センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
シャッシャッシャッと出刃包丁を研ぐ音が保健室にこだまする。磨かれたその無機質な刀身が引き攣った顔の俺を映した。
「待ってよハナエ……それはちょっと治るモンも治らないんじゃないかな?」
ハナエに頼んだのが間違いな気がしないでもない。いやでもハナエが割と確実なんだよな……。
俺は保健室に居る。ハナエと二人きりで最近の怪我や古傷の経過観察も兼ねた診療だ。ただちょーっとばかり変な方向に話が飛んでいて、俺は今から出刃包丁で切られるらしい。マジ?
というのもだ。俺は最近無理をし過ぎた。うん。マシロを担いだり、サクラコに肩を粉砕されたりしてダメージが蓄積している気がしたのだ。今はどれも治ってはいるものの次いつ無理をするかわからない状況。故にハナエに元気(広義の意味)にしてもらおうとしたのだが……
「いえ!瀉血という昔の医療ですから!」
「それ効かないって結果出てるから……四体液説は間違いって結果が出てるから……」
四体液説……人間の身体は四つの体液のバランスからなるとされ、そのバランスが崩れることによる病や怪我の発生といった現代では眉唾オカルト民間療法な話を信じているハナエに俺は血を抜かれそうになっていた。四体液説の内の一つ、悪い血液を排出してバランスを取ろうとする行為、瀉血をされようとしていた(ウィキペディア抜粋)。死んじゃうよ?マジで死ぬよ?良いの?マジで?
ハナエは民間療法……オカルト的な治療法を信じているらしく、俺が風邪を引いた時も穴という穴にネギを突っ込もうとしてきた前科がある。故にちょっと頼るのには気が引けたのだが……でも治るんだよな。おかしいな、民間療法って大体効かないモンじゃないの?それで効いたらお医者さん要らないじゃん。……あっ、お医者さんがやるならいいのか。じゃあ広義の意味で医療に属しているハナエの民間療法は……合法?
「ものは試しです!死なないくらいに手加減するので!ではいきますよー」
「待って待って待って、やるにしても別にナイフとかそういう小さい刃物でいいのになんで出刃包丁でアーッ!!!」
ちょちょちょっ!!!俺は調理された。それはもうザックリと。チェンソーを拒否ったら出刃包丁になった悲しき事実の数秒から十数秒後、考え事をしていたその瞬間には結構な勢いで血を抜かれ、止血されたのだが……
「なんでこれで体の怠さが治るのぉ……?」
今まで抱えていた身体の怠さというか疲れというものが何故か抜けた。えっ?マジ?ホントに効くの?嘘でしょ……?てか結構出血したよね?マジで大丈夫なの?大出血のレベルだったじゃん。
「次はこれです!怪我をさせた武器に軟膏を塗ることで怪我をさせた場所が治る……!名を武器軟膏!」
「話聞いてぇ!ちょっと受け入れる時間をくれよぉ!まだ出血のショックが凄いんだって!それマジでやるつもり?ねぇ!?待ってよねぇ!シャレにならっ」
俺は儀式で使われるタイプのちゃんとした西洋の剣で肩を切られた。その後、止血され、ハナエが武器に軟膏を塗り出した。数分後……
「えぇ……切られた皮膚も肩の古傷も治ってるぅ……なんでぇ?」
切られた皮膚諸共サクラコにバキバキにされた肩の古傷が治っていた。えっ?ハナエのコレってジョジョのパールジャムみたいなノリで治るの?じゃあもうスタンドじゃん。スタンド能力じゃん。俺は目の前の現実を受け入れられず呆然としているのだが、ハナエ的にはちょっと不満があるらしい。ぷくーっと頬を膨らませる。可愛い。
