センセイモドキは先生を辞めたい 作:ブルアカやったことない民
「先生辞めてぇ~~~~~~~!!!!!!」
「ひあぁえぁっ!?お、大声、出さないでください……!」
ごめんごめん。でもマジでちょっと、我慢ならんかったというか……これはシャーレに頼む仕事じゃねぇだろうよォ!俺はキレた。それはもうキレた。確か、いつかに先生辞めない発言をした気がしないでもないが、今はやめたかった。人間は移ろう生き物だ。昨日の自分と今日の自分は一緒かもしれないが、昨日の自分と一週間後の自分が一緒なのかと問われて素直に頷ける人間は居ない。男子ならもっとそうで、男子三日会わざれば刮目して見よという。なら、男子は三日も経てばそれはもう別人になっちゃうわけで、つまり一貫性を期待するのは土台無理な話ということだ。
今日、俺とウイが居るのはとある図書館だった。どうやら不良生徒の襲撃にあったらしく、本が床に散乱して酷い有様となっている。幸い、しまう本棚は丈夫に作られていたのか壊れている場所はなく、ただただ散乱した本が邪魔という惨状だった。キヴォトス特有なのか本棚とかはものっそい頑丈に作られてんだよね。銃弾で傷がつかない本棚ってなんだよ。
転がる本は様々だ。何々?これは……『キヴォトス人の種族の違いについて』ね。ちょっと気になるなぁこれは~。何々?……はぇ~ゲヘナの子達って一応約束を守る子が多いんだ。……アレで?
悪魔的な種族の末裔?的なものなのかそういった面はあるらしいが誤差の範疇らしい。うーん、それを言うとゲヘナから距離置いた便利屋が一番近くならん?マジで?アルちゃんが一番悪魔に近いの?契約守るって意味で?嘘でしょ……これは嘘だよ。
他にもキヴォトス人の耐久力をテストした本や多分寄付かな?で納められたのであろうゲヘナの子とトリニティの子の禁断の百合本とかを見つけるなどした。後者はちょっと読んだ。えっ……角をそんな……わーぉ。えっっっど。内なるコハルも死刑死刑って言ってますよこれは。
俺達はシャーレの依頼でこの図書館に来ている。
ちょうど、トリニティの近くで俺が居たのもあるし、その時の俺はウイを如何にして日光を浴びさせるか考えていた時期なのもあって、休職中とはいえその依頼を引き受けたのだ。まぁ、今めちゃくちゃ頑張ってるリンリン達の負い目もあるから……ウン。だがそんな負い目もこの惨状を見て吹っ飛んだし自分の選択を後悔した。俺はいつも……間違った選択をする……!なーにがリンリン可哀そうだ。あの業務量叩きつけたのあっちじゃろがい!手のひらドリルは俺の十八番だったのでそれはもうドリルった。今日はいつもより多く回っております。
そんなわけで俺達は図書館の本を元に戻す作業をしていた。破れた本や汚れた本、無事な本に取り分けて、無事な本を本棚に戻している最中だった。
ただ……ね。
終わりが見えない……!マジで終わりが見えない……!奴隷がグルグル回す意味のない拷問みたいな労働をさせられている。いや、一応、終わりがあるから意味はあるんだけど。
話に聞いたところ、ここの図書館の蔵書は8万冊であるらしい。これでも平均は12万冊だから少ないとのこと。8……万………?俺は宇宙猫になった。まぁ8万の蔵書全てが床に散乱しているわけではないが……それでも膨大な量の本を仕分けし、分類していくのは途方もない作業だった。
俺達は最初、何処から手をつけるべきか迷って、まず最初に無事な本を集めようと動き始めた。
だが、この量を黙々とやっていくにはそうそうに心が死ねたので通話を開いて互いにイヤホンを耳にねじ込むなどして会話を続けている。ウイがイヤホン持ってるのは意外だな~って思ったけどノイキャン目的とかで使うらしい。なるほどね。あるよね。そういう時、音楽とか掛けないけどノイキャンだけを求める奴。
「最近のさぁ、電子書籍移行の波ってすごいじゃん」
「そ、そうですね。そういう風情のない楽しみ方が流行る現代になってしまったことが、な、嘆かわしいです」
「当たりつっよ」
