センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
乳が降ってきた。
比喩でもなんでもなく、物理的に。
セイア“で”遊んでいたついでに頼まれ事を受けた俺は聖堂の倉庫へとやってきた。棚卸表……というわけではないが帳簿と在庫があっているかどうかの確認をするらしい。暇だったのでセイアを息がギリギリ出来なくなるくらい擽った後、俺は倉庫を訪ねた。
古びた倉庫の扉をガチャリと開けて、中にいるであろうヒナタに声を掛けようとしたその瞬間、上から乳が降ってきた。
グギィ……
「おごぉ……」
乳……いやまともに人間の体重が乗った鉄山靠的な落下アタックを食らった俺はドゥワッ……ドゥワッ……ドゥワッっ……と格ゲーで敗北したような感じにもんどりを打った。普通に致命傷で首の骨が逝きかけた。音がね。違うんだよ。ドシッとかドテッって感じじゃないの。グギィ……なの。死にかけるよね。そりゃあ。
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目が覚めると乳があった。普通に気絶していたらしい。
「あ、先生……御目覚めですか?」
乳が喋ってる
「乳が喋ってる」
しまった、心からの本音がまろび出てしまった。どうやら膝枕をされていたらしく俺の視界占有率の大半を占めていたのが乳であるだけらしかった。オゥ……BIG。いや、これは乳が喋ってると思うじゃん。普通。乳が目の前にあって、乳方面から声が発せられていたら乳が意志を持ったと思うじゃん。……ハイ、失礼しました。
「えっ、あ、私です!若葉ヒナタです。……ご迷惑をおかけしてしまって。バランスを崩してしまったところに先生が」
「あぁ、ごめん。いやそっちの方こそ怪我無かった?大丈夫?」
「いえいえ、私は何も……!それよりも先生が心配です!首……大丈夫ですか?」
大丈夫……そう言おうとして思ったより首にダメージがある事に気づく。なんというか、沈み込んだようなダメージというか……あれ?頭一段下がった?みたいな……陥没してる?首が?
「ごめん、首が陥没してるかもしれない。ちょっと見てくれない?」
「えぇ!?一大事で……あ、えっと、その触ってみたところ特に問題ないようですが」
さわさわと触られる首筋、大丈夫?沈んでない?陥没してない?
「陥没してないです」
「よかったぁ……」
俺はひとまず安心した。結構な重量物が首に落ちて来たからね。そりゃあ心配するよ。生きてるって素晴らしい、俺は心にもないことを言いながら渡そうと思っていた紙を渡す。
「これこれ、セイアから頼まれた奴。倉庫の検品だってさ。一緒にやろうぜ」
「いえいえ、そんな先生の御手を煩わせるような」
「良いの良いの。一人より二人だから……それに俺も手伝う理由があってね」
そういってヒナタの身体をザっと一通り見る。身体つきは女性だ。
しかし、要所要所を見ればそれが単なる女性の身体でないことは一目でわかる。まず、腕、細いと思われがちだがそれは体格故のものだ。触ってみるとがっしりしてることがよーくわかる。それに足。ミレミアムのデカフトモモ程じゃあないがちゃんと太い。それも常日頃運動……いや使っているタイプの足。鍛えている人の筋肉の付き方と常日頃力仕事をしている人の筋肉の付き方は別物だ。その点、ヒナタは後者……全体的にどっしりとした構えである。
「あの、先生……」
それに体幹や立ち姿もしっかりとしている。腰が安定している証拠だ。ムキムキマッソゥの人もそうだが腰が安定しないとマジで重い物もなんもかんもが持てなくなる。体幹を意識するならまず腰だ。
「そうジロジロとみられると……」
うーむ、やはり見れば見るほどしっかりした身体だ。パワータイプといったところか。目指すべき地点と言うと語弊はあるが大体同じだ。俺もこうなりたい。男の子は誰だって一度は筋肉に憧れを持つ生き物だからだ。まぁその気持ちが強くなったのは最近なんだが……
「恥ずかしいのでその……」
「あぁ、ごめんごめん。いやぁ、良い身体してるなぁ~って」
「せ、先生!?」
いや、ホント、マジで良い身体してるなぁ~~。ホントちゃんと肉付いてんだよね。良いよなぁ~。
えっ?なぜ俺が筋肉にこだわるかって?それは今まで目を逸らしてきた問題がちょくちょく顔を出すようになったからだ。俺の体力不足……ひいては筋力不足による諸々の問題だ。
此処は基本的にキヴォトス人が圧倒的に強い場所。力仕事や重労働は専らそっちに集まるし、ヘイローのない俺がやろうとするとまるで積み木を口に含もうとする赤子みたいにガードされるし、お爺ちゃん食器はそのまま置いといて良いって言ったじゃん!とばかりに奪われる。そこまで信用ない?俺そんな赤子か認知症で言ったことも効かない老人レベルなん?
