センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
「セリナセリナセリナ……」
俺は洗面台の鏡の前で呪文のようにつぶやいた。召喚呪文だ。いや、招来呪文というべきか?兎角、条件は満たしたのだ。来るかもしれない。
午前3時40分ごろ、熱帯夜故に寝付けない日、俺は半信半疑でとある噂を試していた。
他校でも噂になっている『ピンク髪の怪異』の都市伝説。
内容は怪我をした瞬間、視界の端にピンク色の髪を捉え、それに気を取られた瞬間に怪我に適切な治療がされているというもの。また、そうでなくとも噂したピンク髪の怪異の正体を突き止めようとしても、どうしても視界の端で髪しか認識する事ができず、しまいには発狂してしまうだの……色々言われている。
俺はこの正体を知っている。セリナだ。てかこんなことできる奴セリナしかいない。まだイズナでも過程と再現性がしっかりあるぞ。アレは単純なフィジカルだが、セリナに関しては完璧オカルトの領域だろ。
そんな俺は興味半分でセリナのワープの正体を確かめようとした。夏の夜の好奇心だ。人間頭が茹ってくるとバカみたいなことを考えるものである。そう、俺みたいに。俺は軽率にパンドラの箱を開閉wッ!!するつもりだった。
怪異セリナの現状わかっていることは二つ。
・怪我をすると出現することがある
・視界の端で出現を確認できる
これを考察するとだ。セリナはおそらく人間の死角から現れるのだと思われる。視界の端で出現するのはそのためだ。そして、セリナが出現“出来る”条件はおそらく怪我と認知だ。する条件じゃない。出来るね。これ重要、ようは出現するかどうかはセリナ依存だ。怪我をすれば出現する可能性は高くなる。では認知とは何か?俺はそこにあたりを付けている。それが今やっていること……!俺の脳内では爆音で都市伝説解体センターのBGMが流れている。つまり、ノリッノリだった。
俺は今、鏡を通して背中を見ている。そして、うまい具合に鏡を配置し、死角を潰すように鏡を配置している。合わせ鏡になってしまっているが大丈夫。そこらの幽霊妖怪よりもセリナの方が怖い。
これで俺はセリナに呼びかけた。セリナは自分を認識したものを逆に認識できる力があると仮定する。でないと探ろうとする人間の視界の端に登場できないからだ。アレだ。深淵を覗く時深淵もまたこちらを覗いているのだ……って奴ね。……本当に人間か?
いや、キヴォトス人が人間じゃない事なんて茶飯
というか俺は美食研究会が割と苦手寄りだ。飯を粗末にするんじゃねぇ!となる。あと俺が向かう店で遭遇する確率が高く、大体爆破される。そのたびに俺の飯が吹き飛ぶ。
えっ?店選びが悪い?解凍しきれてない半生の微妙な焼肉を食えるのは才能?つってもお前等が連れてってくれるとこで食べてもあんま違いわかんねぇんだよ!馬鹿舌っつーか貧乏舌なんだよ!ウニ食ってもわかんねぇよ!あと美味いもん食わせようと身体を密着させるのやめろ!デカパイを押し付けるのは犯罪だろうが!好きになっちゃうだろ!!!
ふぅー、落ちつけ。俺、クールにだ。今ここに頭ゲヘナはいない。今は目の前のセリナに集中……えっ?
今、この瞬間セリナは俺を認識したんだと思う。何故って?視線を感じたからだ。どこだ!?どこにいる!?鏡越しに探すも居ない。怪異として出現できる場所がない。死角がないのだ。さぁどうする……?俺は出現し始めたセリナに十字架とネットでポチった聖水を装備して臨戦態勢……祓ってくれようぞ、怪異セリナよ……!
バツンッ!!!