「右足、見せてください!」
「え、右足?」
「はい!撃たれた傷です!」
つっても右足の付け根当たりだからズボン脱ぐしかねぇんだよな。まぁ医療従事者の前で服がどうの言ってるとマジで死ぬことになるので俺はいそいそと脱いでパンツだけになるなどする。ハナエは少し顔を赤らめながらもしかし、真剣な顔で俺の右足の古傷を見る。
「やっぱり銃傷だと武器軟膏じゃ治らないですか……やっぱり攻撃する物と傷が直接的に触れていないと効果がないという事でしょうか?」
「いや、わからんけど……そうなの?」
「はい!武器軟膏は本来、剣や槌といったものでの傷とそれら武器が感応することによって治るとされています!ただ当時は近接武器が主流だったので銃といった遠隔の攻撃は考慮されていないんですよね……。というのも武器に付いた血と傷が共感反応で癒すという考えなので、それに則ると銃にも血が付かないと意味がないんですよ」
「はー……そりゃ治らないわ。…………いや普通にオカルト医療だから治るわけないじゃん」
「でも肩の古傷は感応に巻き込まれるように治りましたよ!」
「それで治るのが意味わかんねぇんだよな……」
もうそういうオカルトとしてやっていけるだろ。だがどうやらハナエは俺の足の傷をどうにか治したいらしい。ただ肩の古傷のように切り付けてしまうと傷がパックリ割れてまた酷いことになってしまう。それに、武器軟膏は感応による力もあるのだがそもそもの自然治癒が強いらしい。なので後遺症が残るレベルの傷として残っていると治そうとするための体力やらが足りないし、傷が特殊なのもあって効かないかもしれないとのこと。
右足の付け根、ちょうど腰の骨から拳一個分離れたところに俺の古傷……名誉の負傷は存在している。アリウスのサオリ……サッちゃんに撃たれた傷だ。ちょっとね?俺がアリウスにキレてお口わるわるの
で、右足を貫通した銃弾が三つ、内部に残っちゃった銃弾が二つの計五発の銃弾を喰らった俺はちょっとホントに死にかけたし、右足の大事な神経がちょっと消し飛んでるらしい。あと内部に残っちゃった銃弾の内の一つがその大事な神経にギリギリ触れるか触れないかみたいなところまで入っちゃってるらしく、これを取り除こうとすればそれはもう大変なことになる。そう、俺の右足にはまだサっちゃんの銃弾が残ってるんだぜ!傷口が開きやすいのはそのせいだ。どうも、これを取り除くには俺の耐久力が足りないらしい……ヘイローなしですみませんねホント。
なんで俺は一時期足を切断するか否かまで話が飛んだし、気合と奇跡のリハビリがなければサっちゃんがもう自殺するレベルになっていただろう。今?サっちゃん以前にアリウススクワッドのみんな軒並み駄目になってるよ。一番マシなのがヒヨリな時点でもう御察しだ。アイツクソ図太いおかげで平然とこっちに遊びに来れるの一種の才能だろ。いやまぁアイツもアイツで反省というか罪悪感はあるにはあるんだが、それ以上に生きてるならもーまんたいみたいなノリ。次点でアツコね。ミサキ、サっちゃんの順でヤバイ。ミサキはアツコに付きっ切りにさせないと自殺癖が再発するし、サっちゃんはもうアリウスの子を複数名つけて監視させないとオーバーワーク&希死念慮で死へ猛ダッシュを決め込む。ヒヨリがフォローに回らないといけない時点でダメなんだよね。
そんなアリウスの子達にとんでもねぇトラウマを植え付けた古傷にハナエはご執心だ。やっぱり医療従事者としては治せない傷は心苦しいらしい。積極的に傷作ってるのに?
