センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
空き教室で二人して勉強をしている。アズサと現国のお勉強だが、早々に挫折していた。俺は甘く見ていたのだ。アズサの脳内を。
「アズサアズサ、タカシ君はどうして友達のノブオ君から急襲戦を受ける前提で遅滞戦術を構想しているんだい?」
「……?こちらを制圧する意図があって、かつ多対一である以上、相手が行うべき最も有効な戦術は被害を極力減らせる油断している時を狙う急襲戦だ。その対策の為に遅滞戦術を採用するのはアリなハズ……」
「うーん、これは問題が悪かったかもしれない」
そうだよな。実地からの経験則ってあるもんね。俺は問題文の大部分……つまりは問題を解くのに必要な部分以外をすべてペンで修正した。身近なもので例えるとわかりやすいかなって戦闘に絡めた問題が載った問題集を採用したらガチ戦術で返ってくるとは思わないじゃん。いや、こっち来る前も数学で長文出すな、国語で積分するぞなんて言われてたけど、今のコレは現国の基礎的な問題だ。しかも、俺がパソコンを使って抜粋したり、ポイントを抜き出したり、考え方の工夫をアドバイスに書き込んだパーフェクトな問題なのに……。
「アズサ、確かにタカシ君はね。ノブオ君にひどいことをされたワケだ。だからまたやられるかもしれないと疑うのもわかる。だからといってこの7行目の『タカシ「君は信じないだろうがボクは君のことをそこまで気にしたことはなかった」』を忘れてはいけない。タカシ君は大人というよりちょっと心がマシーンなタイプでノブオ君の嫌がらせを嫌がらせとして見ていなかったと見るべきだ。これを冷酷な大人と見るべきか子供の強がりとして見るべきかは読者に寄るだろうが、それでもノブオ君に対する言動を察するにマシーンだと思うよ」
「ふむ、ブラフの線は?」
「現国の大問2の問い1からブラフを仕込んだらその問題を作った教育委員会は殺してもいいよ」
──たぶんその問題を作った奴は人権が認められていないから殺しても何の文句も言われないよ。
俺はアズサに現国を教えていた。文系マンだからね。歴史……はこっちの歴史に詳しくないから終わってるけど、現国に関しては俺の右に出る者はいないと言わせていただこう。他?数学とかはからっきしだし物理とかもーわからん。そこらへんはハナコに任せることにする。
アズサは過去が過去なので勉強が遅れている。俺も遅れている。留年したし。
だから学び直しも兼ねて1年生の問題を解いているし、俺からもちょっとした問題を自作してポイントを説明していたりする。井伏鱒二『山椒魚』は大変お世話になっております。何が良いってアレほど現国に向いてる文はないんじゃないかと思う事だ。蛙の『今でも別に、お前のことを怒ってはいないんだ。』の時の山椒魚の気持ちを答えなさいとか、蛙は本当にそう思っていたのか文中から抜き出しなさいみたいなね。厄介な問題が多い多い。文系が得意な俺でも苦しめられたので非常によく覚えている。
アズサは本格的に頭を抱えだした。どうやらタカシ君の心が存在するかどうか疑問視しているらしい。
「アズサ、良いかい?タカシ君はクラスの友達の裏切りを想定できそうなほどちょっとサイコパスな感じの子だけども、決して悲しいという感情がないわけではないんだ」
「うぅん、この7行目からして悲しいという感情あるのか……?」
「あるんだよ。ほら、机に落書きされて沈んでいるんじゃないか」
「それこそ演技なはず。気にしたことはないと言っているし、大方クラスの周りに向けたアピール。これでノブオにヘイトを向かせる」
「えぇ……?それじゃあタカシ君がクラスのみんなを裏で操ってノブオ君を孤立させたうえでバッキバキに心を折った最悪のサイコパスになっちゃうじゃん。それはいくらなんでもないでしょ。タカシ君が権謀術数に長けすぎる。頭ハナコかよ」
「頭ハナコの可能性は否定しきれない」
どや顔で言うなよ……ふふんと鼻を鳴らしそうな顔だが、お前ハナコにチクったらどんな目に遭うかわかってるだろうな?俺?俺は良いんだよ。てか言う。めちゃくちゃ言ってやる。アイツが嫌な事をガンガン言えば、アイツは俺に嫌な事ガンガン出来るからな。いわば理由作りだ。これも一種の優しさだよ。すーぐ自分のやったことに自己嫌悪するんだから、自己嫌悪する前に理由を作ってやらないといけないの面倒くさすぎる。
アズサはシャーペンを置いた。うんと伸びをして言う。
「うーん、難しい。現国は捨てよう」
「四回目だよ?捨てるなよ。今までに捨てたの含めて4科目がゴミ箱にポイ捨てされてんの。あと1科目に全賭け出来るほど試験は甘くないよ?」
「一点突破は戦略的に有効」
「勉強は広い範囲で対応しないといけないんだ。1科目を打ち倒したとしても残りの4科目が瓦解するわけじゃないから。連鎖しないから。」
「ばにたす」
「虚無に逃げるな。残念だが勉強は虚無まで追いかけてくるからな。数学には虚数が存在するぞ。存在しないが仮定で存在するとして計算する負の数だ。お前に逃げ場はない」
「そんな……虚無にも数学の魔の手が」
「てか
「うぅ……すべては虚しいので現国も虚しい。徒労」
「だから現国を虚無に落とすな。あと今テストの成績で困ってんだから徒労でもないだろ」
