センセイモドキは先生を辞めたい   作:ブルアカやったことない民

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トリニティハシリセンコウダンはコミュ症です

「先生、今日もよろしくお願いします」

 

「はい、じゃあ、まぁ、ボチボチ始めよっか」

 

 日が暮れ、人気(ひとけ)もなくなった公園の中、ベンチに二人、徒然に始まった静かな会合。スズミと俺のいつもの会合。

 

 夏の始まり、張りつくような熱気は夜になると息を潜め、まだ過ごしやすいであろう夜風が頬を撫でては過ぎていく。今日は風がある日で、少しクンと雨の匂いがする。どうも、一雨振るらしい。それまでだな、そう思った。

 

「今日は……ネコちゃんを見かけました。」

 

「へぇー、クロ?シロ?三毛?」

 

「えっと……珍しい野良猫だと思います。多分、アメショ?ですかね。写真にも取ってあります」

 

「おぉー、人慣れしてる」

 

 スマホを見やればアメショが腹を出して『撫でろよ』とばかりにこちらを見上げている写真。可愛いねぇ……。撫でたの?撫でたんだ。よかったねぇ。

 

 俺とスズミは最初、チュートリアルの時からの縁だ。他にもチュートリアルのメンツとは結構縁深かったりする。たまにこっちに顔出したりするし。……デカフトモモはシャーレの仕事を持ってくるので油断禁物だ。持ってくんじゃねぇ!仕事をよォ!

 

 スズミはコミュ症だ。というか自警団の二人は揃ってコミュ症だ。しかもベクトルが違うコミュ症なんだよな。単純に集団行動や会話というものが苦手なスズミと相手を気にしすぎて疲れてシンドくなったレイサ、だから自警団で多少なりとも噛み合ってるんだろう。これがどっちも同じ属性だったら同族嫌悪っていうか同族同士で弾きあってるぞ。磁石かよ。

 

 そんなスズミから一つ相談を持ち込まれた。曰く

 

『私の、練習相手になってほしいんです』

 

『主語がないねぇ……』

 

 兎角曰く、スズミは自分のコミュ症を理解していた。そしてそれはいずれ治さなきゃいけないものだとも理解していたのだ。今は俺やレイサ、正実の子と喋る機会はあるものの、逆に言えばそれだけだ。卒業して大人になった時、これでは自分はやっていけないと危機感を持ったらしい。それはどうやら俺を見たからだった。

 

『先生は、仲良くなるよう尽くしてくれる人でした。モモトークにもこまめに返事してくれますし、ちょっとした話題でも共有してくれます』

 

『まぁなー、俺男じゃん?で周り女の子しかいないじゃん?居場所づくりというか、頼れる人を作るのに躍起になってたよねぇ。俺君達より耐久力ないし、マジで必要に駆られての事よ』

 

『でも、先生は言葉を尽くしてくださいました。それがとてもうれしく、自分もそうしなければ……と』

 

 なるほどね。まぁスズミには結構刺さるものでもあるんだろう。あの魔法少女騒ぎで折り合いを付けていたし。というよりコミュニケーションの認識が変わったというべきか。今まではきっと生来のもので変えられない、もしくは変える気力がなかった。それが俺と会って話すようになって変わったというところか。

 

 兎角、自分に危機感を持ったのは事実らしい。だが頼れるのはもう先生しか……!みたいな感じだったので悩みに悩んだ末、俺に相談し今に至る。

 

 そう、これはスズミのコミュニケーション向上委員会だ。夜、あまり人目に付かない場所で、最近あった事やちょっと興味があるものを徒然に話していく。ただそれだけ。会話なんて基本中身がないものだし、仕事での会話ならスズミは何とかこなせる。

 

 ……ただ、雑談をこなせないタイプなので会社でそれなりに孤立するタイプだ。学校なら高嶺の花みたいな扱いだろうが……社会はコミュ力を足切りラインとして捉える風潮がある。一定の会話力がなければ弾かれるからな。なんだよアレ。言葉の居合切りみたいなさ~、間合いを図って間合いを図り損ねたヤツを切り捨てるアレ何?

