センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
目が覚めると真っ暗闇だった。
ぼんやりとした頭で暗闇に目を慣らす。すると、居ないはずの場所に気配を感じた。よく、目を凝らして見ればそれは人影だった。幻覚か、はたまたセリナか。しかし、さらに暗闇に慣れた目が人影の輪郭をキッチリと捉えた。正座のミネがいた。ジッと見つめていた。ホラー?
「おはようございます」
「お、おはよう……?」
パチリ、電気をつけた。やっぱりミネだった。
……待って?なんで俺の部屋に居るの?
ここは俺の自室、独り身ワンルームだったハズ……。うっ、重い頭で思考を回そうにもうまく回らない。身体を起こそうとしてミネに制止された。白い手が額へと当てられる。少しひんやりとした手が気持ちよかった。
「まだ……ありますね。そのまま、横になっていてください」
手際よくタオルを濡らして絞り、額に置く。ひんやりとした感覚がまた頭痛によく効く。人知れず安堵の息を吐いた。しんどかったのが多少マシになった。
そう、俺は風邪を引いていた。それもわりかし重めの風邪だ。熱はあるし、頭痛はする。咳も出るしそれに何より鼻が酷い。ずーっと詰まり続けていてくしゃみをすればまっきっきの明らかに不健康な鼻水が出る。鼻で息出来ないから口でするしかなく喉もパッサパサだった。
確かに、確かにだ。少しだけ冷やされた頭が回っていく。俺の部屋はトリニティの寮の一室を借りている。だからセリナが来るのはまだそうおかしなことではないだろう。セリナならね。でもミネだ。
トリニティ所属になったのだから寮住まいになるのはそうで、だけど男を女性ばかりの寮に投げ込むのはあまりにも心がない話だ。猛獣の檻にA5肉を投げ入れるようなもの。食われちゃうよね。だから、寮の隅の隅であるこの管理人室には来ようとしない限り来ないハズ……。
元々は寮母の方が使っていた部屋だそうで、ナギナギが俺の部屋として使えるよう便宜を図ってくれたらしい。これがまた独り身のワンルームといった様相で密かに憧れていた一人暮らしにウキウキするなどしたのだが……それがまさか裏目に出るとは思わなかった。呼べないんだよね、助け。
鍵は掛けていたハズだしそもそも誰にも連絡した覚えはない。隅の隅だ。誰かに連絡しなかったのかって?連絡する気力すらないんだよ。そもそも、誰に連絡してもアウトだと思う。言うてヒフミですらちょっと心配だからな。つまり助けは来ないと思っていた。セリナ以外ね。いや、なんかもう慣れたからさ。どうせ来るのセリナだと思っていたのよ。まぁセリナ来るやろの精神だった。
「ミネ……扉は壊して」
「壊していないのでご安心を。セリナが侵入し鍵を開けてくださいました。セリナが看病していたのですが冷蔵庫にあまりにも食材がなかったので買い出しに行っています。私はそのつなぎです」
「そっかぁ……」
やっぱセリナだった……。マジでどこにでも侵入するな……。てかごめんだけどさ。
「ミネ、看病出来たんだ……」
「先生?」
いやだって、ミネは“壊す”方じゃん。起きてミネが目に入った時思ったもん。あ、壊される……って。てかなんでセリナじゃないの?
「……セリナが『買い出しの途中で救護者を見つけて放置できるとは思えません』と」
「ナイス判断」
英断、英断だよセリナ。ごめん、なんでセリナじゃないの?とか思って。それはそうだ。此処に閉じ込めるというか、置いておいた方が良い。正しい選択だよ。
それを聞いてホッとしたのか体の力が一気に抜ける。ふひゅ~……うん、扉が無事と聞いてさよならバイバイするかもしれない敷金礼金がカムバックしてきた。セフセフ。寮住まいだけど一応ね?借りてるしね?
