センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
このクソのように暑い日が続く中、俺はアイスクリームを片手に帰路についていた。
あちぃ~~暑くて干からびそう~~という(検閲)状態になった俺はこんな炎天下の中外に出ねばいけない事情があった。
手には買い出し用の袋が二つ。一人暮らしあるある、必須ではないけど生活にないと不便なものが次々と切れ出す時期が来たのだ。なんなんだろうねアレ。キッチンペーパーとか端から切れていく時期。多分同じ周期で買って使う頻度も大体同じだから切れる時期も同じなんだろうけどさ。
そんなわけで買い出しに行っていたワケだが……俺はふと足を止めた。
「アレ……宇沢?」
俺は車道を挟んだ向かい側の歩道、そこには宇沢が建物の陰から顔をひょっこりはんしており、何やら見つめている。その先には……
「ほほーぅ?」
スイーツ部……ねぇ?どうやら店先で何か話し合っている。ウィンドウショッピングのようだ。俺は街路樹に隠れ、アイスをマイク代わりとして試合開始を宣言した。試合開始の合図をしろ!デュエル開始ィ!!!
「えー、始まりました。陰キャ選手権、今回は優勝候補と噂される宇沢レイサ選手です。いやぁ、この炎天下の中実力を発揮できるでしょうか?解説のktzw3、どう思いますか?」
「えー、そうですね。良いと思いますよ。この炎天下でも集中力を切らさずボール(スイーツ部)を目で追っている。非常にイイプレイが期待できそうです。」
「ありがとうございます。実況は私、ジョンカ〇ラ氏(俺)と」
「解説のktzw(俺)でお送りします」
俺はプロ実況ごっこを始めた。
どうやら、宇沢は何かしらの用、それも多分遊ぶ用であろうか?でスイーツ部に話しかけたいのだろう。しかし、本人の陰キャ的資質から『今、グループで楽しんでるし邪険にされるかもしれない』ということを考え、足がすくんでいる。
キャスパ……失礼、カズサにだけ用があるならアイツはそのまま絡みに行けるのだ。アイツにとってカズサは知り合いだ。陰キャは知り合いとなると途端に遠慮が無くなるという性質を持つ。だがそれが自分と少し縁遠い人と絡んでるとなると途端に動けなくなる。自分が所属していないグループにおいての動き方がわからないからだ。
それになにより宇沢選手、拒否されることを極端に怖がっている節がある。遊びに誘っても邪険にされるかもしれない。断られるかもしれない。そうした考えが頭をめぐり行動に出来ないのでしょう。もちろん、スイーツ部の面々が断る事なんてあまりないし、断るとしても次の予定を取りつけたりするだろう。
えぇ、そうです。それはきっと彼女が打ちだした幻想、万に一つという可能性が不安で膨れ上がった虚像。だが、万に一つでも起こり得るなら宇沢レイサは動けない。
「足を一歩、日陰から出そうと……いや、すくんでいる。すくんで、動けない……!宇沢選手動けない!」
手に汗握る攻防です……!彼女は彼女の中に住む裏の自分と葛藤している!今までの積み重ねてきたトラウマや小さな失敗が宇沢レイサの足を、いや肩に重くのしかかるようにして存在し、囁いている……!
『嫌われたくないし、やめとこうよ』
一歩、日陰から日に足を出すその一歩が宇沢にとってとても重いものだった。
きっと宇沢は小学校、決まり事を守れと言われて字面通りに受け取り、そしてそれを正しいと思って行動したことがあるのだろう。諸姉諸兄よ、『静かにしてー!先生が静かにしてって言ってるよー』と言う子の存在を覚えていないだろうか?そういう子は得てして、嫌われたりちょっと面倒な子として扱われたりするものだ。
正しさを字面通りに受け取るとはそういうことだ。レイサにとって言われたことを守るのは当たり前でそれが他も同じだと思っている。なまじ正しいことであるから否定されず、放置という形で処理される。面倒な子として扱われ、クラスのグループから外れていく。
そうした経験の蓄積が彼女に正しさを拠り所にさせると同時に他者への配慮という強い意識を植え付けた。宇沢レイサにとって他者は本質的に怖い対象なのだ。自分の中で沈んでいるチクチクとした小さい言葉が形を成し、宇沢にのしかかっている。
「あぁっと、スイーツ部が離れてしまう前に近づく……近づこうとするが、それ以上は近づけない!ATフィールドだ!つかず離れずの距離をキープしている!解説のスズミさん、この動き、どう見ますか?」
「えっと、レイサには頑張ってほしいと思います。仕事熱心な気持ちを生かせればと」
「なるほど、確かにパトロールする時の気持ちを利用すれば……つまり元のレイサとしてぶつかっていけばいけるかもしれないと」
「はい、あ、動きがありましたね」
俺は密かに招集していたスズミと一緒にレイサ実況を続けていた。モモトークでね。呼んだよね。ちょうど巡回の時間ではなかったので来てもらった次第だ。木陰に二人、来る前にアイスを買うように言ってある。俺のアイスもう溶けちゃったんだよね。追加のマイク()が欲しい。
お駄賃を支払った俺は買ってきてもらったチョコアイスをマイク代わりに実況を続ける。ちなみにスズミは王道のイチゴ味だった。良いね。
おっと、宇沢選手。意を決して歩を進める!一歩、二歩……!ATフィールドを……破ったぁ!コレは……どう見ますか?
