「来週は他校で三日間の交流会を行う」
朝のホームルームで担任の茶柱先生から他校交流会の告知が行われた。
「幾つかの高校に各クラス約八名ずつ出向く形になっている。どこの高校に行くかなどの詳細は明かせない。この土日に宿泊準備だけは整えておくように」
「その交流会では何するんですか?」
話の終わりを察した池が手をあげ質問する。
「交流内容自体も明かせない。ただお前たちにとって悪くないイベントも用意されている」
「え? もしかしてプライベートポイント貰えるチャンスが?!」
「想像は好きにしろ」
「その言い方確定でしょ! よっしゃー!」
池同様の想像をした幾人かのクラスメートは嬉しさを滲みだしている。
おそらくそれで間違いはないだろう。特別試験でのクラスポイント獲得という線は他校で少人数という要素から排除できる。
ならばミニゲームなどでプライベートポイント獲得の機会があると考えるのが自然だ。
「さて、全体に向けた交流会の説明は以上になるが、今から名前を呼ぶ数人は別室でテストを受けて貰う。綾小路、堀北、須藤、平田、櫛田、軽井沢、本堂、池」
「げ、テスト」
名前を呼ばれた内の一人、恵があからさまに嫌そうな態度を示す。
「先生、八人ってことはこの面子が行く高校は同じということでしょうか?」
「そうだ。高校名は言えないが、お前たちが行く高校は少し特殊でな。事前にテストを受けることが受け入れ条件の1つになっている」
平田の質問で八人メンバーが確定したが、それなりに交流のある面子だ。
「……ちなみに科目は何ですか?」
一応の抵抗をしようとデジタル教材を用意した軽井沢が科目を訪ねる。
そんな軽井沢をからかう様に茶柱先生は応える。
「主要五教科だ」
「うそ!」
軽井沢の心からの嘆きにクラスメイト達は同情の視線を送る。池や本堂も頭を抱えていた。
「清隆~つかれたー」
「あと一科目残ってるんだ、気を抜きすぎない方がいい」
昼休みテストから一旦解放された恵は俺に寄りかかってきた。
「そう言ってあげなくてもいいんじゃない。あの特殊な形式のテストは私もそれなりに疲れたわ」
恵以外にもテストを受けたメンバーが集まっているが、堀北も慣れないテストに疲労を感じたらしい。
「そうだよね、問題数が多すぎてびっくりしちゃった」
「あのテストを受けて僕の中で1つの高校が思い浮かんだんだけど皆はどうかな?」
「私もよ」「私もかな」
平田の問いかけに堀北と櫛田がそれぞれ答える。その二人以外はわからないらしく耳を傾けて答えを待つ。
「おそらく僕たちが行く学校は――――」
場面転換。
「先日伝えた、他校の生徒が来ている。早速自己紹介を行ってもらうぞ」
教室の教壇で筋骨隆々の男性教師がこちらに合図を送る。
ドアを通り教室を見渡すとそこにはボロボロの座布団に座り、ミカン箱に腕を預けてる生徒達がいた。
教室設備の状態はよくない、ところどころに補修の跡が散見される。一般的な教室設備と比べるまでもなく、劣悪な環境といえるだろう。
なるほど、これがFクラス。この【文月学園】ではA~Fクラスまでが存在しておりAが頂点に君臨し、以降アルファベット順に生徒の学力が高いと説明された。
Fクラスはまごうことなき最下位クラス。教室設備もクラスの順位に準拠しておりそれがこの光景、下位クラスからしたら中々厳しい育成方針と言えるだろう。
「……堀北鈴音です。三日間よろしくお願いします」
俺が周囲を観察してる間に堀北が先陣を切って自己紹介をおこなう。教室や生徒達をみて思うところはあったのだろうがそれを飲み込んで無難な挨拶に留めた。入学当初の自主的自己紹介を拒否したあの時とは状況が違うとはいえ、これも確かな成長なのだろうと実感を抱く。
「軽井沢恵です。……よろしくね」
恵も堀北に続くが明らかにテンションが低い。無理もない、大勢の男子生徒からちらちらと熱い視線をむけられているのだ。気にするなという方が酷だろう。
同じく視線を向けられてる堀北も若干表情が固い。
二人の後、本堂が普通の池が若干受けを狙った自己紹介をして滑り俺の番になる。入学当初に上手くいかなかった事をまた出来る機会だとは思いつつも、ここで池のような自己紹介をしても四人に怪訝な顔をされるだけでFクラス生徒達にも受けないだろうから結局無難にやり過ごすことにした。
「綾小路清隆だ。三日間よろしく頼む」
そんな俺の自己紹介が終わり、男性教師の細々とした話に移る。
交流の上での注意事項や、五時間目は体育館に集合することなどの伝達を終え教師が去った途端——咆哮があがった。
「うおおお! 女子だ! 女子だ!」
「可愛いぞおおおおお!」
男子生徒達が立ち上がって叫んでいる。
「何なのこれは……」
「ひぃ……」
そんな男子生徒の奇行に堀北はたじろぎ、恵は怯え俺の腕に抱きついてきた。
その瞬間空気に亀裂が入った。
先ほどまで騒がしくしてたFクラス生徒達が静まり、怒りに満ちた形相で俺を見ている。
「女子からの抱き着きだと……!」
「しかもちゃんとむむ、胸のあるギャル系女子!」
「これは万死に値する!」
俺に妬みのような呪詛を吐きながらいつの間にか、制服から顔を露出させない奇怪な衣装に着替えた男子生徒達がにじり寄ってくる。
ますます恵が怯え、俺に強く抱き着く。それを燃料に殺意まで発しはじめたFクラス男子達に向かって、数少ないFクラスの女子が呆れたように諫める。
「他校の生徒にまで変なちょっかいかけないでよね」
「そうですよ、折角来てくれたのにそんな態度じゃ仲良くなれませんよ」
短いポニーテイルの強気な女子と、長いロングのおとしやかそうな女子だ。
「明久君も止めるの手伝ってください」
おとしやかそうな女子が自分たちだけでは足りないと思ったのか、誰かに助力を願う。
「姫路さん……そうだね。わざわざ来てくれた人達にこんな歓迎はあんまりだよね!」
