権利を進呈!世界一盛り上がるコラボライブステージを一緒に作れるよ!』
「うっそコラボライブ!?ヤチヨが!?」
「コラボライブ?なにそれ、すごいの?」
「当たり前じゃん!すごいもなにも、配信のコラボはあったけど、ライブはいつも一人で歌ってたんだよ!?なに?誰と?これは歴史的なライブになるよ!」
「へーじゃあ彩葉、一緒にやろ?」
やれるか。やっぱりなにも理解していない。
「無理に決まってんじゃん。こういうのは誰になるか大体決まってんの。私らみたいなモブとやるわけないじゃん。」
その瞬間「バーン!」とド派手な爆音が轟いて、観客全員が注目する。
そう、こういうのは誰になるか決まっているのだ、例えば彼らみたいに。
ライブ会場に突然出現したのは
「黒鬼じゃん!」
「帝様~!」
熱烈な歓声に応えるように屋形が割れる。
まず現れたのは、鬼をイメージしたスキンを纏う男性アバター。さらにその両脇をそれぞれローブのような服を着たアバターと、地雷系少女っぽいファッションのアバターが固めている。
悲鳴にも似た歓声が、ライブ会場を別種の熱狂に包みこんだ。ツクヨミで抜群の人気を誇る三人組のプロゲーマーユニット、ブラックオニキス。
通称黒鬼の登場である。アイドルとしての人気も博し、その活動は多岐にわたる。
「よう、子ウサギども!お前らの帝様が来たぜ」
割れんばかりの歓声の中、虎車から降り立ったリーダーの帝アキラは、不敵な笑みを浮かべながら漆黒の角を光らせた。
彼がパチンと指を鳴らすと、会場のモニターがジャックされ彼らのスポンサー企業と輝かしい経歴をまとめたPVが流れる。
ユニットのロゴから始まり、スポンサー、数々のeスポーツ大会の優勝記録、ライブ映像と続く。BGMは彼らのオリジナル曲だ。
相変わらずだなぁ…見つからないように、かぐやの背中に身を隠す。
向こうは私のアバターを知らないと思うけど。
「また、祭りが始まるな」
「俺って今日も作画よすぎ♡でしょ♡」
寡黙な男
ツインテールにミニスカート。一見すると女子にしか見えないが、男性アバターだ。無論、声も男。
「俺たちに優勝してほしいよな?底なしの夢を見せてやるぜ!」
最後に帝が決めポーズでファンの心を撃ち抜いた。破裂音と共に紙吹雪が舞う演出付きだ。
再度歓声が爆発する。この歓声を聞けばわかってしまう。ヤチヨカップの優勝者は彼らだ、その場にいる全員がそう確信した。
「というわけで、俺たちが優勝するから、ヤチヨちゃんコラボよろしくね」
『そういう運命なら、もちろんヤチヨは従うよー』
もしかすると、主催者であるヤチヨも?
「すげー、ヤチヨと黒鬼の夢のコラボか」
「こりゃあ、伝説になるぞ!」
さらに詰めかけた観客たちも、ライブ配信を見ているリスナーたちも。
たった一人の宇宙人を除いては。
「ヤぁぁーーチぃぃーーヨぉぉーー!!!!」
遠からむ者には音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。
「かぐやがヤチヨカップ優勝する!そんで絶対にコラボライブする!いろh…むぐっ」
慌てて口を塞いだ頃には、もう遅かった。
こいつやりやがった。信じられない。あんなに約束したのに。
目立たない、一個目の約束だったのに。あたりの人間全員が振り返ってこちらを見ていた。
面白いやつがいる、そんな目で。観客たちも黒鬼も。
『…いとかわゆし』
あまつさえ、ステージ上のヤチヨまで。
「あんたは、いつも勝手に!」
本当はすぐにでも逃げ出したかったけど、できない。だってこのライブは―
『ほいでわ、ライブはいったんここでクローズ♪みんなとちょこっとお話しさせてね。さらば~い☆』
そう、握手券付きなのだ。ライブの終演を告げると、ヤチヨは分身して会場の観客一人ひとりに向かて話しかけに行く。
ここからは配信もなく、チケットを入手した人間だけが味わえる夢の時間だ。
ヤチヨと対面でおしゃべりして、握手してもらえる。信じられない、緊張で指先が冷えていくのを感じる。
「ねぇ彩葉、一緒にやろ?」
「だめ、そんなのむ『ムリムリムリ!小娘が!』り…!?」
無理と言おうとした矢先にかぶせて言われてしまった。声の主を見やると、FUSHIだった。
FUSHIってこんなしゃべり方だったっけ。いつもはもっとザ・マスコット的な可愛げのある喋り方のような…?