「カズサさんに接触を決めたのではないでしょうか?」
「なるほどぉ、確かにキャスパもといカズサに接触しきるのはアリな考え……だが、問題はそこからですよ。……さぁ始まりました。自問自答ォ!」
ふっと、宇沢の足運びが遅くなる。恐らく自問自答したのだ。自分がカズサに絡みに行っていいのかと。カズサの過去、キャスパリーグの存在はあまり触れてほしくないもので、蟠りが無くなったあとでも宇沢に深い影響を与えている。
悲しいかな、陰キャは一度したミスや謝罪を解決しても、後々牛が反芻するように思い出して苦しんだりする生き物だ。あぁすればよかった、こうすればよかったと考え、ありもしない虚構に襲われる。
宇沢は手の中に何かを握っている。うーん、この距離だと何を持ってるかわかりませんねぇ……中継リポーターのマシロさーん!マシロさーん!今食べてるアイスはー?
ON:カメラ
『はい、こちら中継リポーターのマシロです。今食べてるアイスはプレーンのバニラで……なんで私が付き合わされているんですか?』
「いーじゃん!で、レイサは何持ってるん?」
『えー、今見ます。……チケット、ですね。あぁ、最近新しいアトラクションが追加されたと聞くボーダーランド遊園地のチケットですね』
「あー、確かレイサ、魔法少女事件以降もちょくちょくキャストとして出てるみたいな話を聞いたことある。多分その伝手で貰ったんじゃないかね。中継リポーターのマシロさん、ありがとうございました」
『えっ、私もうこれで……』
この為だけに呼んだマシロの通話をブツッと切って放置した後、俺はスズミと今後の展開を話し合う。
「遊園地のチケットですか。彼女からチケットを欲しいと言うのはあまり考えられません。きっと相手方から押し付けられる形で貰い、その消費先に困っていたのだと思います」
「ソレに付け加えると彼女は嬉しかったんでしょうね。誘う口実が出来たワケですし、自分が好きな魔法少女をやってるからというのもプラスだった。宇沢は遊園地で自慢したいのでしょう。自分はこんなことしてるんだぞという。カズサに見せたいのかな?カズサは自分の過去をそれなりに知っていますからね。自分は大丈夫だぞというところを見せたいのかもしれません」
「つまり、彼女をスイーツ部に近づけたいのですね?」
「おぉっと通行人Aもといハスミさんは黙っててもらえますか?」
ここで呼んでもないのに登場したハスミ選手。その5段重ねアイスは何?スモーカー大佐とぶつかる予定ある?そう聞くとめちゃくちゃ不服そうな顔でなんでぶつかる予定なんて取り付けるんですか……と言われた。それはそう。
「いや、此処はトリニティの総力を挙げれば造作もないことだよ。話は聞いていたが、なんというか、心にクるね」
「そうなんですよ通行人Bもといセイアさん。彼女の過去やその姿から推察できることが全部悲しいんですよ。心にダメージが溜まるタイプなんですね。なので俺が気にかけてるってワケ。でも俺が引っ張ってやると水を与えすぎて腐る植物のように何も出来なくなっちゃうので、俺は宇沢の自立を促している」
おっとこっちにも呼んでもない通行人B登場~。セイアさんっすね。この暑さであーた死ぬわよ。ちなみに手に持ってるアイスは……あ、キャラメル。良いチョイスするねぇ。
「だが、きっかけくらいはあったっていい。そうは思わないかい?」
「それはそう。てことで通行人B改め仕掛け人セイアさん、どうぞ、お願いします」
すると仕掛け人にジョブチェンジしたセイアはどこかに連絡を取ったかと思うと、ザっと宇沢選手の後ろの道の角からトリニティ生徒のグループが現れる。それは宇沢選手の元へ集団行動のように進んでいき、それに追い詰められるように宇沢が押し進められていく。
陰キャにとってグループ行動している陽キャは台風そのものだ。行動が予測できず、横に避けるか前へ逃げるしかない。埋もれてしまったらひとたまりもなく後に屍が残るだけだ。なので宇沢は逃げるしかない。前へ。
おっと後ろの存在に気づいた宇沢は逃げるように足を前に進めていく。どんどん近づくスイーツ部に……!宇沢が……!