ビビるほどデカイ音と共に洗面台の電気が……いや部屋全体の明かりが全て落ちた。停電だ……!俺は洗面台のスイッチをカチカチと鳴らす。が、付かない!ブレーカー!探すも洗面台にはない!しょうがない、俺はスマホを取りに戻ろうと廊下を振り返った瞬間。
俺は気づいた。
振り返った。一瞬でも鏡から意識を逸らした。確かに周囲には鏡を張り巡らせているが、光が亡くなった瞬間に真っ暗闇が広がっていた。つまり死角が生じていた。ならば……
光が死んだ夏の夜、触れてはいけないものに触れてしまったという後悔が頭の裏っ側を冷やしていく。
俺はそっと、洗面台の真向かい、廊下に設置した鏡をよーく見た。暗闇に慣れた目が俺の背後にうっすらと人影を見せる。俺は振り向きたくなかったが、肉体が意思に反して振り向こうとする。や、やめろ……。俺は恐怖に溺れながらも身体に刻まれた好奇心に殺されようとしていた。
視界の端、映る色は暗闇の中でも、いや暗闇だからこそ目立つピンク髪、短い髪を揺らして、爛々と光る目がこちらを見つめている。手には錠剤が握られていた……。
「先生?夜更かしはいけませんよ」
「キャー!!!!!」
俺は一足先に夏の夜のホラー特番をリアルで味わった。
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セリナが持っていたのはよく眠れる睡眠薬であった。身体に負担がないものをチョイスしたらしい。あと氷枕と経口補水液を持参していた。夏の暑い夜は首の裏を冷やすことで乗り切るのがいいらしい。あと水分補給をしっかりとだ。俺は受け取った経口補水液を飲む、おいしい、こういうのはおいしいと感じると危険サインなので俺は結構頭が茹っていたらしい。まぁセリナ怪異説を検証するくらい暑さにやられていたのだ。さもありなん。
「先生?さすがの私でもこんな夜更けだと気づくのが遅れるんですよ。寝ているので」
「あ、寝てたんだ……ごめん、起こしちゃって」
「いえいえ、先生が困っているのなら駆けつけるのが救護騎士団の勤めですから。それより、何をされていたんですか?」
「いや、うーん……」
本人に、聞いちゃっていい感じのものなの?いやなんか、聞いたら発狂して死ぬとかないよね?ないよね?俺は恐る恐る聞いてみた。
「いやぁ、セリナがどうやって現れるのか解明したくなって……」
「あぁ、そのことですか」
ぽんと手を叩き、それからゴソゴソと何かを取り出す。何それ?針金?
「永久キーピックですよ。これで鍵開けをします」
「えぇ……?」
あの怪盗が使う奴……?
「あと此方も使っています」
そう言ってまた取り出したのは……何?でかくない?なんかの布地だ。
「透明マントです。隠れる時に使っています」
「えぇ……?」
実在したのか……?いやキヴォトスならあり得ないこともないのか……?
「あとはそうですね。これはあまり使わないのですが……」
そういって胸ポケットから取り出したのは……ペン?
「先生、此処をよく見てください」
チカッ
「記憶消去ペンじゃねーか!!!」
え、消された?嘘でしょ?と思うが消えた感じはなく何も起こってない。えぇ……?
「ふふっ、冗談ですよ。セナさんにいい加減誤魔化す理由を作ってもらわないと困ると言われたので、小道具です」
「あぁ……。えっ、じゃあ突然現れるのは……?」
「ふふっ、さぁどうでしょう?」
えぇ、怖いよぉ……俄然怪異説が出始めたセリナがそれはさておきと両手に持った箱を横に寄せた。やめてよ、その箱さておかないでよ。気になるよ。集中できないじゃん。俺は横に置いた虚無の箱を掴んで引き戻した。
「いい加減ね?言っておきたいのよ。俺のプライベートはどこですかってことを」
「なら、生活態度を改善してもらわないと困ります。放っておくと死にそうだから見ているんですよ!」
俺とセリナは虚無の箱を取り合ったが正論をぶつけられ、俺は思わず手を離した。あぁ、俺のさておく箱が……。さておけなくなった俺はもごもごするしかない。
「それはぁ……ね?」
俺は何も言えなくなったので『ね』だけで乗り切ろうとした。ね?シャーレの仕事のせいもあってね?生活力がもうなくてね?
