とある深夜のお話。
俺が眠れず、風に当たろうとしたとき、縁側にゆりがいた。
「あら‥あなたも眠れなかったのですか?」
俺が声をかける前にゆりは目が見えていなくても俺の存在にすぐに気づいた。
「よく気づいたな」
「どれだけあなたと一緒に居たと思っているのですか‥あなたの足音、声色、息遣い‥あなたの存在に気づくのは得意なのですよ。」
ゆりは目が見えなくなって、俺と出会ってからかなり経つ。
出会った頃はこんな風になると思っていなかった。人生どうなるかやはりわからないものだ。
俺はゆりの隣に座った。
ゆりは俺の肩に顔を寄せ、笑顔で幸せそうな顔をしていた。
「せっかくですし、前のお話の続きでもお話してもいいですか?」
「寝る前に話してくれた過去の話のことか、いいよ。話しても。」
俺がそう答えるとゆりはゆっくりと話し始めた。
彼と私の父が会ってからのお話です。
自殺未遂をした私は彼に付き添ってもらいながら家路につきました。
その時に私の父と出会い、私のことや今日あったことなどいろいろ話しました。
「あなたになら、娘を任せても大丈夫そうだ。」
父が彼の方を向いてそう言った。
どうやら父は私の介護を彼に任せるつもりでいるらしい。
いやいや、彼だって忙しいだろうし‥介護なんて‥
私はそう考えていた。けれど、彼の答えは私の予想を超えてきた。
「是非、ゆりさんの介護やらせてください。俺どうせ暇なので‥」
「いいのか?でも友達と遊んだりは‥?」
「しないですね‥友達は親友の1人だけなので。そいつは部活で忙しいんで遊ぶことないんですよ。」
父は彼の予想外の返答に少しばかり戸惑っていた。
そして、私へ聞いてきた。
「ゆりは彼に介護をお願いしてもいいか?ゆりの意思を知りたい。」
彼に介護をお願いするか、しないか。
あの出来事からまだそんなに時間は経っていないのに私は彼を信頼している。
でも、まだ完全には信頼していない。裏切ることだってあるから。
少しばかり気になる。
彼の無責任な言葉。その無責任な言葉の責任を果たすことはできるのか。
信頼と不安の中、私はそんなことを思っていた。
「私は‥‥」
彼はなにも下心もない。なにかに利用しようとしているわけでもなさそう。
ただ純粋に私を助けたい。そんな風に考えている気がする。
この人なら‥
「私は彼にお願いしたいです。彼を信じます。」
この人なら盲目な私を大切にしてくれる。
それからのこと。
彼は学校終わりはすぐに私の家に来るようになった。
最初は介護に慣れてなくて大変だったけど、不器用な彼は彼なりに頑張って私のことを支えてくれた。
全盲や病気についてもいろいろ調べて勉強してくれたみたいで、よく私に質問をしてくるときも多かった。
助けるばかりじゃなくて、私の力でできることはやらせてくれたり。
困ったときは焦らないでゆっくりと助けてくれたり。
そんな日々を送っていくたび、私は彼と一緒にいる時間がいつの間にか幸せで楽しかった。
彼とは家だけで過ごすだけじゃなくて、お散歩してみたり、どこかにお買い物したり出掛けたりしました。
そんな記憶の中で思い出がありました。
それは、初めて彼の家へ行った日のことです。
「着いたよ、階段大丈夫だった?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「さて、ここが俺が住んでる神社だよ。」
彼が住んでいるところは水乃神社と言われる神社。
この神社は私たちが住んでいる地域では有名な神社で、よくお正月などにはお参りに来る人がたくさんいる。
彼の腕を掴みながら私は神社の境内を歩いていく。
神社の中で感じる風は不思議と神社の外とは違うように感じる。
まるで近くに神様がいるかのように感じる。
そして、境内を回り終わったあと、近くのベンチに座ったとき、誰かが話しかけてきました。
「あら、帰ったのですね。」
「桜さん、ただいま。」
「えっと、〜さん。今話しかけて来たのは‥?」
「彼女は水乃 桜さん。水乃神社の管理と巫女をしてる。俺と一緒に暮らしてるんだ。」
「〜様、彼女が話していた方でしょうか?」
「そうです、この子が白石ゆりです。」
「えっと‥よ、よろしくお願いします。」
私は父と彼以外と話すのはすごい久しぶりで、初対面の人と話すのは緊張してしまった。
そんな緊張した様子の私に桜さんは優しい声で話してくれた。
「ゆり様、改めまして水乃 桜と申します。以後お見知りおきを。」
声色は清楚で可憐なお姉さんといった落ち着く声色だった。
桜さんの声を聞いていると不思議と緊張は落ち着いた。
そして、自己紹介が終わり桜さんは巫女の仕事へと戻り、再び彼と私の二人っきりになった。
「桜さんとは‥付き合っているのですか‥?」
私は自然と口からそんな言葉が出てしまった。
もし付き合っていたら彼は私といるのはマズいんじゃないだろうか。
なんて不安に思っていたが、杞憂だった。
「え、桜さんと?いやいや付き合ってないよ。家族だし」
「家族ってことは血つながっているのですか?」
「あ、いや。血はつながってない。今はまだ詳しく話せないけど、桜さんとはある出来事があってから一緒に暮らし始めたんだよ。」
そう聞いて安心した私。この関係が終わることはなくてよかった。
それから彼とは神社の境内で一緒にいながらいろんな話をした。
桜さんは彼とは4年年上らしかったり、彼の学校の話や友達、ゲームやラノベ…趣味の話、いろんなことを話してくれた。
彼の話は聞いていて本当に楽しい。
目が見えない私にも想像できやすいようにわかりやすく話してくれたり、聞きやすいように早口になりそうになると話すスピードがゆっくりになったり。
私のことを考えて話してくれる。
出会って間もないころは私が彼にやってほしいこととか言っていたけれど、今の彼は私が言わなくても自然と望んでいることをやってくれる。
彼の気遣いの優しさが好き。
私は彼といる時間が本当にほんっっとうに幸せだった。
「今思い出してもいい思い出です。私はあなたと出会い、あなたが傍にいるだけで私の人生は救われてます。あなたが必要なんです。」
「……ゆり。俺の方こそ、君に救われているんだ。君が隣にいてくれるだけで、俺の毎日は色づいて見えるんだよ」
俺はそう言って、ゆりの震える細い手にそっと自分の手を重ねた。指先から伝わる彼女の温もりは、何よりも愛おしく、守るべき大切な宝物のように感じられた。ゆりは少し驚いたように肩を揺らしたが、すぐに安心したように微笑み、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。夜風が二人の頬を優しく撫で、縁側には穏やかで温かい沈黙が流れていった…。