「で、電子書籍を読む輩は……ど、読書家の風上にも置けないです。読書という体験を効率の目で見てしまう人間に、文学を語る資格はありません」
「何?電子書籍ガチアンチなの?」
ウイはどうやら電子書籍ガチアンチらしい。まぁ古書と正反対のものだからそりゃあそうなんだけど。それにしたってエグイパンチラインカマすじゃん。親でも殺されたんか?電子書籍派に。
「でも、ほら。古い本を保存しておくって点においては重要じゃない?バックアップとかさ」
「そ、そんなもの、私が治せばいいんです……!この子達を治すために、私が居ます!……そ、それに電子でも破損することがあるじゃないですかっ」
「それはねぇ?どっちにしたって同じことだよ。ようはどっちでもバックアップ取っておきましょうよってことで」
「さ、触ったら壊れそうな物、信用できません……!」
「君はお婆ちゃんなの?」
そんな新しいものを受け入れる下地がないみたいな……足を止めたら流されちゃうんだぞ。時代の荒波に。
ウイがさすがにガチアンチでちょっと笑えてくる。現代にあまりにも適用出来てなさすぎだけど大丈夫?生きていける?詐欺に引っかからない?いや、ウイ人間不信拗らせ気味だから全方位疑ってかかるし大丈夫なんだろうけどさぁ。てかモモトークとかどうなのよ……って思ったけど、ウイマジで業務連絡みたいな感じでしか使わないな。マジか。そっかぁ……。
「ウイ、確かに、確かにね?タイパを気にしてたかだか30秒弱の動画でさえ倍速で見てしまうような現代人にね。読む速度依存とはいえ1時間以上本を読むという行為は最早拷問とすら思われるかもしれない」
「せ、先生……信じていたのに。心を、失ってしまったんですか……」
「いやいや、勝手に俺を心無き人間にカテゴライズしないでよ。どっちかと言えば俺もそっち派だし。でもね。これだけは聞いて欲しい」
──新規の人間を受け入れられなくなった界隈は衰退するしかないんだよ。
どれだけの界隈が身内ネタを擦り続けて衰退していったか……。
そう、ウイの言う読書に限らず昨今の読書だって色々なものを包括するようになった。たとえばオーディオ……スマホやそれ用の機械で人が朗読するのを聞いたり、あるいは動画のように文字を追っていくものだったり。間口を広げたと言ってもいい。
逆に言えばウイが望む読書という体験は余裕がある人間じゃないと出来ないものだと俺は思っている。だってそうじゃん?本読んだことない奴に初手ハリポタの小説渡すか?イギリス料理食べたことない奴にスターゲイジーパイをお渡しするようなものだぞ。有名だけども……!色々カロリー高いだろうが……!
元々が名作だから読み終える確率は高いかもしれないけど、それにしたってぶっ続けで読める人間なんてそういない。もし、そんな奴がいるならとっくのとうに本の沼にハマってる。
「そ、そんな……あんな風情の欠片もない読書を。ページをめくる音、鼻を擽るインクの匂い、静かに本の世界に沈んでいくような、あ、あの感覚を理解できない無知蒙昧に、未来を委ねろって言うんですか……!」
言葉のナイフとは言うけれどもあまりに怨念籠ってるじゃん。妖刀?言葉の妖刀振り回してらっしゃる?
「ウイ……言葉と同じなんだよ。誤用や間違った意訳が本来の意味に取って代わられる。正しさは何も不変じゃない、流動的で時代によって変わってくるんだ」
「み、認めませんよ……!あ、あんな『エ、エモイ』の三文字ですべてを形容できると思ってる現代を、み、認めたくない……!」
「それはマジでわかる。なんだよ。エモいって。あの三文字を許容してしまったら文学いらねぇだろ」
「先生……!」
ごめんそれに関しては俺も手のひら返すわ。禁断の手のひらドリル“二度打ち”。俺もエモいだけは許せない。マジ。
声色からしてわかる。キラキラとした瞳をしているんだろう。うむうむ、やはり文系……それもちょっと拗らせたタイプの人間にとってアレはちょっと許容しかねるだろうよ。やっぱりウイはわかってんねぇ!