抜いたぁー!!!!!!
宇沢選手!スイーツ部を通り過ぎた!ズァッと抜き去りそのまま前へ前へと駆け足で歩いて行く!
「そんな……!」
「仕掛け人セイアさん!圧を掛け過ぎましたねぇ……。圧を掛け過ぎた結果、話す機会を見失い、そのまま去るという選択をした!これは痛恨のミス!」
「くっ……」
「どいてください。私が本物の仕掛けって奴を見せて上げますよ」
「おいしんぼハスミさん、仕掛け人Bに立候補です」
「コハル、お願いします」
スマホに声をかけたかと思うと道の先にコハルが現れる!どうやら仕掛け人Bのハスミさんはコハルを使ったようです。コハルは向かってくる宇沢に対して声を掛ける!
「あ、あの宇沢さん!」
「は、はい!え、あ、ちょ、ちょっと急いでるのですいません、失礼します……!」
圧巻の早口!ATフィールドを展開した陰キャはすぐさま逃亡を開始するぅ―!
「ば、馬鹿な……!コハルを無視…!?」
「いや、これは陰キャ特有のものだね。キャパオーバーになった脳がこれ以上の情報を処理しきれなくなって思考停止してるんだ。後日、謝りに来るしベッドの中で身もだえするね」
「陰キャ博士……!」
おいおい、誰が陰キャ博士だ。俺はハスミの胸をビンタしつつ、状況を見守る。そう、これだけの騒ぎ()を起こしてスイーツ部が気づかないわけがないのだ。駄弁りながら歩いていて注意力散漫とはいえ、知り合いに声を掛けないのもおかしいだろう
「アレ、宇沢じゃん」
「レイサさんですね。今日は暑いですね~チョコミントアイス食べます?」
「急ぎ?てか汗ダラダラだけど」
「レイサ―、手に持ってるの何ー?」
おっとまさかのファインプレー!ナッツーのファインプレーが決まっていくぅ!
「え、あ、これは、遊園地のチケットを貰ったのでき、杏山カズサやみ、皆で行きたいなーと!」
誘ったぁー!もうどうにでもなれという勢いで誘いにいったー!
「え、行く」
「やったー!」
「いいの?えっ、優先チケットじゃない…・・・?」
「わぁーい、観覧車ハシゴするぞー」
決めたァー!宇沢選手見事にゴールを決めました!解説のスズミさん、今のゴールどこが決定打でしょう?
「皆さんのサポートがあったからだと思います。後ろから追い抜くように仕掛けたセイアさん、足止めとレイサが居る事に気づかせるようコハルさんを配置したハスミさん、どちらも抜けていたらこうならなかったでしょう」
「はい、ありがとうございます。ではこれにて、またの次の試合でお会いしましょう。スズミさん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
俺達はひとしきりプロ実況ごっこを終えた後、快挙を成し遂げた宇沢に突進、その場に集まったメンツで胴上げをするなどした。ハスミにセイアにスズミにコハル、あと渋々こっちに来たマシロと招集されたトリニティ生徒という豪華メンツだ。わーっしょい、わーっしょい。
「な、なんですか!?先生!?スズミさんも!?私何か……」
そこで自分の非が浮かぶあたりホント宇沢は陰キャだと思う。俺とその場に集まったメンツは可哀そうで可愛い宇沢を猫かわいがりすることになり、あまりにも異常事態なことに思考停止した宇沢はされるがままだった。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺48
その後、スイーツ部も加えて謎メンツ全員でアイスを食いに行った。
補遺49
プロ実況MADが好き
学名:トリニティウザワレイサデス!!!(宇沢レイサ)
補遺1
悲しいタイプの陰キャ。蓄積された過去から出力される陰キャ仕草が人の心を抉る
補遺2
本当によくわからないメンツとつながりが出来てひたすらに困惑している
追加補遺
仕掛け人一同
補遺1
宇沢レイサのことを詳しく語るセンセイモドキの方に疑問が寄せられている。それはそれとして宇沢レイサを可愛がった
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