センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
夏をテーマに一本書き上げたいと考えた時、浦和ハナコが思い浮かびました。夏の暑さに負けないよう皆さま、ご自愛ください。
ジジジジジジジ
夏、生憎の天気は気が滅入るほど良い晴天だった。雨でも降ってたら気持ち良いんだが……いや、湿気やらジメジメでやられるしジットリした暑さは嫌いなのでこれでもマシか。俺は額の汗を拭い去ってまた一歩、一歩と足を進めていた。
耳にイヤホンをねじ込んでも貫通してくる蝉の大合唱は夏の風物詩にしてはうるさすぎるし、なんならイヤホンから垂れ流す音楽は夏をイメージした曲なので風物詩の重複表現だった。こういうのなんていうの?季語の重複?
どこへ向かっているのかと言われると見た方が早い。
アスファルトが溶けだしそうな暑さと照り返す熱気に耐えながらビニール袋をぶら下げて、上り坂を上がっていくと一つの公園が見えた。
人の気配がまるでないそこは放棄された区画であるらしく、そこにポツンと人影が一つ振り返る。
白いワンピースにつばの広い帽子を被った少女。まるで夏の概念を形にしたみたいな女。
「先生、ちょっとお時間もらいますね♡」
浦和ハナコ、その人だった。
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「夏だなぁ」
「夏ですねぇ」
買ってきた三〇谷サイダーを流し込みながらブランコに揺れる高校生二人……絵面が半端なく事案であるのだが高校生でも黄昏たい時があるし、それが思春期であるなら猶更というもの。
夏デート……らしい。俺は誘われたハナコにホイホイと呼び出されただけなので正直何するとか全く知らない。それでも、珍しくハナコが誘ってくれたのもあって何も言わずに来た節はある。
「バッチリ決め込んじゃってからに」
「先生と二人きりのデートですから♡それにもしかしたら雰囲気にあてられて夏空の下、青「アウトーッ!!!」
危ない危ない。発言はマジで気を付けろよ。歩くコンプライアンス違反め……!壁に耳あり障子にメアリーというようにメアリーさんがこちらを見ていることがあるかもしれないんだぞ。こっちじゃガチに神秘とか恐怖だとかそういうのあるんならメアリーさんだって居るかもしれないんだから気を付けろよマジで。
一見清楚に見える服装もよく見てみるとドスケベなので油断ならねぇこと……!白いワンピースはよく見れば膝上だし、何ならそれ若干透けてない?シースルー?
「胸が開いたものとどちらにするか迷ってこちらにしました。先生には刺激が強そうだったので……」
「胸が開いたヤツって何?」
「こういう奴です♡」
「マリリンがモ(ン)ロするドレスじゃん」
あの通気口?の上に立って風でスカートが舞い上がる奴ね。コレ胸が開いてるレベルじゃないだろ。ほぼVスリングショット水着の類型じゃん。胸以外ほぼ隠せてないだろ……
こんなドスケベな服装と比べると確かに今のこれはお清楚と言えるかもしれないが……それにしたってスカート短すぎない?大丈夫?
「でも似合いそうじゃないですか?」
「お前自分をマリリンと同レベルと自負するのはさすがに……」
「そこは似合うって言わないといけませんよ?女心をちゃんと理解しないと」
「いや、お前を女心のスタンダードにするのは世の女の子に失礼だから。女の子なら恥じらいを持ちなさいよ。これ着れる人はこの世にマリリンしかいないから。これを他の人が来たらちょっと……恥ずかしい通り越すでしょ」
そもそも恥じらい云々言うなら普段の全裸とかワイシャツ以外何も着ないノーガードスタイルやめろよ。恥じらいレベルじゃないよ。恥だよ恥。
「恥じらいはスパイスと言いますよ?……でも私は素材の味を活かしたいなと」
「お前の場合調理すらされてねぇんだよ。寿司だって刺身を酢飯に乗せるんだぞ。お前のソレは魚介そのまま口に突っ込まれてる感じ。わかる?アジやマグロを丸ごと口に突っ込まれてるのが」
「嫌ですよ先生♡マグロだなんて」
「隙を作った俺も悪いとは思うけどお前マジで……!」
クソッ、コイツ言葉をミスるとすぐ揚げ足取ってくるから油断ならねぇ……!