『こーらっ』
威嚇するFUSHIを制したのはヤチヨだった。ヤチヨだ!目の前にヤチヨがいる!…しかも小さいバージョンだ。
ヤチヨは普段身長160センチくらいなのだが、たまに130センチくらいのちびヤチヨになっている時がある。
条件不明のレア現象が発生して、興奮が加速する。周りの分身ヤチヨたちは大人ヤチヨのままだった。
なんで私にだけ!?多分いつもの気まぐれなのだろう。でも…可愛すぎる!!!
『お忘れかな~?ヤチヨカップの参加はライバー限定なのです♪』
「そっか!じゃあかぐやライバーになる!そうと決まれば準備準備~」
そういってかぐやは速攻でログアウトした。やばい、ヤチヨと二人だ、どうしよう。
あんなに楽しみにしていたのに、言いたいことも準備してきたのに。
だめだ、何も思い出せないし頭の中がぐちゃぐちゃだ。どうすれば…。
『今日も楽しめた?』
「!? は、はいっ!」
口ごもっていると、ヤチヨから話しかけてきてくれた。聞きなれた優しい声だ。
そうだ、ヤチヨは私が―ファンが楽しむことを一番喜ぶはずだ。深呼吸して、伝えなきゃ。
「いつも、ヤチヨに支えられてて…暗くて寒くて長いトンネルみたいな感じで…でもヤチヨがいるから耐えられてるっていうか…」
やばい、いま私なんていってた?前後つながってた?意味不明なこといっちゃった、もっと気の利いたことを言うはずだったのに…
『もっと気の利いたこと言いたかった~って、思ってる?』
「うぇあ!?なんで!?」
見透かされてる!?は、はずかしい…けどちょっとウレシイ…!
『ふふん、ヤチヨはエスパーなのです♪それに、ヤチヨだってたまにはあてる側にならないとね☆』
にっこりと笑ったあと、からかうようにおどけるヤチヨ。なにこれ、可愛、尊死。
『ヤチヨもね、おんなじだったんだよ』
たおやかな声でそう言って、ヤチヨは小さな両手で私の手を包み込んだ。
一瞬頭の中が驚きで埋め尽くされるが、そうだった。これ、握手付きのイベントだった。
「ヤチヨ、も?」
恐る恐る聞き返すと、ヤチヨは柔らかく微笑んでうなずいた。
『-むかしむかし、ひとりぼっちのウミウシは、暗くて寒くて長~いトンネルを、ずーっと歩いていました。長い長い時間をそうしていて、もう疲れちゃったなーってとき、とってもあったかい一筋の光が照らしてくれたの。ウミウシがいっしょうけんめい光に向かっていくと、光がどんどん集まってウミウシを包み込んで、とっても大きなお月さまになりました。ウミウシはやがて人の姿になって、月を見守るためにツクヨミを作りましたとさ』
一言一句の意味を、頑張って咀嚼する。ヤチヨが、私のために話してくれたことだから。
ウミウシ…はFUSHIじゃないよね。たぶん、ヤチヨのことで、集まった光は…ツクヨミのユーザーのこと?でも一筋ってことは最初の光は違うものを指してるのかな?
で、じゃあヤチヨは私たちのことを月だと思ってて…。
「…ヤチヨ…」
光は、ヤチヨだよ。ヤチヨが、私を照らしてくれた。
『じゃ~ん☆ツクヨミ誕生秘話でした~♪みんなには、ナイショだからね?』
そんな設定見たことないから、たぶん私の話に合わせて即興で考えてくれたんだろう。
ヤチヨは楽しそうに語ってくれたのに、私は涙がこみあげてきて、泣きそうになる。
だめだ、こんな泣いてる姿をみせるわけにはいかない。
「あの、き、今日はこれで。ありがとうございました!」
頭を下げてログアウトする。それに、あんまり粘ってもヤチヨの負担になる可能性があった。
ヤチヨは私の想像に及ばないくらい高スペックだから、大きなお世話かもだけど。
そうして意識が現実に戻る直前。
『いつも来てくれてありがとね、彩葉』
後ろから、ヤチヨの声が聞こえた気がした。
「実際に目にすると、よくわかるよ。ヤチヨ…やはり君には…」
そう呟く青年の声は、ツクヨミの喧騒の中に溶けて消えていった。