俺はそう言って続いての問い2『もし、タカシ君がノブオ君を許していなかったという前提で文中の行動から復讐として考えられる部分を書き出しなさい』という問題を……待って、本当にタカシ君サイコパスなの?復讐でこんなことしたの?いや、『もし』ってあるしないない。IFだよね。IF。もしもの話だから。
俺はとりあえず逃げようとするアズサの腕をつかんで勉強に引き戻そうとしたその時だった。
きん、こん、かん、こーん
鐘の音、チャイムだ。その音を聞いたアズサはいち早くノートとペンをしまい込むとズァっと立ち上がる。俺はそれを半目で見ていた。約束はチャイムが鳴るまでだ。コイツ……わかってて引き延ばしたな?ジト目の俺にアズサは言った。
「勉強会はこれで終わり。今から私が先生で先生が生徒役だから」
「……はぁ、OKOK。わかったよ。今日はおしまい。じゃあ約束というか予定通りやるか」
俺は勉強道具を片付け、バッグを背負いこんだ。今日はアズサとの約束の日、俺が銃を扱う特別な日だ。
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俺に武器はない。といってもアロナバリア?があったから武器がないことを気にしたことがなかった。だがアロナバリアが使えない状況で撃たれたこともあったし、結構ひどい目に遭い続けた俺はある一つの結論に達した。
銃、覚えよう。
そう。キヴォトス人は基本的に俺より頑丈で、それも神秘が籠ってない銃弾なんぞ致命傷にならない。ようはデフォルトで銃弾が非致死性ゴム弾みたいになってるのだ。じゃあ、撃っても良心の呵責ないよな。えっ?人に銃を向けるのは先生として良いのかって?じゃあお前人から銃口向けられた経験があんのかよ。俺はあるぞ。死ぬかと思った。俺はその時確信したね。四の五の言ってられねぇと。
だから俺は最早妥協しないし遠慮も慈悲もいらない。シャッと銃を抜いて、襲い掛かる魔の手(性的な)をバキュンバキュンと撃ちまくるのだ。いやホント、俺のトリニティの生活がどっかから漏れだしてるのか、最近暴動が多いんだよね。こちらから様子を見に行くことはあれど、基本トリニティに居るから他の子が入ったりとかできないし。
たまに見かけるのだ。俺が学園の縁に行くと、トリニティの敷地ギリギリのところでギンギンに目を見開くシロコとか。怖いよ。後ろでアビドス生徒全員で引っ張ってるの見て逃げたよ。マジで怖かった。許可なしで潜ろうとしたところを全力で止めてたらしい。やっぱ怖いねシロコは。
それに敵はなにもトリニティの外だけじゃない。なぜか俺の生存報告係に不正着任していたハナコしかり、未だにエロ自撮りを送りつけてくるミカしかり、どこでもうんたらならぬどこでもセリナだったりがいるので油断できないのだ。ハナコは愛憎を拗らせてるし、ミカはもう諦めて今日の下着占いみたいになってる。今日は白の肌触りがよさそうな奴だった。セリナ?呼んだら来るけど呼ばなくても来そうなんだよね。なんなら後ろ振り向いたら居たりね。
俺は振り向いた。セリナがひっそりとこちらを見ていた。俺は前に向き直った。何も見なかったことにした。
そんな身の危険を感じる今日この頃、俺はアズサに銃の指南を頼んだ。なんでアズサなのか?うーん、まぁ基本的に俺が取れる行動って一対多の対応とか迎撃だから、守りの動きを教えてもらわないといけないんだよね。ツルギンとアズサで候補が上がってツルギンは攻めの動きだったのでやむなく落選だ。スズミや他の生徒も候補に挙がったのだが、やっぱりアロナバリアとかある俺がやる最適解ってゲリラ戦だと思ったのでやっぱりアズサだった。
いやだって、バリアで銃弾が効かない中、罠仕掛けたり、足止めしたりして生徒の到着待った方が良いじゃん。
「先生はどんな銃を使うの?アサルトライフル?」
「いや、普通の拳銃。店売りされてたやつ」
そういって見せたのは俺の初めての拳銃!なんかこう憧れがあるよね。でも誤射で死ぬのは俺なので細心の注意を支払うことにする。本当に危険が危ないのでなるべくそーっとね。俺は両手でがっしりと拳銃を抱えた。
「……貸して、確認するから」
「えっ?」
半ば奪い取られるように拳銃を取り上げられ、アズサが点検する。おー、なんか動きが様になってる。
「オートマ……しかもこれ反動が大きいのに、先生撃てるの?」
「いや、なんかカッコいい奴選んだだけ」
「……わかった。先生、私が後ろから手を重ねるからしゃがんで、ちゃんと握ってて」
「あ、うん」
俺はアズサに言われるがまま、中腰のしゃがみ体勢となり、その後ろからアズサがおぶるようにして俺の手に手を重ねる。
「右膝ついて、腕はなるべく伸ばして、もし反動が来たら上に動かせるように。目線真っ直ぐに構えて、そう」
ほう、これが正しい射撃体勢ですか……。大したものですね()
俺は構えた状態で初めて撃つ銃の感覚にワクワクしてると耳元でアズサが呆れたように言った。
「先生、ホントに危ないから。今は私が先生、言うこと聞けないと死ぬ」
「あ、はい」
スンと平静になった俺は心持ちを新たにし構える。そうだよね。普通に危ないよね。うかうかしてたらダメよダメ。それに持って構えるまで分からなかったが、結構重くてキツイ。この体勢を維持しながら持ち続けるのは本当にキツイということが分かった。もっと軽い奴にすればよかったな……
とりあえず、射撃態勢は整った。
「じゃあ、321で合図するからそしたら撃って。的に当たる事は意識しないで、ただ撃つことに集中」
「はい」
「……3、2、1、……0!」
ドンッ!