マジでエモいはなし寄りのなしだ。他称:心が広い文系マンとはいえ……言葉は時代で移り行くものとはいえ……だよ?あのエモいに行きつく先なんて袋小路しかねぇだろ。感情に訴えかけるナニカを形容するために様々な言葉を尽くすのに、それをそのまま使うのはあまりにもナンセンスだ。マグロの活かし方を考えてるのに生のマグロドンって置くようなもんだぞ。活かせよ、マグロのポテンシャル。
芸術に例えるとわかりやすいか?エモいは所謂現代アートだ。なんかもう奇を衒い過ぎて何を表現しようとしてるのかわからないし、真っ白いキャンパスを見せられて『これが芸術です』とか言ってるようなものだ。描けよ。そんなのに未来があると思えるか?俺はないと思う。真っ白いキャンパスを芸術と謳うなら、その先はなんだよ。虚無?
「ウイ~、いったん休憩挟んで本腰いれて話さね?沸々と湧き上がってきちまったよ。憤怒」
「ぞ、存分に付き合います……!」
俺達は仕事を放棄して熱弁し始めた。あまりにも終わりが見えないから投げだした線もなくはない。
ウイと合流し、備え付けのソファにドカリと座る。隣にウイがチョコンと座った。俺は虚空に両肘を置いてゲンドウポーズ……。言った。ちなみにウイは両手を胸の前でグーにしていた。可愛いかよ。
「確かに、だ。読み解く力ってのは人それぞれだし前提となる知識も要る。英語を知らない人間に原語の不思議の国のアリスを読ませるようなものだ。ただね?」
──だからといって努力を放棄するのは違うだろうよ。
本も一種のコミュニケーションだ。読み手と作り手、双方が努力するものだと思っている。作り手は世界観や伝えたいことを提示し、それを読み手が咀嚼する。レストランの料理人と客のようなものだ。料理人は美味しい料理……本を提供することに終始し、客は味わうことを求められる。客が言えるのは味の感想だけだ。それをさぁ……
「つ、作り手が真に伝えたいことは読者に届かないと、き、聞いたことがあります。それは多分正しいのでしょう。でも……だからといって言葉を尽くさない理由には、ならないじゃないですか」
ウイがまるで憤慨するように言う様にすぐさま俺のボルテージは最高潮になる。
そうなんだよ……!そうなんだよウイ……!言葉ってのはさぁ、相手に伝わるようにって思いやる為のものなんだよ。それを……!なんだよ、エモいって!尽くせよ!言葉を!伝える努力を怠るなよ!
俺は思わずウイの両手をがっしり掴んで固い、固い握手をするなどした。同志……!
「ひぅっ、あ、いえ、はい……!ど、同志です……!」
んもう顔朱くして可愛いねぇ、愛い子だねぇ……あ、ウイ子だねぇ。と撫でまわしながら現代の言語に荒ぶるなどしていた。ウイが可愛すぎる。頑張って会話しようとして可愛いねぇ。持ち帰っていい?うちの子にしていいよね?うちの子にしたい。養子縁組もうかな……。
「マジでさ、言葉に言外の意味を求めるのはほどほどにした方が良いんだよ。疲れるじゃん。コミュニケーション」
幽霊の正体見たり枯れ尾花ってわけじゃないけど。言葉の裏を読み過ぎて幽鬼を見てたんじゃ世話ないよ。京ことばにしたってもっと関連性があるのにさぁ。最近のトラブル会話の事例とか見ると、もう1とAをイコールで結んでるようなモノじゃん。数字と英字を結び付けてる時点で気づけよ。超えちゃってるよ。枠組みを。
確かに、確かにね?文学において『貴方が好きです』を『月が綺麗ですね』と意訳するセンスを持ちだしたりするのはいいだろう。でもそれは相手が自分と同じ教養を持ってる前提でやるべきで、伝わらない相手にやったらそれはタダのマウントだろうよ。
そんなことを言いながらひょいと膝に乗せたウイがジト目でこちらを見て来た。なんだよ。その言いたげな顔は。尽くしな、ランゲージ。
「せ、先生は色々な生徒と仲良かったりするじゃないですか。お、思わせぶりな発言ばかり……」
「ほーん?言うじゃん」
んー?嫉妬かぁ?嫉妬してるのかぁ?
残念だったなぁウイよぉ……。俺は一般的な男子高校生。それも作者の心情を答えなさいや、6行目、たかしくんが思ったことについて120字以内で書き取りなさいという問題に対してパーフェクトを叩きだす男……!フラグなんてバキッバキに折るし、難聴系男子のような勘違いや聞き間違いもしない!