「やっぱり、中に銃弾が残ってるのがいけないんでしょうか……?でも、先生が奇跡的に生きていられるのも銃弾のおかげかも……?」
というのもキヴォトス人、それも生徒達の多くが神秘なる不思議パワーで耐久力が高かったりその耐久を貫通するダメージを与えられたりするものらしく、サっちゃんの銃弾に僅かに残った神秘の力が作用したのでは……と。元々、相手にダメージを与えるためのものだったが、先生の傷を治したいというサっちゃんの意思と残った神秘が武器軟膏のように感応したんじゃないかと。
へー、サッちゃんすげぇじゃん。俺は後日、そのことをサっちゃんに伝えると自分の命を燃やすほど神秘を俺に詰め込もうとしてきたので『やめてね』してきた。そんな元気玉みたいなノリで神秘つぎ込まれても身体が耐えきれなくて爆散しちゃうよ……。てかその神秘的なのを集めると頭のヘイローがどんどん薄くなっていってるの、どう考えても命的なものを消費してますよね?ねぇやめてね?俺サっちゃんの命で治したくないよ?
というかアリウスの子達がマジで元気玉みたいな要領で神秘をぶつけてこようとしたので俺ヤムチャしちゃうからやめてね?とスバルと一緒に呼びかけるなどした。スバルとはもうダチ越えてお母さん仲間だから……誰の母親だって?結構いるけどリオとかね。あとトキ。手が掛かりすぎるんだよ。
兎角、話を戻して……
「やっぱり足、斬りませんか?大丈夫です!生えますよ!足くらい!」
「生えないからやめてね?人間ってそんなトカゲみたいに生えたりしないから。生えたら化け物だから。それに切ったら切ったでホントにやばくなる。アリウスもそうだけど此処だと補習部とかティーパーティーがホントにダメになる」
「むぅ……」
可愛くしても許されないよ?
俺はハナエの膨らむ頬を指でぷひゅーと突っついて空気抜きするなどしていると何かを思いついたハナエがごそごそと棚を漁り、何かを見せつけて来た。
「これならどうでしょう!」
なにかの錠剤が入った小瓶をズズイと差し出される。何?特別な薬?
「はい!偽薬です!人にはプラシーボ効果……?というものがあるらしく、効果があると信じて飲めば治るそうです!なので、飲んで、切っちゃいましょう!信じたら、生えます!」
「生えないよッ!!!てかさっきまで民間療法のあれこれだったのに急にマジの奴じゃん!プラシーボ効果はあるけどそうじゃないよ!過信しすぎ!人の可能性信じすぎ!」
死ぬってぇ!信じるものは救われるというけど、信じすぎるのもおかしな話だろ。それで治ったら俺こんな苦しんでねぇから。でもでも!飲んでください!とばかりに押し付けられる偽薬を、いや足切らないで?切らないでね?と念押ししながら偽薬らしい錠剤を飲む。
一時間後
「なんか開いた傷口が塞がってるぅ……」
いやいやいや、効果があるにしても速効過ぎるでしょ。飲んで一時間はまだ吸収されてないんじゃね?マジで?
右足の痛みはあるし歩きにくさはまだあるし中の銃弾はそのままなのだが、どうやら表面のパックリ開いて縫ってあった傷には効果があったらしく、信じたことによって少なくともマシロの時に開いた怪我は大丈夫になった。
「ほら!効果があったでしょう?」
「逆に怖いよぉ……」
えぇ……?マジで信仰力が治癒力に直結するの?じゃあもう祈ったもん勝ちじゃん。俺はハナエの神秘のせいなのか民間療法がマジのモノホンなのかわからなくなり、とりあえずこれ以上は身体はともかく心が持たないとしてハナエの民間医療は一旦ストップと相成った。じゃあもう足切ったら生えるじゃん……。いやだよ、俺は足が生えるという現実を受け入れたくない。なまじそれでよくなるとしても、生えてきちゃったら化け物以外の何者でもないでしょ。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺34
民間療法(ガチ)をされた。人の可能性を垣間見た。
補遺35
神秘があるんだからスタンドもあるんだろうと思っている
学名:トリニティゲンキキュウゴ(朝顔ハナエ)
補遺1
神秘の力故か、大体ジョジョ4部のパールジャムと同じことが出来るためとんでもない途中経過さえ目を瞑れば基本的に治せないものはない。が、大体パールジャムな為、本人の体力が足りないと治し切れなかったりする
補遺2
治せない理由に神秘が関わっているのではと考えている。