「そういえばマグロって泳ぎ続けないと死んじゃうらしいですよ?つまり私の
「ほぅ?お前は恥のマグロと言いたいのか。OK。お前のこれまでの所業と合わせてお前がベッド内じゃマグロもマグロだってことを世に言いふらしてやるよ」
「うふふ」
「その一切笑ってない声色の笑みやめろよ……事実お前俺の神聖なるお布団に潜り込んで何もしなかっただろ」
「アレは先生の寝顔をずっと観察していただけですよ」
「怖いよ……そこで手を出さずに見るだけに留めるお前が一番怖いからな?知ってるか?危害を加えてくる幽霊よりもずっとこちらを見てくるだけの幽霊の方が怖さレベルで言うとたけぇからな?前者ならバイオ的な感じで寺生まれのTさん呼んで破ァッ!だけど後者の場合手に負えない幽霊なんだよ」
──お前は手に負えない幽霊と同じなんだよ。
そんなことを言ってなんとなく空を見上げる。遠いところでもくもくと入道雲が膨らんでいた。夏だ。ここには夏しかないな。あつくて頭が茹りそうだ。
ふと、会話が途切れた。ハナコの方を見るのが何だか怖くなって蝉時雨の中でなんとなく、言い募る。ホントに何の気なしに、徒然にだ。ハナコが黙り込んだ理由はわからない。でもまぁ、どうせ大したことじゃないだろう。頭いい奴は自分の考えている事をどこか高尚なものだと思ってる節があるからな。
「最初さぁ、お前見た時、昼間に幽霊が居るみたいだって思ったんだよ。不気味っつーか違和感っつーか。一人だけ異質な感じがして、あぁコイツなんか抱えてんだろうなみたいな漠然とした理解はあった」
「蓋を開けてみれば、なんだ。ただ天才が苦悩してるだけじゃんって。よくある天才故の苦悩ねハイハイって。本や映画でうんざりするほど見て来たソレだと思ってさ」
「だから俺、お前に言ったろ?『浦和のソレは誰しもが抱えているもので別にお前だけの特別じゃねぇよ』って。アレ、今思えばひでぇこと言ったなとは思う。でもまぁ当たり前の話なんだよ」
「自分だけが苦しい、自分だけなんでこんな目に……って言われても言われたこっちからしたらそんなんよくあることだし、なんとかしてくれって言われたところでじゃあお前自分の頭と胴体切り離せるか?って話だし」
──才能なんぞ身体の一部と一緒なんだから切り離したら異常が出るだけだしそもそも切り離せないだろって。
「そんなん言ったらマジでこっちに敵意向けて来た時期あったじゃん?いやまぁ環境が悪かったところもあるし、誘導した節はあるよ。トリニティってクソメンドイところだってその時あんま知らなかったし。でも、お前ずっとマズい顔してたじゃん。何喰っても味しませんみたいなマッズイ顔して生きててさ。それがようやく爆発して吐き出せるモン全部吐き出して、ようやくお前は笑えたじゃん?」
それみてようやく安心したんだよ。あぁコイツ、笑えたんだって。
「嬉しかったよ。ようやく笑えるようになったんだなって。クッソマズイ顔してたのにお前、心の底から笑えたんだなって。だから俺はお前の笑顔が好きだし、そのなんも笑ってねぇ上っ面の笑いが嫌いだ」
サイダーを流し込む。はじける炭酸にニ、三と咽ながら俺は続けた。
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「何度でもいうけど、お前は特別じゃないしどこにでもいる普通の女だ。これを言うと毎回変なプライド?みたいな感じで否定したり笑ってない笑みを浮かべるのはお前が心のどこかで才能とそれに悩み続けた時間を大切に思ってるからだ。ならそれを大事にしてやれよ。悩んだお前も
…………そんなことは、
「私は、」
線香花火やらが入ったバケツが目に入る。私が用意したものでした。いつかしたいと思っていて、ホントは補習部の皆さんとしたいと思っていたけれど、なんとなく初めは先生としてみたくて。それで私は今日、ようやく、ようやく先生に連絡をすることが出来て。
…………とっくのとうにわかっていて、
「私は。」