名を呼ばれたらしい人物は人の良さそうな好青年といった風貌をしているが、奇怪な衣装をさっきまで着ており慌てて脱いでたのを俺は見ていた。
「……その人も、変な服きてたわよ。大丈夫なの?」
恵も見ていたらしく、不安を吐露する。
「いやだなぁー僕はみんなの暴走を止めるために同じ格好をしていただけだよ」
「そうか、ならこの状況はなんとかしてくれるんだな」
俺の言葉に自信ありげな様子で胸を、叩き任せてよと答える。
「この人達はカップルの男子を憎悪してるだけなんだ。だから雄たけびに吃驚して近くにいた、綾小路君に抱き着いたっていえばそれで収まるよ。カップルじゃなきゃ他校生徒にまで異端審問は開かれないからね!」
その台詞に堀北がぴくっと耳を動かし俺と恵を見る。池や本堂も目を泳がしている。
「カップルじゃないなんて……!」
恋人ではないといえば見逃されるといわれ恵が反射的に意を唱えようとしたが、この状況なら仕方ないと諦め寂しそうな顔で俯く。
「悪いがその提案には乗れない。俺たちは実際に付き合っているんだからな」
「清隆……!」
既に高育の方で関係をオープンにしているのだ。恵は恋人関係じゃないとは嘘でも言いたくないだろう。なら俺がここでするのは事実をいうことだけだ。
「ぐはあああああ!」
「なんだこのいちゃらぶの波動はあああ!」
「ときめいてる音がするうううう!」
俺たちの様子を伺っていたFクラス生が軒並み悶えだす。奇怪な衣装のまま、何か怪しい儀式のようだ。
「おまえら、その辺にしとけ。他校との間に問題起こせば鉄人になにされるかわかったもんじゃ無いからな」
「これ以上設備が落ちることは無いにしても罰などは受けるかもしれんのう」
「……危険を冒すのは愚か」
背の高い赤髪の男子生徒が悶える奇怪な集団に中止を要求する。それに続き中性的な男子と小柄な男子が追随する。
三人の指摘で、奇怪な集団の奇妙な出来事は無事沈静化した。
「ごめんね、二人がホントに付き合ってるとは思わなかったんだ」
「すまなかったな、いきなり変なクラスの醜態を見せて」
一連の騒動の後、何人かがこちらにやって来た。その中で明久と呼ばれてた生徒と、赤髪で発言力が高いと思われる生徒が率先して謝罪を口にする。
「謝罪は受け取っておく。恵もそれでいいか?」
「……実際に何かされそうだった清隆がそういうなら私もいいわよ」
大事にすることでもないので謝罪を受け入れる。異様な行動ではあったが被害を被った訳でもない。
「んじゃ、こっちの自己紹介に移るか。俺は坂本雄二このFクラスの代表だ」
「僕は吉井明久よろしくね」
「儂は木下秀吉じゃ。よしなにのう」
「……土屋康太」
「うちは島田美波」
「姫路瑞樹です」
六人の名前を聞き終え、談笑の流れが出来上がった。
「綾小路君たち高高生なんだよね」
「その訳し方は初めて聞いたな……」
「……私達は高育と訳しているわね」
「あはは、とにかくその高育ってどんな学校なの?」
「それは言えないわ、事前に先生から学校のシステムなどの説明は禁じられてるの」
吉井から学校の説明を求められたが堀北が言ったように、俺達は他校に表で出回っている情報以上を明かすことを禁じられている。
入学当初その情報の隠匿を受けて、手痛い失敗をしたDクラスの例を知っている高育生はその意味をしっかりと理解しているだろう。
「そっちもか」
「そっちも?」
「こっちも学校のシステムの詳細やらを明かすなって言われているんだよ」
「なにかあるわね」
「あるだろうな」
文月学園、平田が予想した進学校。その流れで軽く調べた限り高育より情報はオープンだった。
召喚獣をテストの点数を元に戦わせる事や、成績累進式の教室、試験召喚戦争。事前の先生の説明でもそのことは触れていた。
だが、システムを使ってる者にしかわからない点などは多くあるだろう。
「学校の話が出来ないなら何を話したものかしらね」
堀北が腕をくみ思案する。普段誰かと喋るのは特別試験など必要性があるときばかりだ。こういった雑談はあまり得意じゃないのが見て取れる。
「あ、あの軽井沢さんと綾小路君は付き合ってるんですよね?」
「うん」
「告白はどちらからなのでしょうか?」
「うちも気になる! 軽井沢さんってモテそうだしやっぱり綾小路君から?」
「告白は――」
そんな堀北とは対照的に恵は二人の女子に挟まれ女子トークを始めていた。先ほど交際の事実を認めたことが切っ掛けとなったのだろう。
クラスで女子のリーダーをやってるだけに恵のコミュニケーション能力は高い。こちらは気をつかう必要はないだろう。
「趣味の話が無難かしらね」
「考えてた割に普通の題材だな」
「うるさいわよ」
「趣味かー僕はゲームかな。二人はゲームとかやる」
「私は嗜んでないわ」
「俺も全然だ」
「早速つまづいた! なら二人の趣味は?」
「読書かしらね」
「俺もだな」
「真似しないでくれる?」
「生憎ほかに趣味と呼べるものがない」
「なら私は料理に変更するわ」
「料理なら僕もするよ!」
ようやく二人が共有できる話題にいきついたが、果たして料理の話は膨らむのだろうか。
池と本堂の方は土屋と話し込んでいる。声量を抑えていたので会話の内容は聞き取れなかった。写真を三人で眺めているがどのようなものが映ってるのかは見えない。
あの二人が興味を持つもので周りの目を気にする……何となく思い浮かぶが関わらない方がいいだろう。そう思ってるうちにチャイムが鳴り、一限目が始まる。
場面転換。
休み時間ごとに、最初に話した六人と会話をしてある程度の性格が見え始め昼休みになった。
「……他のクラスの設備でも見にいってみる?」
弁当をしまいながら、吉井そう提案してきた。
「Aクラスがやたら豪華な設備らしいな」
「Cクラスでも普通の学校より全然いいよ」
「そうか。なら、見てみようと思う案内を頼んでもいいか?」
「もちろん!」