ゴホッと咳が漏れる。寝る前に風邪薬は飲んだけどどうやら切れて来たらしい。薬……薬……確か枕元に水と一緒に置いてたはず。俺は手だけを伸ばして布団の横を漁る。因みに俺は布団派だ。ベッドだと寝相悪いから落ちるんだよね。柵があればいいんだけどぶつけると痛いし。
するとミネが背中に手を添えて起き上がらせながらペットボトルを差し出す。俺が用意した水だ。あんがとね。えーっと薬は……
「先生、一つ提案があるのですが」
「なぁに?」
「座薬の方が効き目が良いと思うのですが、いかがでしょう?」
「待って」
待って。待ってよ。今ちょっとその効率的救護精神はいらないかなぁ。ちょっとね。うん。頭回ってないからツッコミをさせないで。ね?思わず咽ながらミネの膝に手を置いた。本当に待って。
「お任せください。私、失敗しないので」
「名医だけどフリーのドクターなの……?」
ぴちっとゴム手袋を嵌めるミネに俺はガタガタ震えた。やめてぇ……俺のケツの純潔が失われちゃうし、ミネがやったら俺の肛門ズタズタになっちゃう……。
「ミネ……良いかい?人にはねぇ、尊厳というものがあってね?」
「それは救護よりも……いえこう言い換えましょう。命よりも優先されるものでしょうか?」
「うっ……いやぁ、それは言い過ぎじゃないかなぁ」
「先生はこの食材も何もない薬もあと1錠しかない中で風邪を治す事が出来ましょうか?」
「いや…セリナ居るし」
「セリナだからと、そう思ってないでしょうか?助けてくれるという信頼は大切にすべきですが、体調管理を疎かにするのは頂けません」
「うっ、正論が、正論が刺さる刺さる……」
ごめんよぉ、めそめそとしながらそれ以上言われると心が壊れてしまうので手を握るなどしてストップさせる。今の弱った俺にそれは劇薬なの……。やめてね?やめねぇ!って言われると俺はもう泣くしかないのだ。ふぇぇ……
「いえ、少し言い過ぎたかもしれません。そうですね、身体が辛くて、考えるの辛いですものね」
いつもと違ってひんひん泣く俺がだいぶ重症であることに気づいたのだろうミネは頭を撫でてくれた。それはそれとしてミネ、その手に持っているものは?
「座薬です」
「ねぇだから人の尊厳」
「何時までも辛い状態でいるのは酷でしょう」
「でもミネに座薬入れられるとお尻の穴が増やされちゃう……」
「先生は私の事を本当にどう思っているのですか?」
「ミカの類型」
その時のミネの顔はなんというか筆舌に尽くしがたいような顔をしていた。いやな顔と言えばそうかもしれないが色々なものが複雑に入り混じった顔で、俺はそれをぼんやり見ていた。うん。
「ごめん」
「いえ……」
変な沈黙が部屋を満たす。
「ミネ……ごめん。ちょっとホントに辛い」
「っ、先生。救護を」
「待って」
俺はモゾモゾと這う這うの身体でミネの正座に頭を乗せる。良いの、これで。
頭が痛い。じくじくとした痛みが脳の裏側を刺激して思わずミネの手に力が入る。ぎゅっ、握力は弱っているのだからそう大した強さではないのだが、それでも痛みに耐えている事は伝わったらしい。少しぎこちなく、だけど優しく頭を撫でられる。落ちた濡れタオルを後頭部に当てられた。
「話し相手になって」
「……はい、大丈夫ですよ。薬も入れればすぐによくなりますから」
「それはやめてぇ」
その頑なに座薬入れようとするのなんなのぉ……?いや効くってのは聞くけどさぁ。
ミネのお膝に甘えているとどうやら部屋の中をざっと見回したらしい。不思議そうに言った。
「なんだか、少し雑多ですね」
「あー……、一人暮らしの男なんてこんなもんだよ」
部屋の隅の積み上がった段ボールから取り出せてない諸々、買ってきた服はクローゼットに入れるのが億劫になって室内干しに使ってるハンガーラックに掛かったまま、ゴミだけはゴミ箱に入れられているが、ゴミか判断しにくいものは床に転がっている……目覚まし時計とか爪切りとか……。
「なぜ電卓が床に……?」
「あぁそれね。……寝ながら書類の計算してたから……それ」
「そう言えば見渡す限り、テーブルが見えないのはまさか……」
「あぁうん。シャーレの時はほら。ずっとシャーレの仕事机で生活してたから。買う機会なかったし、元々契約してたアパートはホント、なんもなかったし」
最近は段ボールを裏返してテーブル代わりに使ってる。そういうとミネが信じられないものを見るような目をするが、いや、段ボール机を舐めない方が良い。マジでちょうどいい高さだから。ちょうどいい高さと強度だから。
