恐る恐るニュクスの顔色を窺うと、大きなため息をついたところだった。
「お姉ちゃんはひどい」
「いやあ……。だって、誤解されたままは嫌だし」
「侵略者は威厳が大事。仲良くしようとするとなめられるから」
なんだろう。ちょっと実感がこもった言い方だ。まるで……。
「経験がおありで……?」
「うん。身の程を弁えない連中がわいたから、殲滅した」
「あ、はい」
『ア、ハイ』
『かわいいと思ったけど、侵略者なんだよねこの子』
『むしろ今の状態が奇跡に近いのでは?』
『アヤカは薄氷の上でサバゲーしてる状態だと思う』
『どんな例えだそれw』
うん。かなりぎりぎりを攻めた気がする。
ニュクスの言いたいことは分かる。あくまでニュクスは侵略者。今後もきっと好き放題やるんだと思う。お伺いなんて立てずに、やりたいことを好きなだけ。
そんな子がみんなに甘くやっていたら……。まあ、周りは排除に動くだろうね。多分今も、どこかでそんな計画が絶対あるだろうし。
分かる。分かるんだよ。ニュクスの言い分も。
「それでも私は、ニュクスのかわいさを伝えたい!」
「意味が分からない……」
「こんな感じです」
うりうり、とニュクスの喉元をこちょこちょする。ニュクスはちょっとびっくりしたけど、やがてふにゃっと気持ち良さそうに目を細めた。
「こちょこちょ」
「うぬぅ……。あらがえぬ……」
『なんだこれ』
『かわいいw』
『子猫かな?』
子猫みたいでしょ。つまりニュクスはかわいいんだよ!
「まあ、そんなわけで。ニュクスのかわいさを私は伝えたかったわけですよ」
『十分伝わった』
『推せる……!』
『でもあんまり調子乗るなよ!』
それは気をつけるよ。でもよっぽどじゃない限り、怒らない……はず!
「私は節度をわきまえる女です」
『お姉ちゃんと呼ばせている件について詳しく』
「そろそろいい時間なので配信終わりますおやすみ!」
『おいwww』
『逃げやがったw』
『まだ夕方だぞこらw』
空気を読んでくれた文ちゃんが配信を止めてくれた。イヤホンからコメントの音声が流れなくなる。とりあえずこれで終わり、だね。ニュクスのかわいさを伝えられて満足だ。
そうして振り返ったら、ニュクスがジト目で私を見ていた。
「お姉ちゃん」
「はい」
「プリンのお代わりで手を打ってあげる」
「仰せのままに」
むしろそれぐらいで許してくれるならありがたいよね!
冷蔵庫にプリンを取りに行くと、文ちゃんがお腹を抱えて震えていた。ちょっとひどいと思う。いや、楽しんでくれたのならいいけど。
「文ちゃんも食べる?」
「いただきます!」
というわけで、みんなでおやつだ。ぷりぷり怒っていたニュクスも、プリンを渡すとあっさりと機嫌を直してくれた。ちょろい。
「いや、本当にごめんね?」
「いいよ、もう」
「後悔も反省もしてないんだけどね」
「…………」
うーん……。ニュクスのジト目もかわいいと思います! あ、文ちゃんからめちゃくちゃ呆れた視線を感じる。いや、冗談だから。ほんとほんと。
「それよりもさ。ニュクス、この先どうするの?」
「私の威厳?」
「それはもうないから」
「むう……」
この先は是非ともかわいい路線でお願いしたいところ。いやそうじゃなくて。
「ダンジョンだよ。一日で宿だよ? いくつか複製するとして、他の施設とか、どうするの? めちゃくちゃ時間かかりそうだけど」
「がんばって考えて」
「そんな無茶な」
なんなの? もしかして私に全部考えさせるつもりなの? さすがにそれは不可能だよ。年単位で時間がかかる。間違いなく。
「もぐもぐ……。先輩、それならわたしにいい考えがあります!」
「聞こう!」
「はい! 募集しましょう! みんなにたくさん考えてもらって、先輩が選ぶ! これならどうですか!?」
おお……! これはわりと本当にいい案だと思う! 私が全部考えるなんてほとんど不可能だけど、誰かが考えたものを選ぶだけならそこまで時間はかからないんじゃないかな!
「どうかなニュクス。結構いい案だと思うけど」
「ふむ……」
スプーンをくわえたままゆらゆら揺らすニュクス。はしたないのでやめなさい。スプーンを取り上げると唇を尖らせた。そんなことしてもかわいいだけだよ。
「最終的にお姉ちゃんが決めるなら妥協する」
「なんでそんなに私に決めさせたいの?」
「地球人代表として?」
「重たい……!」
そんな代表には心の底からなりたくなかったよ!
ともかく。ニュクスから許可も取れたし、文ちゃんの案でいってみよう。詳細は全部任せるとして……。
「それじゃあ、先輩。今からSNSで募集かけますね。チャンネルのページに紐付けして……。募集と、連絡先のアドレスと……。これでよし」
「どんな案が来るか楽しみだね」
「楽しみ」
妥協だなんて言いながら、ニュクスもみんなの案には期待してるらしい。ちょっとだけうきうきしているのが声音で分かった。
あとは結果待ち、だね。文ちゃんが言うには、明日の朝にはそれなりの提案が来ているだろうとのこと。つまり、明日の朝はどれを採用するか選ばないといけないってことか。
うーん……。結果的に大変そうだけど、一から考えるよりましだよね!
「先輩、今のニュクスちゃんの影響力、なめてますね……」
「え? な、なにが?」
「いえ、何も。期待してください」
待って本当に怖いんだけど……?
私が頬を引きつらせていても、文ちゃんは楽しそうに笑うだけでした。本当に、怖い。
ここまでが第二話となります。
次話からは彩花の学校復帰……というより、作中では月曜日なので学校です。
嫌がらせを受ける彩花と当然のように介入するニュクスにご期待ください……!
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