センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
「先生やっほー、生きてる~?」
「生きてるぅ~」
俺はモゾモゾと布団から頭をほっぽるとヨシミが靴を脱ぎながらビニール袋片手によっ、と声を掛けられる。今回の生存確認はヨシミらしかった。
ハッキリ言おう。俺に生活力は皆無だ。いや、こっち来る前はなんとか自炊したり人並にはあったんだけどこっち来て仕事に忙殺されてもう全くといって良い程出来なくなっていた。出来なくなっていたというか……やる気がなくなったというのがオチ。ホントね、家事ってやらないとホントにやる気なくなるね。マジ。
だもんで俺の風邪事件より露呈した生活力のなさを心配したトリニティの生徒が一定の生活力がある子をこうしてたびたび派遣してくれるようになった。生存確認も兼ねてだ。風邪引きの時はセリナがいたから何とかなったとはいえ……また同じことが起きた時にセリナが来ないこともあるかもしれない。多分、きっと、メイビー。
この生存確認係が他の学園にも広がり、他学校で俺が来た時のみの臨時の係みたいになってるのは後日話すことにする。ゲヘナとかフウカが常勤しちゃわない?いやフウカにしても誘拐されるし常勤は無理か……。
「外暑すぎ……季節はどこ行っちゃったのよ。春の記憶が花粉症くらいしかないんだけど」
「ほんそれ。四季じゃなくて二季だよな」
「いくらキヴォトスの生徒でも熱中症で倒れるわよ……そのレベルの殺人的気温ね。あ、アイス買ってきたわよ」
「あざすあざす。エアコンガンガンに効かせてるから食べようぜ」
段ボール机とローテーブルを取り出し布団を部屋の隅にぞぞぞっと押しのけてスペースを作る。勝手知ったる人の家とばかりにキッチンからスプーン二つを取ってきたヨシミがジト目で見てきた。あんだよ。
「まだ段ボール机使ってたのね……いい加減捨てなさいよ」
「だってぇ……段ボールくん2号はもう俺のトリニティ生活に欠かせないものなんだぞ」
「知らず知らず代替わりしてるし……」
「1号はちょっと……珈琲の犠牲になってしまって……」
さようなら段ボールくん1号、君の勇姿は忘れないよ。君がブチ撒けた珈琲のほぼすべてを机上でガードしてくれなかったら俺の布団は今頃珈琲色だったよ……。
二人してアイスをパクつく。今日のアイスはこっち版ハーゲンダッツ……の限定のヤツとイチゴ味だ。俺、ハーゲンダッツはイチゴ味以外あんま食べないんだよね。それを知っているヨシミはしっかりと自分だけ限定フレーバーでこっちはちゃんとイチゴにしてくれる。そういうところ好き。
「はいはい、私も好きよ……で?食糧足りてる?」
「足りてない……」
配達のヤツはもう食べきってしまってあとはデリバリーに頼むしかない……!と思っていた中での光明!やっぱり一家に一人ヨシミよ。
一定の生活力を持つ生徒のみを対象にしたトリニティ版当番制みたいな感じになってるこの生存確認係はホント一部の生徒だけしか選ばれないようになっていた。まず、俺の生活力を補うためなので家事が出来ない奴は自動的に弾かれるスタンス。あと人格とか見られる。ナッツーとかね。アイツ一回派遣して平然と俺の部屋を占領したからな。出て行けよ。俺は追いやられる先住民ってこんな気持ちなんだなとアメリカに想いを馳せるなどした。
そんな中、俺は大いに動いた。当番制はボランティアであんまり口出しすることは出来なかった為、こっちは俺の生活掛かってるし、そもそもボランティアにしちゃうと調子に乗る生徒がまぁまぁいるため俺はちゃんと仕事化した。お金ね、払ってます。
目の前のヨシミだって最初は受け取るのを拒否っていたが、仕事に責任を持つために金を受け取るんだ!!!と俺が尊敬する人の言葉を引用し叩き伏せた。金がねぇ仕事に責任持てるワケねぇだろ!!!!
そんなわけで見事札束で人事に殴り込んだ俺はナッツーやミカを俺の権限で排した。ナッツーは俺を先住民にしたし、ミカと俺を二人で閉じ込めたらそれはもう三人以上にならないと出られない部屋になっちゃうだろ!!!