「清隆がいくなら私もいく」
「私も見ておきたいわ」
「明久迷子になるなよ」
「ならないよ!」
提案に乗り、俺達は吉井についていき各教室をめぐり始めた。池と本堂は土屋と行動を共にするらしい。
「おう鈴音達じゃねぇか!」
Eクラスにつくと何人かの男子と話してた須藤が声をかけてきた。
須藤を目にしたことで文月学園にきた高育総勢32人の配置クラスを思い浮かべる。
文月Aクラスに高育Aクラス5人。
文月Bクラスに高育Aクラス3人高育Bクラス3人。
文月Cクラスに高育Bクラス5人。
文月Dクラスに高育Cクラス5人。
文月Eクラスに高育Cクラス3人高育Dクラス3人。
文月Fクラスに高育Dクラス5人。
文月B・Eクラスだけ6人で後は5人ずつ配置されている。
この後行われる何かに関係するかもしれない要素だ。他のクラスの誰が来てるかは知っているが配置クラスは知らない、この教室巡りで把握しておきたいところだな。
「問題はおこってないようね」
「いくらなんでも他校生と問題なんておこさねぇよ」
「そうね普通はしないわよね」
「ぐはぁ」
未遂とはいえ起こしかけたFクラスの吉井が胸を抑える。
「それで他の二人はどうしてるの?」
「見ての通りだぜ」
そういって、須藤は教室を見るようなジャスチャーをする。促されるまま見た光景は予想通りのものだった。
女子に囲まれる平田、男子に囲まれてる櫛田。どちらも初対面とはおもえない盛り上がりを見せている。
「改めて二人の対人能力の高さを思い知るわね」
「俺達二人には縁のない光景だな」
「貴方に言われるのは尺だけど反論は出来ないわ」
軽く堀北を弄ったら恵が小突いてきた。堀北とばかり話すと拗ねそうだ。
「須藤君Cクラスの三人の名前はわかる?」
「Eクラスに向けて全員自己紹介したからなわかるぜ――の三人だ」
「助かったわ。それじゃ私達はいくわね」
「おう」
須藤と別れDクラスに向かう。
Dクラス。
「……なんというか先ほど以上ね」
「一之瀬さんなら当然ってかんじ」
Dクラスでは一之瀬がこのクラスのリーダーだと言われても納得できるほどに文月生に囲まれていた。
そんな一之瀬はこっちに気づいて手を振る、とりあえず俺は頷きだけ返す。堀北や恵は軽く手を振っていた。
須藤からEクラスに配置されたCクラス生三人は聞いていたので必然的に残りの五人は把握できている。長居する理由はない。
Cクラス。
先ほどのニクラスと違い高育側を囲む人は少なかった。それも仕方ないだろう。アルベルト、石崎、伊吹の三人はこの手の交流は得意じゃない。金田ともう一人の女子は社交的な一面を見せているが一之瀬達と比べるとどうしても見劣りしてしまう。必要なことは知れたので、絡まれるのを嫌がった堀北に従い、すぐにBクラスへ行くことにした。
Bクラス。
「ここも交流は少ないわね」
「あいつがいるんだし仕方ないんじゃない」
「高育Aは全員、自習に精を出してるな」
高育Bクラスの面子は龍園、葛城、ひより。龍園はもとより葛城も初対面だと絡みづらいだろう、文月生と交流してるのはひよりだけだ。
「最後Aクラスに向かいましょう」
「気になったんだけど設備より同じ学校の人気にしてない?」
「もちろん設備も見てるわ、ただ私達は他クラスの動向も気にしないといけないのよ」
「へぇーなんか大変なんだね」
吉井の質問に答えながら少しして俺達はAクラスに到着した。
Aクラス。
「説明は受けてたけど実際に見るとすごい設備ね」
「うわぁー! いいなぁー私もこの教室で授業受けたい!」
学生が普段使いする教室とは思えない豪華な設備を前に堀北や恵は驚きを露にする。
そんな教室の一角に坂柳を見つける。なにやら文月の女生徒とお茶をしてるようだ。どちらから誘ったかわからないが坂柳がお茶をするに値する生徒と判断したのなら、優秀な生徒なのだろう。
「あそこでお茶をしてる生徒はこのクラスの代表なのか?」
「そうだよ霧島さんていって学年主席の凄い人だね」
「なるほど坂柳のお眼鏡に叶うわけだ」
クラス代表らしい。文月生が教えてはいけない情報にクラス代表の事は入ってないらしく、これまでのクラス全ての代表をその場その場で聞くことが出来た。
教えていい情報だけに価値がないのかも知れないが、知っていて損ではない。
「ともかくこれで全体の把握は出来たわ。教室に戻りましょうか」
情報収集を終え俺達はFクラスに戻る。
『ようこそFクラスへ!』
教室に入るとクラッカーの破裂音とともに歓迎の声が響いた。
どこからか持ってきただろう長机に、お菓子やジュースといった物が大量に置かれており歓迎会だと察することが出来る。
「なるほど、だから吉井君が案内を提案したわけね」
そうだろうな。俺達がいてはサプライズで事を運べない。吉井の役目は俺達を一定時間連れ出すこと、池や本堂は土屋が担当していたのだろう。
「サプライズにする必要もないんだが、まぁお約束ってやつだな」
Fクラスへ歓迎の感謝を伝えながら、各々好きに飲み食いを始める。恵は俺に近づきたいようだが朝の事を考え少し距離をとっている。楽しい雰囲気に水を差したくないのだろう。
「それで戦力確認は終わったのか?」
「なんのこと?」
「とぼけなくていい。俺達も何かしらイベントが行われるのは聞いている。どういった内容かはわからないが情報統制なんかしてるのを考えれば俺達とオタクらで戦う可能性が高い。Fクラス以外の敵情視察に行ってたんだろ」
「半分は正解よ。でも敵は文月生だけじゃないわ」
「なるほど、他クラスもライバルか」
堀北と坂本の会話を耳に入れながらそこかしこでバカなやり取りをしてるFクラス生を見る。このクラスを統率するのは今の堀北でも苦労するだろう、Fクラス代表として手綱を握ってる坂本の評価を上昇修正しておく。
場面転換。
五時限目体育館。
「これより学校交流特別戦の説明を行う」
【学園個人召喚特別戦】。