「そう言って……ご飯だって面倒見ている不良生徒の子達にほとんど全部上げて冷蔵庫は空っぽ、生徒達を気にするのに自分の身体を労われず……!なにより!」
そういってゴミ箱の一つをガッとつかんできてこっちに差し出す。あ、ハイ。これはね……何も言えなくて。
「コーヒーの飲み過ぎです!!!カフェインの取り過ぎで不健康なんですよ!」
「それはナギナギもそうで……」
「今は先生のお話です!」
「はい…・・・」
俺のガソリンだから仕方なくね?ね?そう言っても健康ガチ勢のセリナちゃんは俺に悪魔の宣告をした。
「しばらくコーヒー断ちです!カフェインを身体から抜かないといけません!」
「そんな殺生な……!ならナギナギも一緒にしてくれ!アイツだってカフェイン中毒でデカイ器に紅茶入れて流し込んでたんだぞ!あとハスミもだ!ハスミも間食ばかりで、ついさっきだってラーメン替え玉二つに抑えて低カロリーとか裏垢で抜かしてたんだぞ!」
俺はどっちが先に飲み干せるか、珈琲紅茶、2L対決で圧巻の吸引力を見せつけたナギナギと密かに出回っているハスミの裏垢(大体飯の事しか呟かない)をチクった。俺達、仲間だよな?仲間なら同じ痛みは共有しなきゃだろ?
俺のその言葉にふるふると震えるセリナは健康のけの字もないトリニティの馬鹿共に制裁を加えることにしたらしい。一瞬セリナの頭のヘイローが光って『眩しっ』となった瞬間には目の前から消えていた。
えぇ……?
しばらく困惑し、誰も居ないことに気づくのに数分。戻ってこないのか……?
とりあえずお茶を飲んで、鏡を片付けて何をするでもなくスマホを弄って十分も経たないところか。急にインターホンが鳴った。来客を知らせる用のヤツだ。俺は何が何やらでとりあえず玄関に行き、外を覗くとそこには寝ていたであろうネグリジェ姿のナギナギとパジャマ姿のハスミを抱えたセリナが息を切らして立っていた。今のこの間に誘拐……?
またセリナは物凄く息を荒げており、どうやら負担がデカいことをしたらしい。多分、自分ひとりならワープとかできるけど、他の人を伴っては出来ないんじゃなかろか。つまり、ここまで爆速で抱えて来たってこと……?フィジカル強者じゃん……。俺は潔く断罪者を部屋に迎え入れると、ズカズカと入ったセリナはリビングにナギナギとハスミを降ろした。
幸せそうに寝こけている二人を起こすのは忍びないが、これも責任分散の為。俺達ズットモだからこれくらい許されるよな?俺は容赦なくナギナギとハスミを叩き起こした。
「な、なに!?なんですか!?」
「痛っ、痛い!」
ナギナギはちょっと良心があるので優しく叩いて起こしたがハスミは乳をビンタした。前の乳ビンタ殺害未遂事件でやり返してなかったなと思い出したからだ。ナギナギとハスミは俺の顔を見て何が何やらと言う顔をしていたが後ろにいるセリナを親指で指差し、俺は言った。
「ごめん、俺が不健康だって怒られたからお前等の不健康もチクった」
「なんという事を……!」
「む、惨い……!」
「だって、俺達ズットモだろ!?」
俺は大袈裟に肩を組んで仲良しアピールした。ほら、喜べよ。身体接触だぞ。
「ちょっと嬉しい自分が居ます……!」
「今は嬉しくないんですが……」
何言ってんだよハスミぃ。ナギナギを見習えよ。嬉しそうだぞ。そういう俺達三人を鬼の形相で見下ろすセリナはキレた。
「健康を!舐めないでください!」
はい、俺達はあまりにも刺さり過ぎる言葉にいそいそと正座した。お医者さんの言葉は正論過ぎて何も言い返す事が出来ない。
セリナが俺とナギナギを見据えて言った。
「お二人はコーヒーと紅茶、一日何杯飲んでいるんですか?」
「え、そんなに……」
「別に普通の範囲内で……」
「何杯飲んでいるんですか?」