「あ、珈琲も買ってあるわよ。缶コーヒー、前言ってたわよね?エメマンの微糖が死ぬほど飲みたい時があるって」
「貴方が神か……?」
「ヨシミ様よ、崇め奉りなさい」
「ははぁー!!!」
俺はふふんとどや顔するヨシミ。さっすがは転んでもただでは起きないヨシミ様だ……一回生活力診断テスト落ちても気合で再試験に合格したその熱意に敬礼。俺はへへぇと正座して平伏した。
そ、実は以外なことにヨシミも一回落ちてる。あ、落としたのは俺じゃない。その前段階、一定の生活力の点でちょっと落ちてしまった。
いや、これに関しては介入した後にわかったのだがトリニティ側の要求レベルが高すぎなのが問題だった。普通に家事してくれるだけでいいのに、紅茶を入れたりする技術はいらないって。それに俺珈琲派だし。ナギサは泣いて(略)
それにキレたり悔しがったりしたヨシミはそれはもう完璧に仕上げて再度応募、下がる前の生活力水準に見事合格したらしい。いやだから俺珈琲派でナギ泣(略)
そんなわけでナ泣(略)させるほどのレベル高い生活力テストのせいで一部のトリニティお嬢様しか来ないという状態は改善され、今ではトリニティのマトモ枠、苦労人枠が良く来るようになった。なんかハナコも来てた。……おかしい、俺はアイツを人事で排したハズ……裏口入学?
俺はエメマンの微糖(ゴールドと青の二缶という天才の所業)(今は金の方)を開けるとハーゲンダッツの甘さを流し込む。うん、うみゃい。
ヨシミはそんな俺を眺めながら部屋に視線を移し……ハンガーラックに目が留まる。
「まだ冬服出してんの?しまいなさいよ……」
「いやぁアイロン掛けたりするの面倒くさくて……それにしまうのもダルくて……」
「生活力……ま、そのために居るんだもん。やっておくわよ」
早々にアイスを食べ終えたヨシミはごそごそと押し入れからアイロンを取り出してクローゼットの傍に陣取り、いそいそと冬服を仕分けているのを眺める。
「ヨシミはさぁ……良いお嫁さんになりそう」
「んなっ!?セクハラよセクハラ!……それに貴方がロクでもない亭主すぎない?」
「なにぉ~?俺だってやろうと思えば出来っから」
「それはやらない人のセリフ……あぁそう、この後買い出し行くから手伝ってよ?」
「えー……外クソ暑いじゃん」
「ホンットに冷蔵庫に何もないんだもの……ご飯作りたくても作れないじゃない」
「デリバリーにしようよ~ピザが良い~~」
「ピザぁ……?えー……ちょっと待って、クーポンクーポン」
そう言って片手間にスマホを取り出す姿はなんというか……
「ママ……」
ママみがすごい。頬を赤らめながらもジト目でこちらを見つめる姿がね。はい、とてもそそるものがございまして……。
「先生のママならもっとガミガミ言うけど」
「母ちゃん……!今日の夕飯はハンバーグが良い!」
「じゃあ買い出しに付き合いなさい……あと」
とのそのそ這って近づいてきてデコピン。いてっ、いてっ
「子供扱いもダメだけど、レディにお母さんもダメよ」
「すぁせん。レディ、今日はハンバーグが良いです。あとニンジンのグラッセも欲しいです」
「また面倒くさいものを……良いわよ。ほら、手伝いなさい」
そう言ってワァイと一緒に冬服を片付けるなどした。俺が畳んだ服はヨシミが畳みなおしていた。はい……
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「卵やす……えっ?鶏肉こっちこんな安いの?えー……もっと早く知りたかった」
「ヨシミってこっち来ないっけ」
「こないわね。ほら、こっちってそこそこ治安悪いじゃない?」
「そうなん?結構静かで気に入ってるけど」
「それは先生がこっちに出てくるようになったからでしょ!先生弱いんだから銃なんて近くで撃てないわよっ」
「配慮されてたんだ……」
俺が買い物かごを持ちつつ、食材をどんどこ入れていくヨシミと駄弁っている。
俺とヨシミは最近なじみの店になりつつあるスーパーに来た。此処は元々治安が悪くあんまり客も来ない店で、売上も出ないもんだから安さを全面に押し出してなんとか利益を確保しているらしい。まぁ基本的にスーパーって基本ナマだから売りきらないとダメになったり保存に費用が掛かると聞いたことがある。だからどれだけ薄利多売でも売り切るのが大事だと。なんか社会のおまけの話で聞いた気がする。
それがどうやら俺のおかげで治安が回復しているらしく(その分銃を使わない万引きが多くなったらしい)後日店長に感謝されるなどした。あと俺が通ってる事が知られて人が集まってるらしい。俺動物園のパンダさんと同じ感じなん?あ、今ってなんか動物園にパンダさん居ないんだっけか。
かくいう今も物陰から人を殺せそうな目でヨシミを見る生徒がちらほら見える。こらこら、ハンカチ噛まない噛まない。今時ハンカチ噛むで通じる子ってほとんどいないんだから。
「先生?」
「んあ?」
先を歩いていたヨシミが振り返り、俺がどうやら何も聞いていないことを理解するとはぁとため息を吐いた。ごめんごめん、何でございましょう?