試験期間は5・6時間目を用いて三日間行われる。
高度育成高等学校生(以降高育生と呼称)には挑戦権、文月学園生(以降文月生と呼称)には参加権が与えられる。
高育生は文月生に試験召喚勝負を挑むことが出来る、高育生からの試験勝負を文月生は拒否できない。
高育生が敗北した場合挑戦権を失い補習室送りとなる。
挑戦権は失っても翌日に回復する。挑戦権が失われない限り何度でも勝負を挑むことが出来る。
高育生は一勝毎に報酬を得る詳細は引率の高育教師が請け負う。
高育生は自身が身を置いてるクラスとは、試験召喚勝負をすることは出来ない。
文月生も高育成に試験勝負を挑めるが、高育生はペナルティーを支払えば拒否することが可能。文月生は拒否された場合一勝にカウントされる。一度拒否された高育生に再度勝負を挑むことは翌日以降でなければ出来ない。
拒否ペナルティー その日の試験終了まで全教科の点数を1割減少、翌日には解消される。注意事項として拒否する度に一割減少されるが、減少前の基礎点数から一割減少なため計10回拒否すれば点数は0になり、敗北と同じ扱いになる。また一度拒否すれば翌日まで点数補充試験を受けられなくなる。
文月生は一度の敗北で参加権が消失し、その後の特別戦そのものに参加できなくなる。
文月生にも一勝毎に報酬がある。最後まで参加権を保持していれば生存報酬も与えられる。こちらも報酬の詳細は担任が請け負う。
両校生ともに一戦して点数を消耗しても勝者は元の点数に回復する。
両校生ともに基礎点数を上げたい場合補充試験を受けなければならない。
試験召喚勝負の科目は挑む挑まれるに関係なく、高育生に選択権利がある。
試験召喚勝負の対戦申請は両校生ともに配られたタブレットと腕時計型デバイスを用いる。
対戦申請はタブレットを通して腕時計型デバイスに送られる。有効範囲は半径5メートルである。
タブレットは不携帯でも問題ないが、腕時計型デバイスは試験中取り外してはいけない。
「以上が学園個人召喚特別戦のルールである。それぞれのクラスに別れ二十分間の質疑応答を行った後、特別戦が開始される」
教師のスライドを用いた説明が終わり、体育館では各担任教師らしき人物がクラスを誘導している。
高育側も同様に引率で来てたそれぞれの担任に誘導され他と距離をとった場所に集まった。
「まず、お前たちが気になっているだろう報酬について教える。事前に勘づいてたプライベートポイントであたりだ」
茶柱先生のその言葉で真っ先に喜びそうな池は微妙な顔をしている。試験召喚勝負で勝つことが出来るか不安なのだろう。
「詳しくいうぞ。お前たちは一勝するごとに○〇プライベートポイントを得ることが出来る。なお勝利した文月生のクラスに対してポイントの補正が入る。例えばAクラス生に勝利で○〇×1.5 Bクラス生に勝利で○〇×1.4の倍率だ。Fクラスは補正なしで上に行くほど0.1上がるということだな」
「つまり文月Aクラスに配置されてる坂柳さん高育Aクラスの五人は、文月Aクラスと戦えないので最大でも一勝毎に1.4倍のポイントしか貰えない訳ですね」
「逆に言えば勝てる前提なら文月Fクラスに配置されてる私達高育Dクラスの5人はポイントの上限が一番高いってことだね」
茶柱先生の説明に堀北と櫛田が反応する。確かに、この試験配置がFクラスなのはアドバンテージといえるだろう。最もそれは学力で文月Aクラスを上回れればの話だ。
Fクラスに配属された面子で恵、池、本堂が文月Aクラスに勝てるとは可能性は無いに等しい。俺を除いて堀北ぐらいしか期待できないかもしれない。
「先生文月生ってテストの点数どれぐらいなんですか?」
「それは応えられる質問ではないな。試験のルール関係しか私は話せない」
池が自分で勝てるのか知りたくて漠然とした質問をしたが、俺たちにとってそれは無視できない要素だ。いくら得意科目を押し付けられるとしても、相手の実力がわからなければ試験召喚勝負を挑むのに躊躇する。文月学園生の学力はクラス順以外未知数だ。だが仮に文月Aと高育Aが同程度の学力なら、この特別戦一方的なものになるだろう。
「先生対戦申請を同時にした場合、受理されなかった方は次に予約されるんでしょうか?」
「予約されない。勝負中に申請も出来ない。勝負が終わったタイミングでまた申請するしかない」
「対戦は他校生としかできないんですか?」
「そうだ。今回学校が同じもの同士の対戦は許可されていない」
「三日間の5・6時間使うならそれ以外の時間はどうするんです?」
「普通に時間割通りの授業だ。だが点数補充試験はその時間でも行える」
「――――――」
茶柱先生への質問が大体終わり、もうしばらくしたら特別戦が始まるというタイミングで堀北が須藤に声をかける。
「須藤君、あそこにいる……何故かアイアンクローを受けてるFクラスの吉井君に勝負を挑んでくれないかしら」
「おういいぜ! でもFクラスでいいのかよ? 情報収集なら寛治にAクラス特攻かましてもらった方がよくねぇか?」
「おい! 人を捨て駒にするなよ!」
「特攻したとこでテストの点数しかわからないじゃ流石に損よ。池君でもDクラスまでなら勝てるかもしれないのだし。それにまずは召喚獣勝負ってものを詳しく知りたいわ」
「堀北もひでぇ!」
堀北の提案は悪くない。俺達は召喚システムを説明されただけで実際に試していない。文月生からいきなり勝負を仕掛けられない限り、須藤の勝負を見学してシステムを把握できるだろう。
そうして特別戦開幕のアナウンスが流れた。
『ただいまより、学園個人召喚特別戦を開始いたします』
須藤の動きは速かった。すぐさま吉井に近づきタブレットを操作し対戦申請を送る。次の瞬間、吉井の腕時計型デバイスが音声を発した。
『対戦を受理。科目国語。お互いに試験召喚獣を召喚してください。』
「そんないきなり!