「いいかい?俺はね。直接的に好意を伝えるようにはしている。でもそれはあくまで言外の意味を取られたりしないようにっていう意味で言ってるんだ。それにね?俺はキヴォトスで例外的な男子だ。その男子に興味を持つのは何も間違いではない。そこに付け入るような真似をしたのは事実……!」
──必要なこととはいえ、ね?
最初結構揉めたんだよなぁ。先生なのにほぼ同い年の男子が来ちゃったんだもん。大人じゃなくて子供だもん。だからまぁ信用してもらえるように乙女の純情な感情に付け入るような真似もした。これは事実だ。刺される覚悟はある。大丈夫、常日頃から雑誌を懐に忍ばせているから。
「で、でもそれは……先生の立場上、仕方ないことではないでしょうか」
「……もー!可愛いなぁウイは!」
「ひえぇっ」
あー、ウイの変な鳴き声癒される~。ウイの鳴き声はね、いずれガンにも効くようになるし今はまだ医療的証明がされていないけど猫のゴロゴロ声によるメンタルヘルス効果だってある。根拠?ないが?この世は言ったもん勝ちだぞ。相手が何も言わなくなったら勝ちの会話デスゲームだから。
もっと聞きたい~~と言わんばかりにウイの服におててをインしてお腹をプッシュする。ぬくい。俺はシートベルトになった。ウイの安全は守るぜ……。
「えぁっ!?」
「すべすべ……」
「ふえぁっ」
「モチ……モチ……」
「あぅぁっ」
ファービー人形かな?まぁそれはさておき。言わんとすることはわかるので一応言っておく。俺はそんな大した人間じゃないよ。マジで。
「ウイ、俺はね。責任を負いたくないんだよ。勘違いさせたって言われると胃が痛いし、俺のせいで争われるとしんどくなる……ウイならわかるくね?」
「……えぇ」
人間不信、それがどんな経緯でそうなったかわからないけど、でもまぁ伝える事に疲れてしまったからって一面があるんだろう。それ以上に、対話のカロリー消費がウイにとってはキツかったか。多分、後者かな。
「マジでさぁ~~シンドくなる時あるよねぇ」
「……えぅ、で、でも」
こちらを見上げる、髪から覗いた綺麗なかんばせ。文学的表現ね?近くで見るとホントキレイだよなぁ。改めて顔の良さを理解するとホンットにね。こっち来てよかったけどさぁ~~。もし俺が帰る事になったらどうなっちゃうのさ。戻せないよ。顔の水準。もう皆の顔じゃないと満足できない身体になっちゃったよ……。
「せ、先生がしてきたことが、なくなるわけではない、ので……。きっと、みんな許して、くれます。少なくとも、私は、頑張ったと思います……」
……これはさぁ、もうさぁ!ゴールして、いいよね?
なんかもうこのままウイエンドでいいんじゃないかなと思うくらい情緒が爆発した俺はそのままウイの髪の中に顔をうずめてウイ吸いした。インクと紙と、仄かに女の子の香りがした。グッスメル。誰だくせぇとかふてぇこといった奴は。……俺か。俺でした。いやだってあの時はマジで臭かったんだもん。女の子の匂いとかじゃないよ。ホコリ、ホコリ臭。アレを良い匂いと感じるほど嗅覚は鈍ってないよ。今はちゃんと気にしてるのか良い匂いがする。スーーーーーーーーーッ、グッスメル。吸い過ぎて鼻からウイを吸引するんじゃないかというくらい吸った。吸引力が変わらないただ一つのウイ吸い。
そんな俺の奇行に限界が達したのか機能停止したウイはそのまま猫吸いされた時の猫のように虚無顔を晒していた。
あ、そうそう。図書館の依頼はおわらなかったので、後日、シミコを呼んで三人で片づけた。ごめんよシミコ……。でもシミコってちょっと不憫が似合うっていうか、負けヒロイン感あるよね。そういうことを言うとグーで殴られた。ウイには呆れられた。そんな……悲しくなった俺はウイとシミコを吸った。うーん、グッスメル。
学名:センセイモドキ(先生)
補遺13
手のひらドリル検定1級保持
補遺14
ウイ吸いに依存性があるのではないかと疑っている
学名:トリニティトショカンヒカゲヌシ(古関ウイ)
補遺1
変な鳴き声を上げる。求愛の声ではないかと学会で議論されている
補遺2
センセイモドキの事はちゃんと好いているがそれはそれとしてスキンシップが激しいのが最近の悩み