天敵は子犬と子猫
「なにこれ……」
私、望月彩花(もちづきあやか)は目の前の光景に唖然としてしまった。
「や、やめてよぅ……。こっちにこないでよぅ……」
「わん! わん!」
「にゃあ!」
幼い女の子が、子犬と子猫にいじめられてる。そんな、光景。
子犬と子猫といっても、いじめられていることに変わりはないから、すぐに助けてあげないといけない。そうは思うんだけど、どうしても判断に迷うことがあった。その女の子が、あまりにも見覚えのある子だったから。
透き通るような青い長髪に黒いローブの女の子。整った顔立ちも含めて、それは三年前に見た姿そのままだった。
三年前。世界中の人に魔法の種なんてものがばらまかれた日。あの日以来、多くの人が魔法を使えるようになって、みんなが期待して……。結果的に、なんだこれ、と呆れたもの。
そんな魔法をばらまいた自称侵略者ニュクス。その姿そのものだった。
侵略者が子犬と子猫に負けてる。うずくまって子犬と子猫に肉球パンチされてる。なにこれ。ちょっとうらやましい。
正直、無視して帰りたいけど……。さすがに放置はかわいそう、かな? ただのコスプレかもしれないし。
「えっと……。大丈夫?」
子犬と子猫を抱き上げてどけてあげる。どっちも首輪がついてるから、飼い犬に飼い猫だね。逃げてきたのかな?
おとなしくなった動物をもふもふしていたら、女の子が立ち上がった。
「うう……。ありがとう、助かりまし……」
そして私を見て固まった。
わなわなと女の子が震えてる。その顔は真っ赤に染まっていって……。そして、言った。
「か、感謝する、人間さん。私はニュクス。侵略者である。その……。これにはわけが……」
「わん」
「あ」
「むぎゅ」
子犬が抜け出して女の子……ニュクスの顔に突撃した。そのまま仰向けに倒れてまた肉球パンチされてる。なんだろう。子犬に気に入られる香りでもあるのかな。
「や、やめてよぅ……どいてよぅ……」
侵略者の姿がこれ……?
よいしょ、ともう一度子犬を抱き上げたら、女の子が体育座りをしてしまった。
「うぅ……。こ、こんなはずじゃなかったのに……。もっと、もっとこう、威厳が……威厳を出して……。うぅぅ……」
泣いちゃった……。
「えっと……。とりあえず、その……。私の家、来る?」
そう聞いてみると、女の子がこくんと頷いた。
子犬と子猫の首輪には住所が書かれていて、すぐ側の家だったから引き取ってもらった。家の人もその二匹が脱走していることに気付いていなかったみたいで、とても驚いたけど……。ちょっと不安になるね。ちゃんと面倒みてるのかな? とても丁寧に謝ってはくれたけど。
それはともかく。女の子を自分の家に連れて帰った。
私の家は二階建ての家で、周囲と比べてもわりと一般的な広さだと思う。一階と二階に三部屋ずつあって、小さいながらも庭があった。
「ここが私の家だよ」
「わあ……」
女の子はそんな私の家を見て、興味深そうにきょろきょろと見回してる。手を引いて、家の中へ。今の時間は誰もいないから、そのまま二階の自室に向かった。
「どうぞ。椅子でもベッドでも好きな方に座ってね」
「あ、うん……。えっと……。じゃあ、椅子で……」
「どうぞどうぞ」
勉強机の椅子に座らせてあげる。そうして座っても、女の子はあっちこっちきょろきょろ見てる。正直こうして自分の部屋を見られると、ちょっと恥ずかしいんだけどなあ。
私の部屋は、パソコンが置かれた勉強机とベッドがあって。部屋の中央には小さい丸テーブルとクッションを置いてある。テレビももちろんあるし、本棚も。壁には今着ている黒色のセーラー服をつるすためのハンガーをかけてある。
「それじゃあ改めて……。あなたは、誰?」
ちょっと信じられない自己紹介はされているけど、念のため。正直信じたくない内容だったし。
女の子ははっとすると、その場で立ち上がってローブを翻した。
「私はニュクス。侵略者である」
「あ、ジュースあるよ。飲む?」
「わあい。飲みます!」
ちょっと威厳のある顔が、すぐにふにゃふにゃした顔になってしまった。うーん……。チョロい。
一階の台所に向かって、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。コップに注いで、ついでにお菓子も適当に持っていこう。バタークッキーも一緒にお盆に載せて、自室に戻った。
女の子……ニュクスは椅子に座って大人しく待ってくれていた。私を、というより私が持っているお盆を見て目を輝かせてる。
なんというか……。こうして見てると、本当に普通の子供だ。今もバタークッキーに視線が釘付けで、左右に動かすと目で追ってきてる。子供だ。かわいい。
そのお盆を丸テーブルに置いて、ニュクスに言った。
「はい、どうぞ。美味しいよ」
「いただきます……!」
丸テーブルの側に座って、バタークッキーをぱくりと一口。するとニュクスは目を輝かせて、さらに一口。とっても美味しそうに食べてる。
そのままニュクスを眺めていたら、あっという間に食べ終わってしまって。
「あ……」
空になってしまった器を見て、そんな切なげな声を漏らした。
この子、わざとかな? わざとじゃないよね? そんな反応をされたら、新しいものを持ってきてあげたくなってしまうよ。さすがに自重するけど。