「そんな感じか
吉井が慌てながら召喚獣を召喚するために必要な詠唱を行う。それを見ながら須藤も追随する。
デフォルメされた二人を模した召喚獣が魔法陣から現れる。吉井の召喚獣は黒の学ランと木刀を携えた不良のような姿をしている。対する須藤の召喚獣はバスケの試合着に身を包み、バスケットボールを手に持っている。本人の要素をくみ取った姿なのだろうことは想像に難くない。
「うお、まじでちっちぇ俺だな! んで点数が――」
文月Fクラス 吉井 58点 VS 高育Dクラス 須藤 124点。
「よし、勝ってるぜ」
互いの点数が表示され関係ない俺達にも見ることが出来た。順当に行くならこの点差は吉井に厳しそうだが果たして……。
この試合に注目してるのは俺達高育Dクラスだけでなく、両校の大多数が視線を向けている。他でやりあう気配はないので、大勢がこの試合で今後の動きを考えたいのだろう。
「動かしづれぇな……!」
須藤の攻撃が当たらない。自分で言うように操作が簡単でないこともあるのだろうが、それ以上に吉井の召喚獣の動きは素早い。これが慣れの差であるのかは他者の試合を見なければわからないが、おそらくは吉井個人が操作を得意としている可能性が高い。
「これでもくらえや!」
いい加減攻撃を当てないと、ヒットアンドウェイで地道に削られている点数が横ばいになり、アドバンテージが無くなると考えた須藤が召喚獣にボールを投げさせる。
迫りくるボールを紙一重で吉井の召喚獣が躱す。
「ふん! その程度の軌道完璧に読み切れるさ――ぐぇ!」
が、ボールが壁でバウンドし吉井の召喚獣の後頭部に直撃する。なぜか本人にも当たったかのように、吉井は後頭部を抑えながら転がり始めた。
「よくわからねぇがチャンスなら容赦しねぇ! いけ!」
絶好の機会を逃すまいと、須藤が召喚獣を一気に近づけさせ格闘戦に持ち込む。正解の判断だ。今までを見るに中距離では須藤に勝ち目が薄い。近距離に殴り合いの方が可能性はあるだろう。
殴り合いを始めて互いの点数がさっき迄と比較にならない速度で減少していく、割合は須藤の方が高い。攻撃を当てる回数の違いが如実に表れている。それでも足掻く須藤だったが決着はついた。
吉井 23点。
須藤 0点。戦死。
「負けたか……」
「あ、あぶなかった……」
頭を掻きながら悔しそうに呟く須藤と、心底ほっとした顔を浮かべる吉井。結果は有利だと思われた須藤の敗北。あの程度の点数差は覆せることが証明された。
「戦死者は補習!」
「うお、なにすんだ!」
どこからともなく現れた教師が須藤を抱える。Fクラスの担任で鉄人というあだ名で呼ばれている人物だ。
「ルールに書いてあったろう。戦死者は補習だと、補習室まで連行させてもらう」
「連行って罪人かよ!」
「問答無用!」
そういって須藤は抱えられながら補習室に連れていかれた。戸惑っている高育側とは違い文月側は気にも留めていない。召喚勝負の敗者がああなるのは日常なのだろう。
多少の驚きはあれ、知りたかった召喚獣の試合を観戦できた高育生が一斉に動き出すかと思った矢先、坂柳が動いた。
「失礼、あなたが姫路瑞樹さんですよね? 対戦をお願いします」
Fクラスの姫路に坂柳が対戦申請を行う。それに両校がどよめいた。
「えっ、構いませんけど……なんで私なんですか?」
「私が戦ってみたいのは文月Aクラスですが、配属クラスな為ルール上戦えません。そしたら一名だけ私が戦えるAクラス並みの生徒がいると教えて貰えましたので、足を運んだ次第です」
姫路瑞樹はこの学力順のクラス制度において、在籍クラスが釣り合っていない生徒であるという坂柳の発言は周囲の文月生の反応を見るに正しいらしい。この特別戦で相手の学力は重要な情報だ。詳細が明かされたいま、文月生が簡単に情報を開示するとは思えない。坂柳は文月生の学力を事前に探っていたのだろう。
『対戦を受理。科目社会。お互いに試験召喚獣を召喚してください。』
「
「
文月Fクラス 姫路 428点 VS 高育Aクラス 坂柳 444点。
両者の詠唱後、魔法陣から召喚獣が姿を現す。
姫路の召喚獣は鎧と大剣を装備している。対する坂柳の召喚獣の装備は鎧とレイピアだ。先ほど戦っていた二人の召喚獣よりも装備の質は高い。テストの点数で装備の質も変わってくるのだろうか。鎧は形状が、武器は種類そのものが違う二人の召喚獣だが、一点だけ同じ装備の腕輪を身に着けている。あの腕輪は須藤達にはなかった。
そんな分析をしていると、二人の召喚獣の点数を知った周囲が騒ぎ始める。
「両者400点越え!」
「嘘だろ! 姫路が点数で負けてるのか!」
「主席レベルの点数とる相手に召喚獣勝負なんて挑まれたくねぇよ!」
「一科目で400なんてとれるものなの!」
「いくら問題数が無制限だからって上限たかすぎるでしょ!」
「あの人が主席に近いっていってもその下の人たちも300点とかはとってそうなの無理ゲーじゃん!」
文月高育両校の生徒が悲鳴じみた悲観を垂れ流す。1つ1つの発言を精査することは出来ないが、坂柳と姫路が主席に近い点数を取っていることは間違いないのだろう。
「周囲が騒がしいですが、構いませんよね?」
「大丈夫です」
坂柳は悠然と佇んでいるが、姫路は一度深呼吸し心構えを作っている。互いの準備が整い、戦闘が始まった。
二人の試験召喚勝負は先ほどより派手な攻撃の応酬を繰り広げている。だが、召喚獣の操作は吉井の方が明らかに高い。
坂柳はもちろんのこと、姫路の操作能力も吉井以下ということはやはり吉井の操作能力は高いのだろう。
「須藤君がいったように扱いが難しいのですね」
初めての召喚でトップ層を相手にするのはいくら坂柳でも厳しいだろう。確かに点数は勝っていたが、点数差は須藤と吉井より少ない。いくらでも覆せる。そもそもFである姫路にわざわざ勝負を挑んだ時点で、坂柳は本気でプライベートポイントを狙ってるのかも怪しい。坂柳の最適解は文月Bクラスを淡々と狩ることだ。姫路と戦うのは文月Aクラスの推定戦力を他の高育クラスにも知らせることになる。坂柳の真意は掴めないが勝負は進行していく。