 

 そんなスズミの会話トレーニング。これがそれなりに進捗がある。

 

『……今日は、天気が良かったですね』

 

 最初こんな具合だったのが

 

「この暑さだと猫ちゃんが溶けてしまいそうで、心配したので巡回のついでに追っていたのですが……どうやら外猫だったようで」

 

──暑くなったら早々に近くの民家に入っていったんです。

 

「このキヴォトスで外飼い……?死なない?」

 

「はい、心配なのであのあたりの巡回を増やそうかと思います」

 

「猫ちゃん光に敏感だから閃光弾使わないでね」

 

「ぬかりなく、銃も抜きません。素手で鎮圧します」

 

「それが出来ちゃうんだからスズミは強いなぁ……」

 

 こんな感じに数ラリー続くようになった。これは劇的な進歩じゃなかろか。いや、天気デッキでも稀に見るほどの弱カードで会話に挑んだ最初期スズミがアレなだけでね。慣れてくれば会話も続くようになる。

 

 スズミはアレだ。頭の中で言葉を選ぶタイプ。脳死で会話するとかに向かないじっくりと言葉を選んで出力するタイプだ。思った事をそのまま垂れ流すんじゃなく、思ったことを伝えられるように加工するタイプ。だからワンテンポ遅くなるし、会話の合間の沈黙を怖がる。その沈黙の非は自分にあるとわかるからだ。

 

 逆に言えば用意できている会話はすっと出るタイプなのだ。自分の中で組み上がっている信念や限定された話題であればその中でスムーズに思考がつながるので普通の子よりもテンポが早くなるのだと思う。雑談はほら、色々なところに会話が飛んで行ったりするから、スズミの中で用意できる範囲が少ないのだろう。

 

「猫ちゃん……」

 

「飼いたくなった?」

 

「少し。ですが飼えるだけの環境や巡回ばかりなのであまり構ってやれないと思います。私にはまだ飼う責任がないようです」

 

「あんまり最初から飼う責任を重く見て飼う子っていないと思うけどなぁ。そういうのは飼ってからわかるものよ」

 

「でも、可哀そうな目に遭わせるなら飼わない方が」

 

「ダメダメ。可哀そうなこともあるかもだけど人生と一緒よ。山あり谷あり、一緒に乗り越えなきゃ」

 

「……なるほど」

 

 なんとなく納得してなさがあるのはアレか。元正実だからだろうか。あるよね、白黒付けたがるの。てか風紀委員会とか正実って大なり小なりそういうとこあるよね。例外は除く。

 

「悪いことばかりに目を向けて、良い事がなかったことになるワケじゃないからね。それで責任を放棄するのも問題だけど、それでも生き物を飼うってそういう事だと思うよ。猫ちゃんはほら、露骨に気分屋だし」

 

「ですね。撫でていたら急に怒って引っ掻かれました」

 

「撫で方悪かった?」

 

「尻尾を触ったのがアウトだったのかもしれません」

 

「あー、猫ちゃんの尻尾はね。うん、あるある」

 

 猫はなぁ……気まぐれさんだからなぁ。こっちから構いに行くとアウトなんだよな。待たないと、機を。

 

 スズミがスマホの猫を愛おし気に、寂しそうに撫でる。毎回思うんだけどホンットキヴォトスの子って顔が良いよね。あとスズミに関してはどことなく泣きゲーのヒロイン感。ちょっと前のヒロイン感強いんだよな。見るたびに誰かと重なるデジャヴ現象起きるんだよ。

 

「私は、」

 

 おっ、ロード入った。

 スズミはよく言葉を出す前に咀嚼することがある。言っていい言葉なのか悪い言葉なのか、文脈は通っているか、そういうちょっとした細々を考えてこんな風に一時停止する。俺はこれをロードと呼んでいる。ローディング、まぁつまり読み込みだ。

 

「私は、これで良いのでしょうか?」

 

「おん?」

 

「私は、今とても幸せです。先生とお話するのが最近の楽しみになっています。でも」

 

──私がこんな幸せで良いのでしょうか。

 

 俺は口を挟もうとして、やめた。とりあえず吐き出してもらった後に言えば良いから。スズミはとつとつと胸の内に秘めていたであろう言葉を零した。比喩とか文学的表現とかじゃなく、ホントに、まるでコップを傾けて水を零したみたいにとつとつと。

 

「私は不良です。きっと本当に正義を成す人は正実に馴染めたハズなんです。でも、私は馴染めなくて」

「私を慕ってくれるレイサや他の子を見ると、とても自分が慕われるような人じゃないって思うようで」

「誰にも怪我をしてほしくないから、誰にも傷ついて欲しくないから活動しているだけの我儘なだけで」

 

「そんな、我儘で白にもなりきれなかった私が、こんな幸せで、良いのでしょうか」

 

 ………、うん。

 

 俺は静かにスズミの頭を引き寄せて、頭を抱いた。顔を赤らめて恥ずかしそうにするスズミだが真面目な話だからちゃんと聞いてね。俺は頭の片翼を撫でて上げながら優しく言った。

 

「良いと思う。俺は、良いと思うよ。幸せで」

 

 自分の価値がどうにも低くて、誰かの為に動くことが出来る子が多い自警団のトップは、とても献身的でとても自分を大切に出来なかった子だった。大切にしなかったじゃない、出来なかっただ。そんなね。選択肢にあった人間が選ばなかったのと、最初から選択肢がなかったのとでは全く違う。