天気予報で今日は快晴だと言っていたのに、いざ当日になれば午後から嵐が来るでしょうなんて言われて信用ならない天気を恨んだりもしましたがそれでもこうして話せることがうれしくて。遠目に見える雲が嵐を呼ぶのだろうと、微かに響く雷鳴を聞きながら。微かに香る雨の匂いを味わいながら。
嫌いって言われました。少し傷つきました。でもそれよりも多くの嬉しさが勝って。
普通の女と言われました。どれだけ求めても言われなかったことを言ってくれました。誰も私じゃない私を見るのが嫌で。
私は私じゃない私を好きになれませんでした。でもどこかそれに縋ってもいました。これすらなくなった自分はどこに行けばいいのだろうと途方に暮れてしまうようで。
笑っていたら解決するから笑っていました。波風立てず、ただ無風の中、日差しに照らされる花のように享受していれば何も問題はないとあきらめていました。
それなのに。
「私は……!」
嵐のように現れて、貴方はすべてを荒らしていきました。私も、私の周りも。それで皆さんに出会えて嬉しかった。けれど、だけれど、貴方のせいで
知ったような事を言って、私の全てをどこかで見たような事と切って捨て去ってしまう貴方が嫌いです。
悩んで、悩み続けて、それで出すに出せなかった答えを引っ張り出したあなたが好きです。
私を否定した貴方が嫌いです。
私を肯定してくれたあなたが好きです。
入道雲がゆっくりと大きくなる。だんだんとこちらに近づいてくる。もうすぐ嵐が来る。
それでも。
「わ、たしは……」
言いたい。言えない。言ってしまったらこの関係が壊れてしまいそうだから。貴方が離れていってしまいそうだから。一歩、踏み出したくても踏み出せない。心の中で何度も言い続けた言葉は途端に口の中を転がってしまう。
花火で遊んでいる最中に言うつもりだった。そのために用意したははずなのに。貴方と楽しんでる最中に、言うつもりだったのに。
貰ってばかり、いつもしてもらってばかりで何も返せていないから返したくて。
傷つく姿を見たくないけど貴方の側に居たいから、ただずっと自分をだまし続けて貴方の側に居て。
でも貴方が他の子を見るのが憎くて羨ましくてうれしくて悲しくて、それでもあなたは私をちゃんと見つけてくれて。
矛盾した私を肯定してくれて、それが普通の事だと言ってくれたのが嬉しくて。
だから。
「ハナコ、いつでも良いし、いつまでも待ってるから。今じゃなくても良いと思うぞ」
「ぁ……」
見透かしたように、優しい声色で、あなたは、貴方は。
雨が降ってきた。ぽつりぽつり。独特の匂いが周囲に立ち込めて。遠くから響いていた雷鳴が近くに聞こえて来た。
「雨降ってきたし、帰ろうぜ。」
手を差し伸べられて、声を掛けられて、見れば線香花火の入ったバケツはもう水に塗れて湿気ていそうで。何もできなかった。何も、私は何も出来ていないのに。貴方は。
欲しい言葉をいつも言ってくれるのが嬉しくて恨めしい。言ってほしくないことを言ってくれる貴方が嫌いで好きなのに、私は何も言えないままで。今、ようやく変わりたいと思えたのに。今度は変われないままで。
「また今度、改めて花火しようぜ。てか、線香花火なんて夜やったほうが良いだろ。ほら、行くぞ。風邪ひいたら花火なんかやってられねぇからな」
私は、私はいつまで――
学名:センセイモドキ(先生)
補遺57
手を差し伸べるだけじゃなくて、ビンタすることも優しさだと思っている。が、人からはそのビンタはビンタではなく張り倒して馬乗りになって殴打だとよく言われる
補遺58
嵐の中、傘も差さずに家に帰るのも含めて“夏”だと思っている
学名:トリニティウラワフラワー(浦和ハナコ)
補遺5
夏のような女。晴れている日と雨の日で見せる顔が違う
補遺6
ずっと嵐に狂わされている。どれくらい狂っているかというとびしょぬれのまま玄関で佇み、湿って使い物にならなくなった線香花火に火を付けようとする
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