「ですが、掴めてきました」
坂柳の召喚獣が渾身の一撃を躱して急所に突きを放つ。
数分の攻防で逆転していた点数差が縮む。それでもお互い点数が0になるまでまだ余裕がある。だが、このままいけば坂柳の勝利にも可能性が見えてきた。
そう思った瞬間、姫路の召喚獣の腕輪が光りレーザーが放たれた。
必殺技。
頭に浮かんだのはそのような言葉だ。
レーザーの直撃を受けた坂柳の召喚獣は点数をすべて失う。姫路の方も点数が大幅に減っている、必殺技を放つ代償に点数を消耗するのだろう。
姫路 53点。
坂柳 0点。戦死。
「……なんとか勝てました」
「……なるほどあの腕輪は特殊能力の発動媒体といったところなのですね」
勝利に安堵してる姫路と、自分の敗因を分析する坂柳。勝者と敗者は決定した。
あの必殺技は腕輪を持った召喚獣だけが使えるのだろう。この二戦で俺が知るべきことは大方知れた。有意義な観戦だった。
「戦死者は補習!」
鉄人が再び現れる。須藤のように坂柳を無理やり抱えようとはせず、一度杖を受け取り声をかけながら抱えた。……結局抱えるのか。
「これで私の今日の挑戦権は失くなりました。Aクラスの皆さんは各々好きに動いて構いません」
坂柳は鉄人に抱えられ近くの高育Aクラス面子にそう伝える。
「補習なんて初めてなので少し楽しみです」
俺の傍を横切るときそんな一声をかけて坂柳は補習室に連行されていった。
坂柳が去った体育館では、クラスで相談する生徒、対戦を申し込もうとする生徒、逃げ出す生徒が散見され始めた。
「それでどうすんの? 私たちはFクラス生とは戦えないしEクラスの人探して戦うの?」
「軽井沢さん達はそうすべきね」
「うわー嫌な言い方。堀北さんはもっと高いクラスに挑むんだ」
「えぇ。私はとりあえずCかBクラスの人を探すわ。綾小路君は?」
高育Dクラスでも簡単な作戦会議が開かれる。
支給されたタブレットで文月生のクラスと名前と顔は把握できる。流石に成績は開示されていないが試験召喚勝負を申請するかどうかの指標にはなる。
堀北の言うように軽井沢や池、本堂にはEクラスに当たってもらった方がいいだろう。堀北自身も召喚獣の操作になれたいらしくC・Bクラスで経験を積むらしい。
そんな堀北が俺の行動を訪ねてきたが、答えは既に決まっている。
「俺はAクラスに挑む」
「まじ?」
「私より学力が高いからAクラスでも問題ないとそう言ってるの?」
「別にそうは言って無いが。勝率がそれなりにあるなら出来るだけ高ポイントを狙うだけの話だ」
「え、綾小路君Aクラスに勝てるの?!」
いつの間にか横で聞いていた吉井が驚きの表情を浮かべながら聞いてくる。……いくら俺達とはルール上戦わないとはいえ敵対関係の学校生の輪によく入ってこれるな。というかEクラスに配置されてる櫛田と平田は普通に敵だぞ。
「さっきの姫路の点数が上位らしいからな。ある科目なら俺は引けを取らない」
場面転換。
「根元、取引しようじゃねぇか」
「取引だと?」
坂柳と姫路が試験勝負をしてる同時刻。体育館の裏手で高育Bクラスの龍園と文月Bクラスの根元が向かい合っていた。
「お前は坂柳の点数を見た瞬間こそこそと逃げ出したよなぁ」
「逃げ出した訳じゃない下手に戦って苦手科目でも知られる愚を犯すつもりがなかっただけだ」
「そうかよ。強がるのは好きにしな。ただお前はこの特別戦生き残りたいんだろ?」
「報酬が魅力的だからな」
龍園の見下したような態度にイラつく根元だが周囲にアルベルトと石崎が控えており、下手に移動できず仕方なく龍園と話し合いに応じている。
「取引ってのはお前を護衛する代わりに、文月生と召喚システムの情報を提供してもらうことだ」
「護衛?」
龍園が発した単語に惹かれ根元が聞き返す。そんな根元のあからさまな食いつきにククッと笑いながら龍園が詳細を話す。
「戦闘の拒否は出来ないが時間切れまで戦闘を長引かせることは禁じられてねぇ。うちは学力順じゃねぇからな。BクラスでCクラスに配置された一人は下位クラスにも勝てるか怪しい。そいつとだらだら戦わせてやる。終わり際の勝利を添えてな」
ルールで戦闘において明確に禁止されているのは文月生の戦闘拒否だけだ。細かい補足などは質疑応答の時に伝えられたが、戦闘を長引かせることに対しての罰則はない。
「そうなれば最終的に生存報酬+三勝だ。お前個人としては悪くない取引だろ。お前が提供するのは他人の情報とシステムの詳細だけなんだからな」
取引で生じるメリットを根元が思案し始めた段階で、龍園は根元が取引に応じる事を確信する。Bクラスで午前中過ごして根元という人物の底は知れていた。自分の得の為に他者を利用する典型的な小物。龍園にしてみれば扱うのは容易い手合いである。
「……いいだろう。その話に乗ってやる」
案の定乗ってきた根元から知るべき情報を聞きながら、龍園は今後の動きを詰めていく。
場面転換。
「貴方に対戦を申し込むわ」
運動場で堀北は文月Cクラスの生徒に勝負を仕掛けていた。
体育館は早期に戦場と化し、出遅れた堀北は違うエリアで試験召喚勝負を行っている。
『対戦を受理。科目理科。お互いに試験召喚獣を召喚してください。』
「
「
文月Cクラス 者無 154点 VS 高育Dクラス 堀北 394点。
「うっそこの子もAクラス並みなの!」
高い点数に驚く相手を横目に堀北は自分の召喚獣を観察する。
武将のような鎧と薙刀を装備している、二頭身の自分。見た目は随分と可愛らしい。だが、腕輪はしていない。
堀北も腕輪で必殺技の様なものが使えると勘づいている。それが自分の召喚獣になく坂柳の召喚獣にあった理由はおそらく点数がボーダーに達していないのだと推測する。
(あの時の文月生の反応からして400点ってとこかしらね)
そんな堀北の思考を他所に対戦相手の召喚獣が動き出す。
単調な動きだ。とりあえず距離を縮めて攻撃してやる! といった思いは伝わるが、脅威は感じない。
そう思った堀北が余裕のある回避を召喚獣に取らせようとしたが、結果少し危ないタイミングでの回避となった。
(思った以上に扱いは難しいようね……!)