「ハンバーグ、チーズ入れるか聞いてるんだけど?」
「お好み焼き風ハンバーグが良いです!」
「何それ……?……へー、キャベツを入れるのね」
「そそ。ウチはもやしも入れてた。ひっさしぶりに食べたくてねぇ」
「作らなかったの?」
「作れないんだよ。マジ。……お婆ちゃんが作ってたんだけどレシピを知らない。なんかウチ独自に発展してたからね。今レシピを検索したけど全然違う。俺の知らないお好み焼き風ハンバーグだった」
「あー、あるわよね。そういうの。家庭の味って言うのかしら?結構聞いてみるとスープ一つでも違いが出るし」
──私の家じゃあオニオンスープのこだわりがすごかったわ。私が牛乳いっぱい飲みたいって言ったのもあるけど。牛乳入りのオニオンスープ。
えっ何それ……すごく飲んでみたい。
そんなことを言うとし、しょうがないわね……と赤らめながらポイポイと買い物かごに牛乳やら卵やら玉ねぎやらを入れていく。家庭の味ってホント千差万別だからね。実質ガラパゴス進化遂げてるとこあるから気になるよね。対する俺もヨシミに思い出せるだけの味を述べていく。
「確かねぇ……もやしは確実に入ってた。今思うとボリューム感の為なんだろうけど。逆にキャベツは入ったり入ってなかったりしてたなぁ。あと……なんだ?あ、そうそう。醤油も入れてた気がする。ザ・和風って感じの味」
「醤油……合うのかしら?」
「今ん所の材料がほぼお好み焼きだから合うんじゃないかなぁ……。もうこれお好み焼き作った方が早いと思うけどね。牛肉入りお好み焼き」
「お好み焼きにする?」
「や、初志貫徹で」
俺とヨシミはそうして買い物を続けていった。
「ヨシミ~、アイス補充したくね?」
「さっき食べたのにお腹壊す……って思ったけどめちゃくちゃ暑いのよね。チョコ?」
「いや、雪見大福分けっこしようぜ。高いし」
「そ、そんなことするなら二つ買ってそれぞれ食べた方が良いわよ」
「高くね?」
「しれっと入れてる玩具を抜けば良いでしょっ!」
「やめてよー、懐かしくてほしくなったんだよ~」
「あとしれっとお酒入れない!未成年でしょ!」
「そんな……先生って大人じゃん。“大人”だから……」
「実年齢を言いなさい!!!」
「17歳です……」
却下よ却下!とお酒を弾かれ、しくしくと泣いた。いや当たり前だね。うん。でもさぁ!大人なら良くない?ダメぇ?あ、はい。駄目ですよね。
そんな様子をどうやら週刊誌が激写していたらしく、熱愛報道!?生徒と先生の禁断の関係!とばかりにすっぱ抜かれた。出版社は勝手に焼かれた(物理)し、暴動があったらしい。
事実無根です!と報道することになったがヨシミが悲しくなっちゃうかもしれないので『でも一個人として生活力が皆無なのをフォローしてもらっているのでありがたい限りです。』と限りなくオブラートに包んでフォローしたら大炎上した。あるぇー?
その結果、トリニティの生存確認係が露呈したり、キヴォトスの生徒の中で生活力を磨くのが流行ったりした。備え、らしい。
結局、どうなったかというとその日からしばらくはヨシミが来る事はなく、来たと思ったら非常に疲れた表情でバッタリと倒れた。メチャクチャ揉めたらしい。ただ、並みいる生徒達を『じゃあ貴女も先生の家庭の味が作れるレベルまで料理上手くなりなさいよ!』というと撃沈したらしい。それは……うん、可哀そう。
ちなみにその家庭の味たるお好み焼き風ハンバーグは記憶の中のソレとは違ったものの、基本的にこういう味って思い出補正もあるから全く違うよねと二人して頷くなどした。普通においしかったし、牛乳入りオニオンスープは作るのが非常に面倒くさそうなものの、とってもおいしかった。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺36
ヨシミに胃袋を掴まれている
補遺37
基本的に生徒に対してフラットに接するよう努力はしている
学名:トリニティスイーツンデレ(井原木ヨシミ)
補遺1
努力が出来る家事◎世話焼きツンデレという環境テンプレで大半の生徒に殴り勝つ
補遺2
本人が現状に満足していることや、センセイモドキが立場をしっかりと考え頑張って生徒に接していることを考慮し、強者故の余裕で現状維持している。が驕らず反省できる強敵は誰も勝てないので多くの生徒がこれ以上の進化を恐れて触れるのをやめた。これ以上進化すると人類至上最大のジョークを35分前に実行するタイプの化け物になる