「先生、体調が回復しましたら家具を買いに行きましょう」
「えー……いらないよぉ。買って満足するだけじゃん。そういうの」
クローゼットだってもう季節ものの服を取っておくようみたいに扱ってるし。制服?そこのハンガーに掛かってる奴。パジャマ?そこのハンガーに掛かってる奴。外出用の服?そこのハンガーに掛かってる奴。ちなみにパジャマと私服は兼用(というか風呂入った後、目についた服をハンガーから取ってパジャマにしている)だ。
「正直、ご飯も今まで作ってこなかったから自炊も出来ないし」
「先生の健康状態を真剣に考える必要があるようですね。先生?健康は医食同源というようにちゃんとした食生活を……」
「アレやってるから良いもん。あの、サブスクでおかずが届く奴。ご飯サブスク、入ってるし」
まぁちょうどご飯サブスクの配達日が明日で、ちょい前にドカ食いしたから冷蔵庫空っぽになってるんだが……。でも夜にお腹空いちゃったから……食べたくなったから(意志薄弱)
「自炊で済ませる事が出来ればお財布にも優しくなりますしそういったサブスクでのおかずは確かに健康に気を遣ったものですがそれでも…」
──そんなに言うならさぁ、ミネが作ってよぉご飯。
もったりとした動作でミネを見上げてにへらと笑った。視界の端に翼が映った。ミネの翼は他の生徒達と違い青みがかった色をしているのですごい興味がある。脳のブレーキが全く効いてないので赤子のように興味あるものに触れてしまった。その翼に手を伸ばして撫でたりつまんだりする。…おっと、一枚取れちゃった。ごめんねぇ……。
そんなことをしている間、ミネは十数秒停止していた。何?電源抜かれた?コンセント抜いた人だれぇ?バッテリー持ってる人いる?……いや待って。これ俺、ミネに告白してね?言ってから気付いたというか普段なら言わないようにするんだけど熱でお口の関所を守ってる奴がダウンしたせいだ。てか半分赤ちゃんになってたかもしれない。やべっ食われる。
再起動したミネはガッと俺の服をはぎ取った。やぁん、ミネのドスケベー……うん、風邪引いてるからかまったくそんな気がしない。たたない。まったく。死にかけると人って子孫を残そうとするらしいハズなのにたってないってことはまだ俺は死ぬときではないらしい。それにマジで怠くて抵抗する気もない。そして、俺が動けないのを良いことにパンツすらずり下ろしたミネは座薬を人差し指と親指にセッティングした。
「……病人に無理をさせることなど本来いけないことなのでしょうが……。いえ、先生がいつも言っていたことでしたね。『勘違いさせた方が悪い』と。これから先生に座薬を入れます。先生が望んだことですので指を使わず、外から入れます」
……ねぇ、いや、わかった。座薬入れるのはいいよ。うん、この際それは良い。治るからね。一時の恥ずかしさは飲み込もう。でもなんで座薬をコイントスするみたいに持つの?弾くの?弾いちゃうの?弾丸なの?それで入れるの?
「はい。先生があまり触れてほしくないそうなので素早く確実に入れる為にも回転もかけて」
「尻に爆竹入れたカエルみたいになっちゃう……」
あの子供がやる残酷な奴……ミネはそれでも手を止めず、グイッと片方の手で尻を開け、ハンターハンターのゴトーがやるコイン弾きのように尻に標準を定めていた。この姿勢で?ほんとに?普通こういうのって尻を上げて四つん這いにして入れるようなものじゃないの?仰向けで直!?
ヒュゴッ
「オヒュッ」
名状しがたい感覚を味わいながら俺は尻の中に勢いよく発射された座薬(右回転)が周囲の肉を巻き込みながら腸にねじ込まれ、俺は奇声を上げながら海老反りするなどした。身体を貫通することはなかったが、俺はそこそこにダメージを受けた。主にケツの表面。ヒリヒリする……
しかし、座薬の効能は素晴らしく、その日の夜には熱は下がっていた。切れ痔にはなった。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺19
弱って脳のブレーキが無くなると赤ちゃんと魔性を複合した生徒の理性粉砕機と化す
補遺20
生活力は元々あったがシャーレの激務で失われた
学名:トリニティアオゴリラ(蒼森ミネ)
補遺1
センセイモドキが上目遣いでご飯作ってと甘えて来たあと自分の翼でキャッキャと遊んでいる姿で理性が限界を迎えそうになったがギリギリで『救護』の精神が勝った
補遺2
先生からは常々