須藤や坂柳の発言で操作が容易くないことは知っていた。それでも実際にやるまで感覚は磨けない。相手との点数差が倍以上あることで堀北に焦りはない、下手に引き延ばす気はないがある程度の操作感の把握に時間を割くことにした。
「点数差がきつすぎる!」
堀北と文月Cクラス生の勝負は終始堀北の優勢で終了した。
「お見事だね、堀北さん」
勝負が終わり気を抜いた堀北に一之瀬が声をかける。
「何か私に用かしら?」
「軽い情報交換でもしようかなって」
「私は一戦終わったばかりで体力を消耗することぐらいしかわかってないわ」
「私も戦ったけど思ったよりきついよね。私達高育生は連戦が前提だから気をつけなきゃ」
「人数差が約八倍だもの仕方ないわ。そのお陰で高育に有利な試験なのかもしれないけど」
「やっぱり有利だよね。坂柳さんがAクラス生上位レベルの姫路さんと互角ってことは、Bクラス生以下を蹂躙できるってことだし」
「それは貴方やAクラス生、後は葛城君あたりにも言えることでしょ」
「そうだね、でも科目選択権がこっちにあるのはやりすぎだと思うよ。一日ごとの挑戦権回復は流石に必須だけど」
「こちらが不利になる要素でないなら問題はないわ」
「まぁ、それはそうだよね」
軽い情報交換そのことに嘘はないだろうが、一之瀬の目的は他にもあるだろうと警戒をする堀北。
そんな堀北の警戒を一之瀬は気にせず現状の整理と発見した要素の意見交換などはスムーズに行われていく。
「あの腕輪のボーダーラインは400点だよ」
「断言できるということは貴方の点数は……」
「最高が402点で腕輪付き、その下の397点では付いてなかった」
「私が一戦終わるまでに二戦もしてたのね」
点数のボーダーは400点で間違いないだろう。おおよその推測が当たっていたが、だからと言って何かに影響を与える情報でもない。初戦の疲れももう感じない、ここらが潮時だと堀北は判断する。
「そろそろ次の対戦相手を探すわ」
「うん、付き合ってくれてありがとうね」
一之瀬の目的が何であったのかはわからなかったが、情報交換でしれた情報に有用なものはあった。意義は十分にあった。
場面転換。
「自クラスで鎮座とは王者らしいな」
俺は、体育館を離れAクラスの教室の前に来ていた。
体育館で数多くの試験勝負が行われたが、どれも文月側は下位クラスが挑まれていた。
A・Bなどの上位クラスは集団で教室に戻る余裕を見せていたため無駄に探す手間はなく助かる。
こちらの情報が少ないため一日目は静観し、二日目に動く算段でもたてていたのだろう。
「失礼する」
声をかけドアから教室に入る。自習をしてた多数の視線が俺を捉える。そんな中から一人の生徒が近づいて来た。
「あなたさっきの勝負見てたはずよね。それでうちに来るってのは相当自信があるの?」
「勝算がなければ来ない」
勝気な女生徒だが、その見た目に見覚えがある。Fクラスにいた木下秀吉と瓜二つだ。双子の姉弟といったところか。
「そう厄介ね、それで誰に対戦を申し込むわけ? 私?」
「わざわざ自信のありそうな人物に初戦で挑む気はない」
「勝算があるくせに臆病ね」
「あるだけで絶対ではないからな」
周囲の雰囲気や彼女自身の立ち振る舞いから考えてこのクラスの中心人物の一人なのだろう。ここで彼女を討つ必要性はない。
今日以降、高育に戻っても噂など広まるだろうが既に見せた範囲を補強するだけの戦術しか俺はとる気がない。
得意科目で一番高いプライベートポイントを狙いに行ったという誰でも思い描ける戦術しか。
クラス代表やそれに近しい人物を進んで討つのは少し過剰だ。少なくとも初戦で戦う相手ではない。なので俺は、周囲を見渡し適当な人物に対戦申請を送る。
『対戦を受理。科目数学。お互いに試験召喚獣を召喚してください。』
「俺か……
「よろしく頼む
文月Aクラス 田中 245点 VS 高育Dクラス 綾小路 600点。
互いの召喚獣が姿を現した瞬間、Aクラスに波紋が広がった。
「6、600⁉」
「得意科目だとしてもこれは……!」
「うそでしょ!」
周囲で観戦気分だった生徒が驚愕を露にし、俺から距離をとる。半径5メートルに間違っても入りたくないのだろう。
最初に出迎えた女生徒も目を見開いている。それでも彼女は逃げるそぶりを見せていない。
「こうするのか」
軽い動作を召喚獣にさせる。なるほど、須藤や坂柳が手古摺った訳だ。召喚獣の操作は慣れが必要だな。だが、俺は召喚獣を使いこなすつもりはない。仮に吉井並みに使いこなしてみれば、まだ俺の事を数学が得意とだけ思ってる高育生でも疑念を抱く。なのでこのままの操作の腕前に留めておく。
「いくぞ」
「マジ……かよ……」
未熟な操作でも圧倒的な点数差により一撃で相手の召喚獣の点数は無くなる。既に次の対戦申請は送った。
――さぁ始めるか。
放課後Fクラス教室。
「随分暴れたそうね」
帰り支度を始めた途端、堀北から呆れたような視線を向けられる。
「数学だけは得意だからな」
「体力を消耗する点の弁明は? 10戦以上なんて誰もしなかったわ」
「基本短時間で数回攻撃を当てるだけだ。そこまでの消耗はしなかった」
「そう。一応の筋は通るわね」
先程の俺の試験召喚勝負の情報は駄々洩れらしい。元より隠せると思っていない。する必要もない。