 

 スズミは自分自身の正義の為に泥を被った人間だといつかの時に言ったことがある。

 

『誰かが最初に泥を被らないといけないなら、それは私で良い』

 

 どこかの誰かの言葉で、これが最もスズミに当てはまると思っている。別に泥なんて被らない方が一番だし、泥まみれになるのは嫌だ。でも、誰かが被るくらいなら自分が被る。ファーストペンギンのような子。

 そんな自分のコミュニケーションが苦手なところとか集団生活がシンドく感じてるのに、それでも誰かの為にと動けるこの子に強い言葉なんて言うものじゃない。今日は出張先生といこう。

 

「きっとこれから理不尽なことばっかだよ。しんどい事が多くて、幸せなことなんて数えるほどしかないかもしれない。でもそういう辛い時でも、あの時は確かに幸せだったなぁって思い出があったら、頑張れるんだと思う」

 

「思い出……ですか」

 

「そう、幸せって思い出を作ることなんだよ。辛い時や悲しい時に、立ち直れるように支えとしても、ある時ふっと懐かしく思って振り返る時にも使えるものなんだよ」

 

──いつか、死ぬ間際にページをめくるようにこの幸せを思い出す事が出来たら、きっとそれは幸福なことなんだと思うよ。

 

「そんなこと、良いんでしょうか」

 

「良いんだよ。誰も咎めやしない。スズミはさ。幸せになる下地があんまり育ってないんだ。幸せを受け入れる器が育ってないから、幸せ()を注いでもすぐに満杯になっちゃう。もっと傲慢で良いんだよ。レイサみたいに」

 

「レイサみたいに……ですか?」

 

「そ。スズミ知ってる?アイツも割とコミュ症だけどスイーツ部とかにグイグイ絡みに行くぞ。アレは人を気にしすぎるところあるけど、自分はとことん幸せになっても良いとか思ってるタイプだぞ。逆にアイツは幸せに飢えてるタイプだ」

 

 アイツタイプがぼざろのぼっちちゃんなんだよな。コミュ症だし、人の事気にしすぎるし自己肯定感が妙に低い。そのくせ承認欲求がそれなりに高くて行動できるタイプなので光のぼっちちゃんだ。

 

 それで言うとスズミは古見さんはコミュ症の古見さんタイプだ。喋るのが苦手だったりするのはレイサと同じだけど、それでも、どことなく集団で孤立することを怖がったり、他人からの自分を怖がっていたりする。頭の中でグルグル考えて、結局言葉に出せずにいて、そんなコミュ症の自分が大人になっても続いたらというのをひどく恐れている。

 

 だから俺は只野君にならなきゃいけないし、レイサに会う時は……誰?喜多ちゃん?山田?ぼっちちゃん以外の全員になれってこと?キツくない?

 

 俺はよーしとベンチから立ち上がる。スズミの手を取って、立ち上がらせる。少しつんのめるように前に出るスズミの手を握って、夜の公園を歩き始める。

 

「お散歩しようぜ。二人だけのお散歩。今日は大事な第一歩。夏の夜の公園を二人で散歩する、これ以上に青春なことはない。そんで、他愛のない話をしよう。いつものようにさ」

 

 コミュ症解消の第一歩。

 自販機の光が煌々と照らす夏の夜、スズミは片翼で顔の半分を覆い隠して、それでも嬉しそうに少しはにかむ姿を尻目に夜の街へ飛び出す。

 

「スズミが不良ってんなら不良らしくしようぜ。夜のお散歩、門限破りの夜デートだ!」

 

 常々思ってんだよね。なんでアンパンマンとかに休みがないんだって。ニチアサのヒーローもそうだよ。休みどこ?ってくらい休めてない気がする。まぁテレビだからヒーローらしいところばかりが切り取られてんだろう。じゃあテレビに映らないヒーローの休日はきっと夜のコンビニにスウェットで缶ビール買いに行くくらいしていい。それを咎める奴はいない。

 

 俺とスズミは夜のコンビニへ繰り出した。他愛のない話をしながらね。色々背負いこむタイプのスズミがいつかこんな今日を思い出してほしいと思いながら。




学名:センセイモドキ(先生)
補遺38
自分から泥を被れるスズミには幸せになってほしいと思っている
補遺39
白になりきれなかった子に夜更かしという大罪を教え込む悪い大人(17歳)

学名:トリニティハシリセンコウダン(守月スズミ)
補遺1
次の日、初めて昼頃に起きた
補遺2
その夜にコンビニで買ったなんてことない缶コーヒーの空き缶を棚の上に大切に飾っている
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