だが、だがそれでも俺は男の子だ。男の子なんだよ…!重い物持って『キャーッ』って言われたいし、いざという時に女の子を抱えても大丈夫なくらいのパワーが欲しい。……最近増えたんだよね。モブっ子を抱える然り、セイアを抱っこする然り……それで気づいたんだ。体力の衰えをね……。
なので筋トレ代わりに倉庫の手伝いをしに来たというわけだ。ヒナタには体力が落ちている旨のみを伝えて体力づくりの為に手伝わせてほしいことを伝えた。顔を赤くしていたヒナタもまた別の赤みを帯びた気がしないでもないが、それでもやらせてほしい。いや、女子に良い身体してる(筋肉的に)って言われてキレないのは聖女だからね。うん、ごめんなさい。でも割と目標なんです。ヒナタ並みに筋力欲しいんです。
「そういう事でしたら……ですが、先生も無理なさらぬようにお願いします」
「それはね。大丈夫大丈夫。君達より断然弱いから。」
無理なんてしたら死ぬから。先生すぐ死ぬってレベルで死ぬからね。
そんなわけで俺達は倉庫の検品を始めたんだが……
「おごごご………」
「先生、私が運びますから……」
ロクに持ち上げられなかったり……
「先生、い、行きますよー……」
「大丈夫大丈夫、オーライ、オーライ、オーウギギギギ…重い重い重い重い!!!!」
「先生?!」
高い所にあるものを降ろそうとして上から受け取ったがあまりに重すぎて腰をやったり……
「いやいや、このくらい、このくらいはできるってぇ!?」
「先生!だいじょっ、あぅっ」
二人して足元にあった備品に気づかずすっころぶなどした。
「ちょタイム、タイムタイム。休憩休憩きゅーけー!」
俺は手でTの文字を作りいったん休憩にした。そして絶望した。
「マジで俺こんな……出来なくなってる……?」
「先生、ご無理は……」
「いや、ごめん。無理してるって気はないの。俺が、俺がね?俺が思ってるより、俺に対する理解が浅かっただけなんだ」
俺はもう……ダメなのか?
もうか。もうなのか……俺はもう焼肉で脂身が食えなくなるタイプの人間になってしまったのか。は、早くない?まだ高校生だよ?高校生にして……?今の子って早熟だよね~みたいな話あるけどそういうタイプの早熟?
「先生……少し、おやすみしましょうか。少々お待ちくださいね」
そう言ってパタパタと駆けていくヒナタを見送りながら、俺の現在について絶望する事数分から十分も経たない頃……ヒナタが戻ってきた。
手にはお弁当と水筒、それからコップを持っていた。どしたんそれ?
「はい、実はこの後ウイ様の元へお食事を運びに行こうとしたのですが……」
どうやら、ウイの不摂生を心配して倉庫の仕事が終わった後にウイにお弁当を届けようとしたらしい。良い子過ぎない?だがウイに連絡を取ったところ、早々にシミコに日光と共にエネルギーをぶち込まれたらしく、これ以上食べると豚さんになってしまうとのこと。ウイお前……いや、この場合シミコグッジョブというべきか。
そんなわけで急遽いらなくなってしまった弁当をどうしようかという折に俺が来たとのこと。そうしてお弁当の包みを開いたのだが……
「あー……重箱?」
「はい、たくさん食べられるようにと」
「えー……一人分?」
「はい!一人分ですね」
重箱三段で一人分かぁ……俺は遠い目をした。中身を開ければ所狭しと並んだキラキラとした卵に魚の塩焼き、ミートボールにタコさんウィンナー、大人が好みそうなおかずから子供が喜びそうなおかずまで網羅した完璧なお弁当だった。重量と大きさを除けば……
これ、これ毎日食べてるの?この量を?
「いえいえ、今日は特別に作ってきただけです。普段はこの半分ですね」
「重箱1.5段分……?」
男子高校生でもギリじゃないか?いや、重箱だろ?ちゃんとした重箱じゃんコレ。結構でかいなって思う奴。それで1段ならギリか。で、0.5だろ?ならまぁ行けるか……行けるかぁ?