既に俺が数学を得意としてることは、高育に広まっている。それの延長線上でしかない。
「勝負自体を12回出来た理由は? 対戦を申し込まれないように逃げ隠れしてる生徒が多かったはずだけど」
「文月Aクラスは教室に固まっていた。誰か一人でも逃げれば違ったろうが」
「プライドの所為で逃げ出せず、貴方に狩られたと。……それはまぁいいけど貴方一度戦闘を拒否したそうね」
最初に会話をした女生徒が三戦目に対戦申請を行ってきたが、俺はそれを拒否ペナルティーを受けることで回避した。
「点数を知られた状態で申請されたんだ。負ける可能性を無くすために拒否した」
「貴方の点数は相当高かったらしいじゃない。ならそのままの点数で受けて立った方がいいはず」
「高い点なのは反応で分かったが、俺と同じ数学が一番得意な生徒ならとれないとまでは言えない点数だ」
「拒否して一割減でも他の生徒には勝てると?」
「俺はそっちの方が事を優位に運べると思った。一割減してる相手から逃げるなんてのはしたくないだろうからな」
「……余計に逃げ出しづらい環境に仕立て上げたわけね」
俺の行動の意味を知ろうと質問をする堀北にそれらしい理由を話す。
戦闘を拒否した理由は文月Aクラスを効率的に狩るのと、高育側に俺が警戒して勝負を拒否する一般的な生徒だと喧伝する部分が大きい。
他にも拒否ペナルティーの詳細を確認するのに丁度良かった。それに負けても翌日の挑戦権がある。勝敗はどちらでも良かった。
「……いつまで堀北さんと話してるのよ」
恵が横から俺を小突いてくる。
「ある程度聞きたいこと知れたわ。もういいわよ」
「だそうだ。恵の方はどうだったんだ?」
「二勝できたわよ! ……Eクラスだけど」
俺が体ごと向いて話しかけたのが嬉しかったのか、声を弾ませながら答える。
二勝か恵の学力を考えれば上々のスタートだろう。
「清隆は12勝とかほんとやばいよね」
「聞き耳は立ててただろ。科目選択の恩恵が大きい」
「でも、それは数学で高得点取ったからこそでしょ。すごいって! 戦うとこ見たかったなぁー」
彼氏の格好いい姿を目に収めたかったと彼女なら思うものだ。
あの光景が傍目に格好いいのかはわからないが、12連勝は目を惹く要素だろう。
「他の皆はどんな感じだ?」
「えっとね、堀北さんは五勝で櫛田さん平田君が四勝。池君本堂君は初戦で負けちゃった」
概ね順当な結果だな。……櫛田や平田が四勝か、確かに俺は暴れてたらしい。八勝辺りが無難だったか。
まぁ、ここから手を抜く方が不自然だ。明日明後日何事もなければこのまま独走するだろう。
「よう、一日目お疲れさん」
恵としばらく雑談していたら坂本達が手を挙げながらやってきた。
堀北が坂本の軽い声掛けに驚く。
「意外だわ。敵対してる関係上もう会話はないかもと思っていたのに」
「うちのクラスが一番やられたからな。でも対戦相手は違うしわざわざ険悪な雰囲気にしても互いに居心地悪いだけだろ」
「そうね。こちらとしては有難いわ」
「Fクラスでも参加権を無くした奴らは不満あるだろうが、学力メインじゃこうなって当然だ」
「貴方たちは生き残ってるのね……吉井君も?」
俺達の周りに集まったのは、坂本・姫路・島田・土屋・吉井・木下・霧島の七人だ。
「ちょっと待って! まるで僕が生き残ってるのおかしいみたいな反応はおかしいよね!」
「驚くのは当然だが、こいつの生命力はちょっとしたもんなんだ」
「数日間水と塩で賄うこともあるしのう」
「……驚異的」
「それは意味合いが違うんじゃないかしら」
試験が始まる前と変わらずの態度で雑談の空気が出来上がる。ただ一つ疑問がある。
「何で霧島がいるんだ?」
「私は雄二の妻」
「……カップルだったのか」
「違うぞ! 断じて違う!」
Fクラスの坂本とAクラスの霧島。組み合わせとしては意外性に富んでいる。だが、単純な恋人同士ではないらしい。
「だけどもう1つ用事がある」
そういって霧島は俺に視線を向ける。
「明日私と勝負して」
「断る」
「Aクラス代表として皆の敵を討つ勝負して」
「断る」
二度断ったら霧島は坂本の腕に抱き着き喋らなくなった。抱きつかれた坂本は逃れようと藻掻いている。
「もういいの?」
そんな霧島の行動が気になった恵が疑問をぶつける。
「確約できなかったけど明日対戦を申請するのは変わらない」
「そっかーでもクラスの代表って偉いね。皆の為に敵うちやろうなんて」
「優子達に頼まれた」
Aクラスの敵討ちを宣言した霧島だが、本人の意思より周囲の要望で動いてるようだ。
霧島は学年主席。点数を互角と見積もった場合、操作能力で劣る俺は負けるだろう。
文月Aクラスの総意は俺を一度倒すのに傾倒しているらしい。
他の文月クラスもただ狩られるのを待つばかりでないだろう。だが、圧倒的に不利なこの試験で出来ることは限られる。どこまで足掻くか気になるところだ。
初日、学園個人召喚特別戦への参加権を失った文月生は総勢80名。(Aクラス17 Bクラス7 Cクラス10 Dクラス13 Eクラス15 Fクラス18)
初日終了時点。
個人成績 一位綾小路 勝利数12(Aクラス12)
二位一ノ瀬 勝利数7(Aクラス1 Bクラス4 Cクラス2)
三位葛城 勝利数6(Aクラス2 Cクラス4)
*個人成績の順位は勝利数が参照される。