「……最低5杯です。朝昼夜とその間にそれぞれ1杯」
「……!まだまだですね。私は最低6杯です。朝昼晩と寝起きと寝る前に1杯ずつ。それから魔法瓶に常備している予備の紅茶です」
「飲んだ数で競わない!それにカフェインを寝る前に摂取するのは睡眠の妨げに繋がるので控えるようにしてください!」
「「はい…・・・」」
ごもっとも。俺達は項垂れた。その横でハスミが呆れたような目をしていたが、お前だって他人事じゃないだろ。俺はチクった。
「でもハスミも悪いと思います。コイツ昨日カフェでトッピング激盛りのフラペチーノ飲んでました。調べたところ600キロカロリー余裕で越えてました。5杯飲んでたので3000オーバーです」
「先生何故それを……?」
俺の情報網舐めるなよ……!ナッツーが堂々とアレヤバくね?って教えてくれたからな。隠してぇなら人がいる前で飲むなよ。隠せよ。
セリナはそれを聞いてぷんすこ怒った。ぷんすことは言っているが、その手には注射が握られていた。刺すの?何が入ってるの?やめてね?怖いよ?注射針をピンと叩いて液体がちゃんと出ることを確認した後、言った。
「一日の摂取カロリーを余裕で越えてます!」
「待ってよソレはスルー出来ないって」
「刺されるんですかね……?」
「ナギナギが刺されろよ……俺より飲んでたじゃん」
「いやですよ……というかそれならハスミさんの方が……」
「じゃあハスミだ。ハスミが悪い」
醜い責任転嫁を繰り広げ、キラーパスをハスミにぶち投げた。
「いえ、それは割引チケットの期限が迫っていたからで、それに取り過ぎたなと思ったのでラーメンは替え玉2個までに抑えて……」
「でもコイツラーメントッピングマシマシでした」
「先生!?」
お前が犠牲になるんだ。犠牲の犠牲にな。俺はほくそ笑んだ。
「……どうやら三人とも健康診断が必要そうですね?」
満面の笑み、だが本来笑顔と言うのは威嚇で使われていたということを聞いたことがある。今のセリナにぴったりだった。俺達三人は身を寄せ合って恐怖するしかなく、その後、朝まで続いたお説教の後、健康診断が行われ、無事、全員C寄りのBであった。若さにこれほど感謝したことはない。俺とナギナギはカフェインの取り過ぎによる胃腸の荒れが激しく、またカフェイン中毒のケがあった。ハスミは胃腸機能が弱り気味で暴飲暴食を控えるべきだと。
ちなみに注射はハスミに刺された。俺達は安堵してキャッキャしてたが二本目三本目の注射が取り出されたので逃げ出したものの容赦なく打たれた。
何が入ってたの?と聞くと無言でにっこりと笑われた。怖いよぉ……。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺46
健康を甘く見るバカ。若さに救われただけ。胃腸の荒れはストレスのせいもある
補遺47
セリナに頭が上がらなくなった。自覚があるタイプの不健康
学名:トリニティシンシュツキボツ(鷲見セリナ)
補遺2
あまりにも健康を度外視した生活をしている人達にキレた。
補遺3
自分一人の時しか時空をゆがめられない為、持っていた小道具が活躍したかもしれない
追加補遺
学名:トリニティイススワリ(桐藤ナギサ)
補遺5
普通にネグリジェ姿を見られたので恥ずかしかったし何の反応もなかったのがモヤモヤした。が、それ以上にセリナが怖かったので何も言えなかった。自覚があるタイプの不健康
学名:トリニティクロデカパイ(羽川ハスミ)
補遺3
流石のハスミ胃袋もここ最近のカロリーには疲れ気味だった。パジャマ姿を見られたことよりもカロリーを奪われることに恐怖している。自覚がないタイプの不健康
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