「その、多かったでしょうか……?」
「いやいやいや、そんなことない。そんなことないから。全然!食べる食べる!いやぁ~この卵とか美味しそうだなぁ……あはは」
……俺は静かに覚悟を決めた。正直ね。ヒナタって別ベクトルで苦手な子というか見栄を張りたい気持ちにさせてくるんだよ。だって俺よりもはるかにパワーがあって、ドジっ子で天然で、それでも何とか頑張ろうとするその謙虚さ。もう眩しいくらい。やっぱりシスターフッドの子ってホント天使。サクラコですらガワが怪しいだけだもん。
ヒナタは頑張り屋さんでそれが空回りすることもある。だが、普段の生活に絞るとその圧倒的パワーで力仕事を解決していく様に俺は密かな敗北感を覚えていた。だって俺よりも重い物持ちあげるんだぜ?いやキヴォトスの大体の子はそうなんだけどさぁ。ヒナタは特によ。さっきだって俺が持ち上げられなかったデカイ箱を片手でひょいッと持ち上げてたし。何?空気だった?俺が持ち上げられなかった物。中身空気?
だからこそ、だからこそだ。俺はヒナタの前では見栄を張りたい。いや、もっというとだ。
俺も男だというところを見せたい……!そんな衝動に駆られるのだ。
だから目の前の重箱に対して俺は逃げない…!引かない……!顧みない………!
俺は箸を手に取り、重箱の山を討伐せしめんと箸を伸ばした。
「卵焼きうっま」
「焼き加減を工夫してみたんです」
「鮎の塩焼きウメェ」
「トリニティでは基本洋食がメインなので少し挑戦してみました」
「何この……野菜の辛い奴?コレ美味くね?美味くね?」
「それはもやしとピーマンをキムチ味に和えてみました」
……………
「うっぷ」
「さすがに多かったですよね……?」
食い過ぎた……。ちゃんと食い過ぎた。
確かに俺はヒナタに良いところを見せようとしたが……それ以上にちゃんとお弁当がおいしかったのもある。料理スキルがカンストしてらっしゃる?
「いや、美味い。美味いから、いっぱい食べちゃったんだ。……うぉ、動けねぇ……」
俺はまんまるふくふくと肥えたことで一歩も動けなかった。いや、普通に動くと口から漏れそうで……それ以上に動きたくないというのもあったんだが……。
「でしたら、先生。私がお運びいたしますよ」
「いや、いや……」
立ち上がろうとする。立てない。立ち上がろうと腰に力を入れる。立てない。うん、諦めよう。
「ごめん、じゃあちょっと……お願いしていい?」
「はい!私にお任せください!」
そう言って、俺をひょいッと擬音が出そうなほど軽く片手で持ち上げたヒナタにものすごく敗北感を感じるなどした俺は死んだ目で抱えられ、男の矜持に深い傷を残した日を終えようとした。……したんだが。
「あっ、先生!?」
「うぇ?……おごぉっぐぅえっ」
ドジっ子を発揮したヒナタに顔面を勢いよくすり下ろされるなどして口からまろび出そうになるお弁当を手で押さえながら、ワタワタと慌てるヒナタに救護室に向かうことを急かした。急いで、ホントに急いで。今はいいから。その、うん。男がどうのとか言わないから。ホントに……
後日、青い顔して口を押さえる俺と、それを俵担ぎのように運び込むシスターの絵面を見かけた人が『シスターフッドは先生を誘拐する』などという噂を立てられるようになった。結局その後どうなったのかって?……ヒナタには一切飛沫を飛ばしてないことを誓おう。揺れがダイレクトにね。お腹にね。はい。
負けたよ……マジで。男としても、こう……尊厳としても。俺はしくしくと泣きながら、それでも無駄にしてしまったお弁当に心底謝罪し、今度ピクニックに行くことで返すことを了承した。ちなみに重箱は5段作るらしい。ごめん……2段でいいかも。俺は一切の敗北感やらを捨て去って懇願した。3段だった。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺25
ヒナタに男しても食欲としても尊厳としても負けた
補遺26
密かに筋トレを始める
学名:トリニティカイリキシスター(若葉ヒナタ)
補遺1
近距離パワー型で細身の身体にはギチギチに“力”が詰まっている
補遺2
ありとあらゆる“力”のパラメータが高い為、当然女子力も高い