至近距離だからか重苦しい音と共に発射される銃弾、腕にズシリと来る反動。重くてちょっと下に向いていたのか、拳銃が下方向に下がる……!のを腕を添えていたアズサが無理やり上に引っ張り上げる。
アズサのパワーと拳銃の反動により上に跳ね上がった拳銃、それと同時に痺れて手に力が入らずすっぽ抜ける拳銃……びっくりするほど綺麗にクルクル回る拳銃が俺の方に銃口が向いた瞬間、
「危ないっ」
アズサが思い切り片腕を振り切り、拳銃を鷲掴みにしてその勢いのままもう片方の腕で俺を地面に叩き伏せた。
「ゲフッ……アズサ……痛い。痛い……」
「ご、ごめん先生……」
組み伏せた俺からどいたアズサは俺を拾い上げると、いつになく真剣な顔で言った。
「やめよう。練習」
「えぇー……」
いや、危なかったのはわかるけど護身用欲しいし……
懲りてなさそうな俺に一言
「先生、雑魚過ぎる」
「俺、雑魚過ぎるの……?」
「うん、あの反動ですっぽ抜けるならもうどう足掻いても無理」
どうやらこの拳銃、確かに反動が強いものとはいえ、キヴォトスでは一般的なレベルのものらしい。これ以上下となると本当に小型化や軽量化した威力もしょっぱいものしかなく、やるならもう特注で作るしかないとのこと。それに、俺は筋力が雑魚過ぎて、射撃体勢も維持できず、反動を下に逸らすというカスの所業をしたため、もうやるべきではないとのこと。
「やーだー!俺も銃撃ちたいー!」
「先生が死んだら今度こそアリウスの皆も死んじゃうし、補習部の皆にどう顔向けすればいいかわからないからダメ」
「やーだー!」
「ダメなものはダメ」
お母さんスイッチがオンになったのか、両手でバッテンを作り頑なに拒否るアズサに対して俺は子供の様に駄々をこねた。銃は男のロマンだぞ。
そんな地面で駄々をこねる俺の真横至近距離でセリナが物凄い真顔でこちらを凝視している状況にはさすがに俺も我慢できなかった。アズサもスルーしたくてたまらないのだろう。顔がね。怖い。女の子がしちゃいけない顔してる。わからない人は進撃の巨人、顔芸と調べるとわかるかもしれない。口は真一文字なのだが目はそっくりだ。
俺は救護室に連行された。
後日、危うく死にかけるところだったというアズサの証言を聞いたトリニティの面々にエゲつない説教攻勢を掛けられることになり、むせび泣いて土下座した。あのね……トリニティの子威圧感パない子多いから囲まれると死を覚悟するんよ。
アズサはアズサでどうしてそんなことをしたんだと監督責任を問われていたが『危ない生徒から身を守る為という理由が最も過ぎて拒否できなかった』ということを一部の生徒に目線を向けながら話していた。その方向にはコハルを除くトリニティのピンク髪達がいたことを此処に記しておく。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺42
非力なので銃を目線の高さでキープする事が出来ない
補遺43
言い分は理解できるため、警備が強化されたがそれぞれのピンク髪にとっては無意味だった
学名:トリニティアリウススパイ(白洲アズサ)
補遺1
タカシ君サイコパス説を有力視している
補遺2
センセイモドキの影響でちょっと口が悪くなっており、かつ虚しさを言い訳に出来るほど精神的に強くなった
追加補遺
学名:トリニティシンシュツキボツ(鷲見セリナ)
補遺2
センセイモドキの体調を常に把握しているがどのような経緯で把握しているのか解明されていない
次のセンセイモドキが訪問する学園について
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